遺言・相続・遺産分割

  1. 続税対策について教えてください。
  2. 相続税はいつまでに申告・納付をする必要がありますか?
  3. 相続税の負担を軽減する方法がありますか?

オールワン法律会計事務所の弁護士・税理士が相続税対策を法務・税務の両面から分かりやすく解説します。

相続についての
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相続税への備えの基本

相続財産の評価を下げる・量を減らす

相続税額は原則として、
[個々の財産の評価額] × [財産の量]
によって決まります。
したがって、[個々の財産の評価額]を下げることや、[財産の量]を減らすことが相続税対策の基本になります。

相続税の特例を活用する

相続税には小規模宅地の特例等、さまざまな特例が用意されています。
したがって、こうした特例を活用することが相続税対策になります。

相続税の仕組みを理解する

相続税の計算では、まず正味遺産額から基礎控除額を控除して課税遺産総額を算出し、課税遺産総額を法定相続分で割付けて一定の税率を乗じて納税額を算出します。
したがって、基礎控除額を多くしたり、適用される税率を下げたりすることが相続税対策になります。

財産の評価額を下げる

不動産の有効活用

土地

相続税では土地は、路線価又は倍率方式によって評価します。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことで、路線価図では千円単位で表示されます。
(倍率方式とは、路線価が定められていない地域の評価方法で、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算する方法です。)

路線価方式における土地の価額は、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率等の各種補正率で補正後、その土地の面積を乗じて計算します。国税庁が発表する路線価は、国土交通省が発表する公示価格の80%で評価されることになっています。
そして公示価格は、一般の土地の取引価格の指標になるため、概ね実勢価格(実際の取引価格)に近くなります(例外もあります)。

1億円の取引価格で購入した土地の路線価はその80%、8,000万円となります。
(実際には、土地の売手が有利なら取引価格は上がり、買手が有利なら取引価格は下がる等、様々な条件によって取引価格は決まるのため、あくまで原則的なお話です)したがって、1億円の現金で土地を買うと、相続税の評価額を現金の80%にすることができます。

建物

相続税では建物は固定資産税評価額によって評価します。建物の固定資産税評価額は、新築時は請負工事金額の約50~60%が目安といわれています(家の規模・構造等によって異なります)。
1億円の現金で建物を建てると、その建物の評価額は約5,000万円から6,000万円になります。
したがって、1億円の現金で建物を建てると、相続税の評価額を現金の50~60%にすることができます。

アパート等の貸家

アパート等の貸家は、その家屋の固定資産税評価額から借家権割合を控除して評価します。
借家権割合は、借家権が権利金等の名称をもって取引される慣行のない地域を除いて30%です。
1億円で建物を建て、その建物をアパートとした場合は、

1億円 × 50% × 70% = 3,500万円 ※

となります。


固定資産税評価額5,000万円 借家権割合30%
すべての部屋が賃貸されているとします。

次にアパートが建てられている土地については、貸家建付地という基準で評価します。貸家建付地の評価は、次の算式で行います。
自用地の価格―自用地の価格×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
1億円で土地を購入し、その土地の上にアパートを建てた場合は

8000万円 ― ( 8,000万円 × 60% × 30% × 100%) = 6,560万円 ※

となります。


土地の路線価 8,000万円 借地権割合 60% 借家権割合 30%
賃貸割合 100% とします。

したがって、2億円の現金を持っている人が1億円で土地を購入し、その上に1億円で建物を建て、その建物でアパートを始めると、その土地・建物の相続税評価額は、

6,560万円 + 3,500万円 = 1億60万円

となり、相続税の評価額は現金の半分程度にすることができます。
もちろん、収益性の低いアパートを建てたりすると相続税で節約できる金額以上の損失が生じたりするため注意が必要です。

財産の量を減らす=生前贈与

暦年贈与(生前贈与)

暦年贈与とは、一人の人が1月1日からその年の12月31日までの1年間(暦年)に贈与を受けた財産の合計額に贈与税が課税される制度です(暦年課税)。

受贈者が贈与を受けた財産の合計額が暦年で110万円(贈与税の基礎控除)以内であれば、贈与税は課税されません
日本の相続税は課税財産が大きくなるほど税率が上がる超過累進税です。

相続税の速算表
課税価格 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

親から子や孫に財産を承継する際、超過累進税率の下では相続時にすべての財産を承継すると大きな税負担となってしまいます。
他方、生前贈与を活用して、財産を計画的・長期的に承継しておけば、相続時により少ない税負担で財産を承継することができます。
例えば、

[被相続人] 母 [相続人] 子2人[相続財産] 1億2,200万円

このケースでは、相続税額は1,200万円となります。 ※


1億2,200万円―4,200万円(基礎控除)=8,000万円
8,000万円/2(子の数)=4,000万円
4,000万円×20%-200万円=600万円
600万円×2(子の数)=1,200万円
(小規模宅地の特例等は考慮しません)

一方で、母が元気な時に子・孫4人に対して、10年間、110万円ずつ生前贈与をした場合、相続税額は440万円になります。※


1億2,200万円―(110万円×4人×10年)=7,800万円
7,800万円―4,200万円(基礎控除)=3,600万円
3,600万円/2(子の数)=1,800万円
1,800万円×15%-50万円=220万円
220万円×2(子の数)=440万円
(小規模宅地の特例等は考慮しません)

このように生前贈与を計画的にかつ長期的に行うことで相続税の負担を軽減することができるのです。
2024年1月1日以降の贈与については相続開始前7年以内に贈与された財産が相続財産に加算されます。

特例贈与財産

2015年1月1日以降、20歳以上の直系卑属(子や孫など)に贈与をする場合、「特例贈与財産」として一定金額以上の贈与については、贈与税の負担が軽減されることとなりました。
具体的には、年間410万円超の財産を贈与する場合、一般贈与財産(20歳以上の直系卑属に贈与する場合「以外」)と比べて贈与税の負担が軽減されます。

例えば、暦年で1,000万円贈与すると、一般贈与財産における贈与税額は231万円となるのに対して、特例贈与財産における贈与税額は177万円となり、その差額は54万円となります。

贈与財産の検討

現預金

生前贈与を実行する場合、その対象として最も利用されているのが現預金です。
現預金の生前贈与のメリットは移転コストがかからない点です。
また、相続税評価で現預金は額面で評価されるため、額面と相続税評価額に差異が生じません。

一方で、現預金の生前贈与は受贈者の無駄遣いや、受贈者の金銭感覚のマヒといった問題が生じます。
この問題を解決しようと、贈与者が受贈者名義の預貯金を管理すると「名義預金」として将来の相続税の税務調査等で申告漏れとして指摘される恐れが生じます。

不動産

金融資産はさほどないが広大な土地を有している地主等の場合、土地を生前贈与するといったニーズが高くなります。
不動産は持分で贈与できるため、現預金と同様に計画的な生前贈与ができます。

他方で、不動産の生前贈与は移転コストが高くなります
登録免許税は登記原因が相続の場合、固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は2%となります。
また、不動産取得税は相続の場合は課税されませんが、贈与の場合は固定資産税評価額の4%です。
(2024年3月31日までの措置として、土地と住宅用の家屋の場合は3%に軽減されています。)
さらに司法書士に登記手続きを依頼する場合、その費用も考えておく必要があります。

自社株式(取引相場のない株式)

企業オーナーの親族に後継者がいる場合、その後継者に対して自社株式を生前贈与するニーズが高くなります。
内部留保が大きな会社の場合、相続時に自社株式の相続税評価額が高くなりますが、換金が容易ではないため自社株式にかかる相続税納税資金を別途調達する必要があります。
そこで生前贈与で自社株式を後継者に移しておけば、こうした問題が解決できます。

一方で企業オーナーに後継者以外の指定がいる場合、後継者への自社株式の生前贈与はオーナーの相続時に特別受益として指摘される可能性があります。
(特定の相続人への生前贈与は自社株式に限らず特別受益の問題が生じます)
また、受贈者である後継者が急に会社を継がないと言い出したり、先に亡くなったりすると、それまでに贈与した自社株式を改めて移転する問題が生じます。

ジュニアNISAの活用

ジュニアNISAとは、20歳未満の人(2023年1月1日以降は18歳未満)が開設するNISA口座内の少額上場株式等の配当や譲渡益については非課税になるというものです。
年間投資上限額は80万円で、非課税投資額の最大は400万円(80万円×5年間)となります。
運用管理については、親権者の代理又は同意の下で行います。
原則として18歳になるまでは払戻しをすることはできません。

ジュニアNISAでは年間投資額の上限が80万円のため、親が子に年80万円を贈与し、子が親の同意又は代理によって全額をジュニアNISAに投資しても贈与税は課税されません。
さらに、子が贈与資金をジュニアNISAに投資すれば、相続税の調査でよく問題となる名義預金の問題も回避できます。

ジュニアNISAは、その取扱金融機関が親の代理又は同意の下で、子の財産として運用管理することになります。
取扱金融機関が管理することで、親の財産とは明確に隔離されることになるため、先に述べた名義預金といった問題を避けることができます。
また、子が資産の運用を学ぶことができるため、子の金融リテラシーを高めることができる効果も期待できます。
【注意点】

相続時精算課税の活用

相続時精算課税

相続時精算課税とは、受贈者の選択により、贈与時に贈与財産に対する贈与税を支払い、その後の相続時にその贈与財産と相続財産とを合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税を控除することにより贈与税と相続税を納税するものです。

適用対象者

贈与者は、贈与をした年の1月1日で60歳以上の父母、祖父母となります。
受贈者は、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の推定相続人及び孫である直系卑属です。

適用手続

相続時精算課税を選択する受贈者は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者の所轄税務署長に対して「相続時選択課税選択届出書」を提出します。

その他

相続時精算課税は、受贈者がそれぞれ贈与者を選択することができます。
したがって、父から贈与については相続税精算課税を選択し、母からの贈与については暦年課税を選択するといったことができます。

相続時精算課税の注意点

暦年課税に戻ることができない

相続時選択課税を一旦選択すると、暦年課税に戻ることができなくなります
その結果、暦年課税であれば暦年で110万円認められた贈与税の基礎控除が適用されなくなります。

暦年課税では、被相続人の相続開始前3年超の贈与については生前贈与加算がされませんが、相続時精算課税では贈与された時期に関係なく相続財産に加算されることになります。
また暦年課税では贈与者・受贈者に特段の条件はありませんが、相続時精算課税では贈与者は60歳以上等の条件が設けられています。

さらに暦年課税では2015年以降、特例贈与として直系卑属である20歳以上の受贈者に年410万円を超えて贈与する場合に軽減税率が適用されることとなりましたが、相続時精算課税ではこうした軽減税率は認められていません。

贈与財産が滅失しても相続税の課税財産となる

民法の規定では、共同相続人中に被相続人から婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、その贈与を受けた財産を特別受益として相続財産に持戻して相続財産をを計算することで、予め贈与を受けていた相続人と、他の相続人との相続分のバランスをとることになっています(民法903条の2)。

この特別受益については、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなされることになっています(民法904条)。

したがって同条を反対解釈すると、受贈者の故意過失によらないで贈与財産が滅失した場合、滅失した財産は贈与されなかったものとみなされます。
一方、相続税法には民法904条のような規定はないため、贈与財産が滅失毀損した場合、受贈者の故意過失の有無を問わず相続財産に加算されることになります。

贈与財産が値下がりしても贈与時の時価で相続財産に加算される

相続財産については、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価」で評価することと規定されています(相続税法22条)。
一方、相続時精算課税を選択した上で贈与した財産については、贈与時の時価で相続財産に加算して相続税を計算することになります。

贈与時から相続時までの贈与財産が値下がりしていた場合、その値下がり分について余分に相続税を支払うことになります。
したがって将来値下がりする可能性のある財産を贈与する場合、相続時精算課税を選択すると不利になります。

受贈者が先に死亡すると相続税が加重となる

受贈者が先に死亡した場合、受贈者の相続人(包括受遺者を含む)は、受贈者が有していた相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う権利義務を承継します。
そして、その後に贈与者が死亡すると、受贈者の相続人は、受贈者を受遺者とみなし、贈与財産を贈与者の遺贈財産とみなして計算した相続税額から既に支払った贈与税額を控除した相続税額を納付することになります。

その結果、相続時精算課税を選択した場合に受贈者が先に亡くなると、贈与された財産が持ち戻されるため二重課税となり、通常よりも多額の税金を支払うことになります。

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税

受贈者(30歳未満の者で、前年の合計所得金額が1000万円以下の者に限ります)の「教育資金」に充てるためにその直系尊属が金銭等を拠出し、信託銀行、銀行又は金融商品取引業者に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち、受贈者1人について1500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については500万円が限度)までの金額に相当する部分の価額については贈与税は課税されないというものです。
2026年3月31日まで適用期限が延長されました。

2021年4月1日以降の取扱いについて

これまでは、受贈者1人について1500万円もの教育資金を無税で贈与することができ、かつ贈与者が亡くなった時点で信託した金銭が残されていても生前贈与加算の対象になりませんでした。
令和3年(2026年)4月1日以降は、信託等により取得する信託受益権等に係る贈与税について、受贈者が23歳未満又は在学中等を除いて、相続開始時の残高が相続財産に加算されます。

これまでは、受贈者が贈与者の孫等であっても相続税の2割加算の対象となりませんでした。
令和3年(2021年)4月1日以降は、受贈者が贈与者の孫等の場合、相続税の2割加算の適用があります。

扶養義務者による教育費の負担

子や孫の教育費を直系尊属が負担した場合、当該教育費に贈与税が課税されるのでしょうか。
民法877条1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定しています。

さらに国税庁は、贈与税に関するタックスアンサーにおいて次のような見解を公表しています。

贈与税がかからない財産
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものをいいます。
ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。
なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。

子の親の扶養義務が祖父母の扶養義務に優先するのか

子の親の扶養義務が祖父父母の扶養義務に優先すると考えた場合、親が教育費を負担できるにもかかわらず祖父母がこれを負担しても扶養義務としての教育費の負担には該当しないとも考えられます。

扶養義務の順位を定めた民法878条は、
「扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。」
「扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。」

と規定しており、親の扶養義務が祖父母のそれに優先するとは書かれていません。
したがって、親がいる場合に祖父母が孫の教育費を負担しても扶養義務の履行として贈与税の課税の対象にはならないと考えられます。

夫婦間の居住用不動産贈与の特例

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、最高2,000万円まで配偶者控除できるという特例です。
したがって、暦年課税における基礎控除110万円と合わせると2,110万円まで控除を受けることができます。

特例適用の要件

夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
配偶者から贈与された財産が 居住用不動産※であるか、居住用不動産を取得するための金銭
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した 居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋で国内にあるものをいいます。

居住用不動産の範囲

居住用不動産は、贈与を受けた配偶者が居住するための国内の家屋又はその家屋の敷地です。
居住用家屋の敷地には借地権も含まれます。

居住用家屋とその敷地は一括して贈与を受ける必要はありません。
したがって、居住用家屋のみあるいは居住用家屋の敷地のみ贈与を受けた場合も配偶者控除を適用できます。

この居住用家屋の敷地のみの贈与について配偶者控除を適用する場合には、次のいずれかに当てはまることが必要です。

夫又は妻が居住用家屋を所有していること

妻が居住用家屋を所有していて、その夫が敷地を所有しているときに、妻が夫からその敷地の贈与を受ける場合など

贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有しているこ

夫婦と子供が同居していて、その居住用家屋の所有者が子供で敷地の所有者が夫であるときに、妻が夫からその敷地の贈与を受ける場合
また、居住用家屋の敷地の一部の贈与であっても、配偶者控除を適用できます。
なお、居住用家屋の敷地が借地権のときに金銭の贈与を受けて、地主から底地を購入した場合も、居住用不動産を取得したことになり、配偶者控除を適用できます。

贈与税その他

特定贈与信託

特定贈与信託とは

特定贈与信託とは、特定障害者のために、その家族など(個人)が、特定障害者の方を受益者として、金銭、有価証券その他の財産を信託(特定障害者扶養信託契約)し、特定障害者の方の生活の安定と療養の確保をはかる制度のことです。

受益者一人につき、特別障害者(重度の心身障害者)の場合は6,000万円特別障害者以外の特定障害者の場合は3,000万円を限度として贈与税が非課税となります。

特定贈与信託を利用すれば、万一、ご両親などの扶養者が亡くなった場合も、特定障害者の方の生活費や養育費が信託財産から定期的に交付されます。

特定贈与信託の注意点

特定贈与信託を利用する際の注意点としては次のようなものがあります。

  1. 一度信託した財産は中途で解約したり、信託期間や受益者を変更することはできなくなります。
  2. 信託銀行が信託財産を運用する場合、元本割れなどのリスクや手数料などの費用等が生じます。
  3. 給付された金銭を受益者が管理できない場合、別途後見人等を選任する必要があります。
  4. 信託を設定することにより委託者の他の相続人の遺留分等を侵害する可能性があります。

信託できる財産

一般社団法人信託協会が作成している「特定贈与信託」の案内に拠れば、信託できる財産として①金銭、②有価証券、③金銭債権、④立木及び立木の生立する土地、⑤継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産等、⑥受益者である特定障害者の居住の用に供する不動産、が挙げられています。

しかし多くの信託銀行では、信託財産として①から③に限定しているため、予めどのような財産を信託できるのかについても確認をしておく必要があります。

相続財産の寄付

相続税法上の非課税

相続税法12条
次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。

1項3号
宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続又は遺贈により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの

具体的には、以下の事業を行う個人(人格のない社団又は財団を含む)が相続又は遺贈により取得する財産には相続税が課税されません。

社会福祉事業、更生保護事業、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、学校又はこども園を設置し運営する事業、その他の宗教・慈善・学術その他公益を目的とする事業
(相続税法施行令2条)

租税特別措置法の非課税

租税特別措置法70条1項(抜粋)
相続又は遺贈により財産を取得した者が、国若しくは地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人のうち、教育若しくは科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに贈与をした場合には、当該贈与をした財産の価額は、当該相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入しない。

このうち、「教育若しくは科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるもの」とは、具体的には次のものをさします。

独立行政法人、国立大学法人等、地方独立行政法人(試験研究、病院事業、社会福祉事業等の一定の事業を営むものに限る)、公立大学法人、自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本赤十字社、公益社団法人、公益財団法人、一定の学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、認定NPO法人

ここで注意が必要なのは、相続又は遺贈によって財産を取得した者が、その取得した財産を申告期限までに上記法人等に贈与した場合に特例の適用を受けることができるということです。

相続した財産を換価して、そのお金を寄付しても特例の適用は受けられないので注意が必要です。

したがって租税特別措置法70条の非課税規定の適用を受けようとする場合は、予め寄附をしようと考えている先に、寄附をしようと考えている財産の受けとりが可能であるのかを確認しておく必要があります。

お寺や神社等の宗教法人に寄付をする場合の注意点

宗教法人に寄付をする場合、被相続人が遺言に当該宗教法人への寄付を記載しておけば相続税法12条の適用を受けることができます。

一方、遺言がない又は遺言に寄付の記載がない場合で、相続人が相続財産を宗教法人に寄付しても租税特別措置法70条の適用対象には宗教法人は含まれていないため相続税非課税の適用を受けることはできません。

相続税の特例を活用する

小規模宅地の特例を活用する

被相続人が所有していた土地については、一定の要件を満たすと小規模宅地等の特例を使ってその土地を評価することができます。
小規模宅地の特例の内容は次のとおりです。

相続開始前直前の宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額割合
被相続人の事業の用に供されていた宅地等 貸付事業以外の貸付宅地等 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用の宅地等 一定の法人の事業に貸付けられその法人の事業用の宅地等 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
一定の法人の事業に貸付けられその法人の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
被相続人の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
被相続人の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等 330㎡ 80%

例えば、被相続人の居住の用に供されていた宅地については、330㎡(約100坪)まで宅地の評価額を80%も減額することができます。

ここでのポイントは、減額される宅地には限度面積が設けられているということです。

限度面積がある以上、評価額が低い広大な宅地を保有しているより、評価額が高いコンパクトな宅地を保有している方が、小規模宅地等の特例の恩恵をより大きく受けることができます。

例えば、
A 1㎡あたり10万円の宅地を1,000㎡有している
B 1㎡あたり100万円の宅地を100㎡有している

この場合、Aの宅地もBの宅地も評価額は1億円です。

しかし相続が発生すると、Aの宅地は、その一部しか小規模宅地等の特例が適用できないため、その評価額は7,360万円となります。※1

※1
1,000㎡―330㎡=670㎡
10万円×330㎡×0.2=660万円
10万円×670㎡=6,700万円
660万円+6,700万円=7,360万円

他方、Bの宅地はその全てに小規模宅地等の特例を適用できるため、その評価額は2,000万円となります。※2

※2
100万円×100㎡×0.2=2,000万円

このように相続税の特例の仕組みを理解して準備することで相続税対策をすすめることができるのです。

相続税額の取得費加算制度の利用

土地や建物を売却して譲渡所得が生じた場合、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税は、長期譲渡所得(土地や建物を売った年の1月1日ので所有期間が5年を超える場合)には20%(所得税15%、住民税5%)が、短期譲渡所得(所有期間が5年以内の場合)には39%(所得税30%、住民税9%)が課税されます(別途復興特別所得税)。

一方、相続した不動産や有価証券を、その財産が相続のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡したものであれば、譲渡所得の計算上、その者が支払った相続税の一部を取得費に換算することができます。
(相続税額の取得費加算)

こうした売却予定のある不動産等を被相続人の配偶者が取得した場合、配偶者には相続税の税額軽減の規定により相続税の負担がないか少額の負担にとどまります。
そして、配偶者が当該不動産等を売却すると、相続税の取得費加算の恩恵をけることができません。

したがって、売却予定のある不動産等は配偶者以外の相続人が相続する方が一般的に有利になります。

居住用不動産売却の特例の利用

居住用不動産を売却する場合、3,000万円控除の適用を受けることができるのは居住していた本人となります。
過去に居住していても、相続後に居住していなければ居住用不動産売却の特例を受けることができません。

したがって、居住用不動産売却の特例を受けるためには、その不動産に現に居住している相続人が、当該不動産を取得してから売却した方が一般的には有利になります。
また、譲渡所得が3,000万円を超える場合、特例の適用を受けることができるものが共有で相続します。

居住用不動産売却の特例は、売却した者ごとに譲渡所得から3,000万円を控除することができるからです。

相続税の仕組みを理解する

相続税の計算では、正味財産額からまず基礎控除額を控除することになります。
基礎控除額は、
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人)
によって計算します。
基礎控除の計算に含まれる法定相続人の人数には次のような決まりがあります。
1 相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数を用いる
2 養子がいる場合の法定相続人の数は、
①被相続人に実子がいる場合、養子のうち1人までを法定相続人に含め、
②被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含める。
したがって、養子縁組をして法定相続人を増やすことは基礎控除額が大きくなるという効果があります。
さらに法定相続人の数が増えると適用税率が下がるという効果も期待できます。

相続税では課税財産を各相続人に法定相続の割合で割付け、割付後の金額で適用税率が決まる仕組みになっています。
例えば、課税財産が9,000万円で子2人が法定相続人の場合、課税財産を子2人に法定相続割合で割付けると4,500万円になります(9,000万円/2人)。
この4,500万円に適用される税率は20%です。
他方、養子縁組をして法定相続人が1人増え3人になると、各相続人に割付けられる金額は3,000万円となります(9,000万円/3人)。
この3,000万円に適用される税率は15%になります。
もちろん、相続税対策のためだけに養子縁組をすることは無用な争いが生じたりすることもあるため、慎重に検討する必要があります。
相続税の仕組みを理解することによって活かすことができる対策はまだまだあります。

生命保険の活用

相続における生命保険活用法

預金は三角、保険は四角

相続税の納税資金準備を考えたとき、預金は預けた分しか増えないため、一定の納税資金を準備するためにはある程度の期間が必要となります。
また、相続税の計算において、預金は額面に課税されます。

他方、平準払の生命保険は、契約開始と同時に一定の保障額が確保されるため、いつ発生するか分からない相続やその後の相続税の納付に対応できます。
また、生命保険金には一定の非課税枠があります。

直ちに納税資金が確保できる

複数の相続人がいる場合、被相続人が残した預金は、原則として遺産分割が終わるまで引出して使うことができません。
(民法が改正され遺産分割前に相続人は一定額まで預金を引出せることになりましたが、その額は一金融機関あたり150万円まです。)
他方、生命保険は保険事故発生後(相続開始後)数日で保険金が支払われます。

非課税枠が使える

すでに述べましたが、相続税の計算において預金は額面に課税されます。
生命保険金は非課税枠(500万円×法定相続人の数)が認められているため、大事なお金の目減りを防ぐことができます。

支払った保険料より大きな保険金を確保できる

生命保険の保険料は、予定死亡率と予定利率で計算される純保険料と、予定事業費率により計算される付加保険料によって構成されています。
このうち純保険料が将来の死亡保険金や満期保険金の原資となります。
保険会社は預かった保険料を運用しているため、一般的には払い込んだ保険料より受け取る保険金の額の方が大きくなります

代償分割の代償金の原資として使える

遺産分割において、本来の相続分よりも多くの財産を相続した相続人が、他の相続人に代償金を支払う義務を負う分割方法を代償分割といいます。
代償分割をするには、代償金の支払義務を負う相続人に代償金の支払い能力があることが必要です。

受取人が指定されている生命保険金は遺産分割の対象とならず、受取人の固有財産となるため、代償金を支払う相続人を保険金の受取人にしておけば、代償分割により遺産分割をスムーズに行えます。

寄与分・特別寄与料の代わりに保険金を残すことができる

相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護等によって被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいる場合、当該相続人は寄与分という形で他の相続人より多くの財産を相続できることになっています。
(民法904条の2)

今回の相続法改正では、この寄与分の対象者が、相続人から被相続人の親族に拡大されました。
(民法1050条)

しかし、実際の遺産分割協議では、寄与分を巡って相続人間が対立することがあります。
そこで、介護等で貢献のある子などがいる場合、その子を生命保険金の受取人にしておけば、相続財産とは別に保険金を残すことができます

共有で保険金を残すことができる

一般的に相続財産としての不動産を相続人同士で共有することは、問題の先送りであり、将来において争族となる可能性があります。

生命保険の場合、一つの保険契約で複数の受取人を指定することができますが、保険金請求権は単なる金銭債権であり、複数の相続人を受取人に指定しても不動産のような問題は起こりません。

また、保険金の請求は各受取人が単独で行えるため、受取についても問題は起こりません。

契約者の意思で受取人を自由に変更できる

遺言を作成しておけば、どの財産を誰に残すのか自由に決めることができます。
ただ、遺言の作成は要式行為であり、一定のルールに従って作成する必要があるため、何度も遺言を書き替えることは負担となります。
また、公正証書遺言の場合はその都度公証人の手数料も必要となります。

しかし生命保険の受取人の変更は契約者が自由に行えるため、状況や考えが変わる都度、受取人を変更して対応することができます。

保険金の受取りを秘密にできる

契約者・被保険者が被相続人、受取人が相続人の生命保険契約の場合、相続税の申告等で誰がいくらの保険金を受け取ったのか、受取人以外の相続人に分かってしまいます。

他方、契約者・受取人が相続人、被保険者が被相続人の生命保険契約の場合、保険金は受取人の一時所得として課税されるため(相続税が課税されないため)保険金を受け取ったことを秘密にできます。

保険金を相続税の課税から除外できる

すでに述べたとおり、契約者・受取人が相続人、被保険者が被相続人の生命保険契約の場合、保険金は受取人の一時所得として課税されるため、相続税の課税から除外できます。

相続税法上の生命保険の非課税枠の活用

契約者・被保険者が被相続人、受取人が相続人の生命保険契約において、保険事故(被保険者の死亡)により受取人が死亡保険金を受け取ると、受取った保険金中
法定相続人の数×500万円
については、相続税の課税価格に算入しないものとされています。
(相続税法12条1項5号)

他方、被相続人の預貯金については、相続税の課税価格に算入しないといった取扱いはありません。
したがって、家族にお金を残す場合、そのお金に「保険金」と名前を付けておくと相続税の負担が軽減されることになります。

保険金受取人の工夫

夫が契約者・被保険者となっている生命保険契約では、妻が保険金の受取人として指定されていることが少なくありません。
夫の亡くなった後の妻の生活保障という観点からは、妻を受取人にすることに合理性があります。

しかし、生命保険金を残さなくても妻の生活が保障されるのであれば、相続税対策の観点からいうと、妻以外の相続人、例えば子を受取人とすべきです。
なぜなら、被相続人の配偶者には相続税額の軽減が認められており、「受け取る相続財産が1億6,000万円」又は「配偶者の法定相続分」いずれか多い額までは相続税が課税されません。

他方、子にはこうした相続税額の軽減措置は認められていません。
したがって、妻が受取る生命保険金とその他の財産の合計金額が配偶者の相続税額の軽減の範囲に収まるのであれば、保険金の非課税枠が無駄になります。

そこで生命保険金の受取人は、相続税の軽減措置のない子や孫などにして、非課税枠を使い切るようにします。
(孫の場合は相続税の2割加算の対象となるので注意が必要です)

非課税枠を2度使うために

夫や妻にお金の余裕があるのであれば、夫婦で自分を契約者・被保険者、受取人を子などにした生命保険契約を締結しておきます。
そうすると夫婦それぞれの相続時に、保険金を受け取る子などが生命保険金の非課税枠を使うことができます。

医療保険・がん保険の活用

契約者が被相続人、被保険者・受取人が相続人の医療保険やがん保険において、契約者が保険料を全期全納で払い込みます。
その後、契約者が死亡して相続が開始すると、相続税の計算において、上記保険契約は解約返戻金で評価されます。

契約から相続開始までの期間の経過に従い保険契約における未経過保険料は減少するため、相続税のの計算において生命保険契約の評価額を圧縮することができます。

低解約返戻金型終身保険の活用

低解約返戻金型終身保険とは、保険料払込期間の解約返戻金の額を通常の終身保険よりも低くしていて、その代わりに保険料を割安にした生命保険のことです。
低解約返戻金型終身保険は通常の終身保険より保険料が安くなる一方、保険料払込期間後の解約返戻金の額は通常の終身保険と同じとなるため、貯蓄性が高い生命保険といえます。

この低解約返戻金型終身保険について、契約者が被相続人、被保険者・受取人が相続人という形態で保険契約を締結します。
その後、保険料払込期間中に相続が発生すると、上記保険契約は解約返戻金額で評価されます。

保険料払込期間における低解約返戻金型終身保険の解約返戻金額は、通常の終身保険の70%のため、30%の評価額の圧縮ができます。
その後、保険契約を相続した相続人が保険料の払い込みを継続すると、保険料払込期間終了後は解約返戻金が100%になります。

注意すべきは、保険料払込期間中に相続が発生しないと解約返戻金を30%圧縮する効果が期待できないこと、相続人が保険料払込を継続できず中途で解約すると解約返戻金が70%しか戻らないことです。

タワーマンションを活用する

相続税におけるマンションの評価

相続税における不動産の評価は、建物は固定資産税評価額、土地は路線価(又は倍率方式 以下、「路線価等」)によって行います。
マンションについても同じく、建物は固定資産税評価額、土地は路線価等で評価します。
マンションの土地については、路線価等×土地の面積×持分割合、によって評価します。

タワーマンションの特徴

部屋数の多いタワーマンションの場合、土地の評価の際に使う持分割合が非常に小さな値になる結果、相続税における土地の評価額が小さくなります。
単純計算ですが、4,000㎡の土地の上にワンフロア10戸、40階建てのタワーマンションの場合、部屋の専有面積が同じだとすると、1戸当たりの土地の持分は10㎡(4,000㎡÷400戸)となります。

建物は固定資産税で評価されます。
2017年(平成29年)4月2日以後に契約が締結されたタワーマンションの場合、固定資産税の評価で「階層別補正率」が導入されることになりました。
その結果、高層階の部屋は、低層階の部屋に比べて固定資産税評価額が高くなりました。
1階の固定資産税評価額を100とした場合、上層階の部屋の固定資産税評価額は、30階で107.4、40階で110、50階で112.6となります。

タワーマンションによる相続税の節税

タワーマンションでは、持分割合が小さくなる結果、相続税における土地の評価額が小さくなります。

建物部分については、「階層別補正率」が導入された結果、低層階も高層階も同じ固定資産税評価額が用いられた2017年4月1日以前より高層階の相続税評価額(=固定資産税評価額)が大きくなりました。
ただ、タワーマンションの場合、高層階の部屋の販売価格や再販売価格は、低層階の部屋より高く設定されており、物件によっては大きな違いが出ます。
したがって、物件によってはタワーマンションの高層階の部屋の相続税評価額と、販売価格や再販売価格に大きな差が生じるため、その差額分が相続税の節約となります。
【注意点】

タワーマンションの評価に関する最高裁判例

令和4年4月19日  最高裁判所第三小法廷  判決

事案の概要

Aは、平成24年6月17日に94歳で死亡し、上告人らほか2名がその財産を相続により取得した。
被相続人の相続財産には、甲不動産と乙不動産が含まれていたところ、これらについては、被相続人の遺言に従って、上告人らのうちの1名が取得した。
同人は、平成25年3月7日付けで、乙不動産を代金5億1500万円で第三者に売却した。

本件各不動産が被相続人の相続財産に含まれるに至った経緯等は、次のとおりである。


被相続人は、平成21年1月30日付けで信託銀行から6億3000万円を借り入れた上、同日付けで甲不動産を代金8億3700万円で購入した。


被相続人は、平成21年12月21日付けで共同相続人らのうちの1名から4700万円を借り入れ、同月25日付けで信託銀行から3億7800万円を借り入れた上、同日付けで本件乙不動産を代金5億5000万円で購入した。


被相続人及び上告人らは、上記ア及びイの本件各不動産の購入及びその購入資金の借入れを、被相続人及びその経営していた会社の事業承継の過程の一つと位置付けつつも、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて企画して実行したものである。


本件購入・借入れがなかったとすれば、本件相続に係る相続税の課税価格の合計額は6億円を超えるものであった。

上告人らは、本件相続につき、評価通達の定める方法により、甲不動産の価額を合計2億4万1474円、乙不動産の価額を合計1億3366万4767円と評価した上、平成25年3月11日、札幌南税務署長に対し、本件各通達評価額を記載した相続税の申告書を提出した。
上記申告書においては、課税価格の合計額は2826万1000円とされ、基礎控除の結果、相続税の総額は0円とされていた。

更正処分等の内容

札幌南税務署長は、平成28年4月27日付けで、上告人らに対し、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により本件相続の開始時における本件各不動産の正常価格として算定した鑑定評価額に基づき、甲不動産の価額が合計7億5400万円、乙不動産の価額が合計5億1900万円であることを前提とする本件各更正処分(課税価格の合計額8億8874万9000円、相続税の総額2億4049万8600円)及び本件各賦課決定処分をした。

判旨

相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。

そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。

そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。

租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。

そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。

もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。

もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。

そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。

そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。

したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。

以上によれば、本件各更正処分において、札幌南税務署長が本件相続に係る相続税の課税価格に算入される本件各不動産の価額を本件各鑑定評価額に基づき評価したことは、適法というべきである。

タワーマンションに対する相続税の税制改正

タワーマンションの相続税法上の評価に関する上記判例を受けて、今後はタワーマンションの評価額の算出基の変更が予想されています。具体的には、相続税の評価において「築年数」や「階数」等が新たな評価基準として追加される見込みです。

この税制改正により、相続税評価額は実勢価格(時価)の4割から6割になるよう検討されています。

相続財産の直接保有と間接保有の比較

相続財産の直接保有

相続財産の直接保有とは、個人が不動産等の財産を保有する形態です。
実際にほとんどの相続財産は個人が保有しているため、一般的な形態と言えます。

もっとも、個人が相続財産を保有していると、その財産が値上がりした際、値上り益全てが相続税の課税対象となります。
また不動産については、相続の際に相続登記が必要となり、その都度、登録免許税や司法書士への報酬の支払が発生します。

相続財産の間接保有

相続財産雄間接保有とは、個人ではなく、同族法人等を介して財産を保有する形態です。
もちろん、全ての財産ということではなく、不動産や取引相場のない株式(自社株式)などが対象となります。

間接保有の場合は、不動産等の値上り益が生じた場合も、37%相当額(法人税相当分)の控除が行われた後の評価額に基づき相続税が課税されるため、相続税の負担が軽減されます。
また、不動産を間接保有にしておけば、相続のたびに登録免許税を負担する必要もなくなります。

暦年贈与を利用して当該同族法人の株式を移転しておく方法も選択できます。
さらには、不動産の評価額を自らの意思で引き下げることは困難ですが、同族法人の株式であれば計画的にその評価額を引き下げることができます。

間接保有のデメリット

不動産等を同族法人を通じて保有する場合、同族法人の申告等が自分でできないと税理士に依頼することになるため、税理士費用等が生じることになります。
また、個人が保有する不動産を法人に移転する際、譲渡所得税が課税される場合があります。

したがって、相続財産を間接保有にするか否かは、こうしたコストを勘案してもなお相続税の負担慧眼が期待できる場合に限られます。

相続税対策実行時の留意点

相続税対策といわれるもの将来的な効果は不確実です。
なぜなら、現在有効とされる相続税対策は現在の税制を前提としているため、税制改正が行われた後にその効果が維持されるのかについては予測ができないためです。

例えば、従来、国外財産への相続税課税を回避するスキームとして親子が海外に5年以上居住するといったことが行われていました。
しかし平成29年4月1日以降は、被相続人及び日本国籍を有する相続人が、国外財産への相続税課税を回避するには、両者が国内に10年超住所がない場合に限られることになりました。

また、小規模宅地のいわゆる「家なき子」の要件については、従来、相続開始前3年以内に自己または自己の配偶者の持家に居住していないこと、とされていました。
このため、持家を自分の子や同族法人に譲渡・贈与するなどして「家なき子」の要件を充足するような対策が広く行われてきました。

しかし平成30年度の税制改正により、「家なき子」の対象から、自己または自己の配偶者に加え、3親等内の親族、関係同族会社及び一般社団法人が所有する家屋に居住していた者が除外されました。

生前贈与(暦年課税)についても、2022(令和4)年12月16日、「令和5年度の税制改正大綱」が公表され、贈与した財産を相続財産に加算する対象期間が、相続発生の3年以内から、相続発生の7年以内に改正されました。

このように相続税対策といわれるものは不確実です。
したがって相続税対策を行う場合も、一つの対策に絞り込むことはリスクが高いため、複数の対策をバランスよく行う必要があります

相続税・贈与税の改正(2024年1月1日施行)

暦年課税に関する相続税の改正

暦年課税とは

1年間に贈与により取得した財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除した残額に、一般税率又は特例税率の累進税率を適用して、贈与税額を算出します。

相続税に関する改正

相続又は遺贈により財産を取得した方が、その相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合には、その取得した財産の贈与時の価額を相続財産に加算します。
ただし、延長された4年間に贈与により取得した財産の価額については、総額100万円まで加算されません。

加算対象期間について

この改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
具体的な贈与の時期等と加算対象期間は次のとおりです。

①贈与者の相続開始日 ②加算対象期間

①2024年1月1日~2026年12月31日 ②相続開始前3年間
②2026年1月1日~2029年12月31日 ②2024年1月1日~相続開始日
③2030年1月1日~         ②相続開始前7年間

相続時精算課税に関する改正

相続時精算課税に係る基礎控除の創設

相続時精算課税を選択(※1)した受贈者(以下「相続時精算課税適用者」といいます。)が、特定贈与者(※2)から2024年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円(※3)が控除されます。
また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算されるその特定贈与者から2024年1月1日以後に贈与により取得した財産の価額は、基礎控除額を控除した後の残額とされます。
(※1)
相続時精算課税は、原則として、①贈与者が贈与の年の1月1日において60歳以上であり、②受贈者が同日において18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫である場合に選択することができます。
なお、相続時精算課税を選択した場合、その後、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ変更することはできません。
(※2)
特定贈与者とは、相続時精算課税の選択に係る贈与者をいい、2023年分以前の贈与税の申告において相続時精算課税を選択した場合も含みます。
(※3)
同一年中に、2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合の基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格であん分します。
(注) 相続時精算課税を選択した場合、その特定贈与者からの贈与について暦年課税の基礎控除の適用はできません

相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例の創設

相続時精算課税適用者が、特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物について、その贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に、2023年1月1日以後に災害(※1)によって一定の被害(※2)を受けた場合(その方がその土地又は建物を贈与日から災害発生日まで引き続き所有していた場合に限ります。)には、その相続税の課税価格への加算の基礎となるその土地又は建物の価額は、その贈与の時における価額から、その災害による被災価額を控除した残額とすることができます。
(※1)
災害とは、震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいいます。
(※2)
一定の被害とは、その土地の贈与時の価額又はその建物の想定価額(注1)のうちに、その土地又は建物の被災価額(注2)の占める割合が10%以上となる被害をいいます。
(注1)
想定価額とは、その建物の災害発生日における一定の算式により求めた価額をいいます。
(注2)
被災価額とは、被害額から保険金などにより補塡される金額を差し引いた金額をいい、その土地の贈与時の価額又はその建物の想定価額を限度とします。

アメリカの遺産税・贈与税

遺産税(Estate tax)

アメリカでは、被相続人の遺産自体が課税の対象となる遺産課税方式が採用されています。
(日本では、相続人が相続した財産に相続税(Inheritance Tax)が課税されます。)

被相続人がアメリカ国籍を保有している場合(Citizens)や、居住者の場合(Residents)の場合、全世界の財産が課税の対象です。
非居住者の場合(Non-Residents)、課税の対象はアメリカの国内財産となります。

遺産税は超過累進税率が適用され、その税率は2020年では18%~40%となっています。
原則として相続開始日から9か月以内に申告と納税を行う必要があります。

またアメリカでは、連邦税(Federal tax)である遺産税以外に、州によって州税(State tax)として遺産税や相続税が課されることがあります。
(カリフォルニア州には遺産税も相続税もありません。)

贈与税(Gift tax)

贈与される財産に課税される税で、納税義務者は贈与者です。
(日本の贈与税の納税義務者は受贈者です。)

贈与者がアメリカ国籍を保有している場合や、居住者の場合は全世界の財産が課税の対象です。
非居住者の場合、課税の対象はアメリカの国内財産となります。

申告・納付期限は、原則として贈与を行った翌年の4月15日になります。

世代飛ばし移転税(Generation skipping transfer tax)

祖父母から孫といった世代を飛び越えて財産を移転する場合は、遺産税・贈与税に加えて世代飛ばし移転税が課税されます。
世代を飛び越えて財産を移転する場合、遺産税を1回スキップすることになるため、設けられた税制です。

納税義務者は財産を移転する者(被相続人又は贈与者)です。
申告及び納税の期限は、原則として遺産税・贈与税と同じです。

統一移転税額控除(Unified credits)

アメリカの遺産税、贈与税は、一生涯において贈与した移転財産額と、相続によって移転した財産額の合計額から、統一移転税額控除額を控除した残額によって算出されます。
2020年の統一移転税額控除額は、課税遺産額ベースで$11,580,000(15億540万円、$1≒130円)です。
したがって、遺産が統一移転税額控除額を超えない場合は、実質的に遺産税は課税されません。

さらには、統一移転税額控除額は夫婦それぞれに適用されるため、2020年時点での夫婦合わせての統一移転税額控除額は$23,160,000となります。
なお、統一移転税額控除額は2011年以降$5,000,000で推移してきました(毎年インフレ調整あり)。
(アメリカでは2010年にいったん遺産税は廃止となり、2021年に復活しました。)

ところが、2017年に成立した法律(Tax Cuts and Job Act)において、2倍の$10,000,000に引き上げられました(毎年インフレ調整あり)。
ただし、上記改正は2018年1月1日から2025年12月31日までの時限立法のため、このまま法改正等がなければ、2026年1月1日以降、従来の統一移転税額控除額に戻ることになります。

2025年までに$10,000,000の控除額を使って贈与を行い、2026年以降控除額が$5,000,000に戻った場合、いずれの控除額が適用されるのかについては、2019年に追加規制(Treasury Decision9884)が発表され、2025年以前の贈与で使用した控除額($10,000,000)は影響を受けないことになりました。

相続には、さまざまな種類があり、手続を行う期限があります。期日が過ぎて最適な相続方法の手続をとることができなかったということがないように、相続が始まったら遺された相続財産をできるだけ早く調査し、間違わない相続の種類を選びましょう。被相続人が遺した正確な相続財産が分からない場合や、自分にとって最適な相続がどれか分からないなど、お悩みであれば、弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士へご相談ください。

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