遺言・相続・遺産分割

  1. 自筆証書遺言の作り方はどう変わりましたか?
  2. 配偶者居住権とは何ですか?
  3. 遺産分割前に被相続人の預貯金を引き出すことができますか?

約40年ぶりに民法の相続に関する規定が大きく変わりました。オールワン法律会計事務所の弁護士が相続法改正のポイントを分かりやすくご紹介します。

相続についての
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相続関連の法の施行期日

民法(相続法関係)

① 自筆証書遺言の作成要件の緩和・・・2019年1月13日

② 原則的な施行期日・・・2019年7月1日

③ 配偶者居住権・配偶者短期居住権の新設・・・2020年4月1日

法務局における遺言書の保管等に関する法律・・・2020年7月10日

 

自筆証書遺言の作成要件の緩和

法改正前

「自筆証書によって遺言するには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」
(改正前民法968条1項)

自筆証書遺言は、作成者がその全文、作成日付、氏名を自書し、押印する必要がありました。
しかし、高齢になると身体機能の低下や病気などにより、全文自書することが困難という人も少なくありませんでした。

法改正後

改正民法第968条
1項
自筆証書によって遺言するには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2項
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。

財産目録(不動産目録、預貯金目録、有価証券目録)などは自書が不要となり、別途パソコンで作成した目録や、通帳のコピー等で代用できることになりました。

ただし、自筆証書遺言の偽造や変造を防ぐため、財産目録の各ページ(表裏の場合は表裏両方)に遺言作成者の署名・押印が要求されています。

 

自筆証書遺言の保管制度の創設

新法創設前

自筆証書遺言は原則として遺言作成者が自分で遺言書を保管することになっていました。
その結果、遺言書の偽造や変造、隠匿や紛失などの問題が生じることも少なくありませんでした。

法務局における遺言書の保管等に関する法律施行後

自筆証書遺言の原本を公的機関である遺言保管所(法務局)が保管する制度が創設されました。

[遺言書保管申請先]

遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が保有する不動産住所地を管轄する遺言書保管所(法務局)にいる遺言書保管官です。

[保管申請の方法]

遺言書作成者が遺言書保管所に自ら出向いて、遺言書保管官に対して、自己の遺言書を、封をしない状態で保管申請をすることになります。

[遺言書保管官による審査]

遺言保管所で保管された自筆証書遺言は検認手続が不要となります。
そのため、遺言書保管官が、遺言書が民法968条に定める形式を充足しているか等の外形的審査を行います。

[遺言書に関する情報管理]

遺言書保管官は、遺言書をデータ化し、遺言書に関するデータを遺言書保管ファイルで保管・管理することになります。

[遺言書保管の申請の撤回]

遺言者は、遺言書保管所に自ら出向いて、所定の書面を提出して、遺言書保管申請を撤回することができます。

[遺言書の閲覧]

遺言者は、申請した遺言書が保管されている遺言書保管所に自ら出向いて、所定の書面を提出して、遺言書保管官に対して、何時でも当該遺言書の閲覧を請求することができます。

[遺言書情報証明書の交付]

遺言者が亡くなった後、相続人、受遺者、遺言執行者等は、遺言書保管官に対し、 遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付を請求することができます。

[遺言書保管の通知]

遺言書保管官は、関係相続人等に対して遺言書情報証明書を交付したり、第三者請求により遺言書を閲覧させた場合は、遺言書の存在を知らせるために相続人、受遺者、遺言執行者に対して、遺言書を保管していることを通知することになります。

[遺言書保管事実証明書の交付]

誰でも相続が開始した後は、遺言書保管官に対して、

遺言書保管所に自己に関係する遺言が保管されているか否かの事実確認

遺言書が保管されている場合には、遺言書保管ファイルに記録されている情報の中から
ア 遺言書に記載されている作成年月日
イ 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称、保管番号
を証明する書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。

[裁判所による検認不要]

遺言書保管所において保管する遺言書については、家庭裁判所による検認は不要となります。

 

配偶者居住権

法改正前

相続開始時に被相続人の配偶者が、被相続人所有の建物(居住用建物)を相続すると、預貯金等を十分に相続することができないことがありました。
例)

[相続財産]
自宅(土地・建物)・・・5,000万円
預貯金・・・・・・・・5,000万円
[相続人・法定相続分]
妻(被相続人の配偶者)1/2  子1/2

妻が自宅(5,000万円)を相続すると、預貯金(5,000万円)は子が相続できることになり、妻が老後資金を十分に確保することができませんでした。

法改正後

配偶者居住権の成立要件

配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合、次の①及び②の要件に該当する場合、その建物の全部について無償で使用及び収益する権利(配偶者居住権)を取得できます。
(改正民法1028条)

  1. 遺産分割により配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたとき
  2. 配偶者居住権が遺贈(無償で贈与されること)の目的とされたとき

このほか、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所の審判によって、次の①、②の場合に限り配偶者居住権が認められることになります。
(改正民法1029条)

  1. 共同相続人間で配偶者居住権の合意があるとき
  2. ①以外の場合で、生存配偶者が配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合で、居住建物の所有者の受ける不利益の程度に考慮してもなお配偶者の生活を維持するために、特に必要があると認めるとき

配偶者居住権の存続期間

生存配偶者が亡くなるまでです。
但し、遺産分割協議や遺言に別段の定めがあるとき、家庭裁判所が遺産分割の審判で別段の定めをしたときは、その定めによることになります。
(改正民法1030条)

配偶者居住権の消滅

  1. 用法遵守義務違反・善管注意義務違反があるとき
    配偶者が居住建物について用法順守義務、善良な管理者としての注意義務に違反した場合、居住建物所有者は、配偶者に対する意思表示で配偶者居住権を消滅させることができます。
    (改正民法1032条4項)
  2. 配偶者居住権の期間満了
    配偶者居住権の期間満了によっても配偶者居住権は消滅します。
    (改正民法1036条・民法597条1項)
  3. 配偶者の死亡
    配偶者居住権が認められた配偶者が死亡したときは、配偶者居住権は消滅します。
    (改正民法1036条・民法597条3項)

 

配偶者短期居住権

生存配偶者が、被相続人の財産に属した建物を相続開始時に無償で居住していた場合、次の①及び②の期間、その居住建物の所有権を相続又は遺贈で取得した者(居住建物取得者)に対して、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得することになります。
(改正民法1037条1項)

居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割する場合

① 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日
② 相続開始の時から6カ月間を経過した日
上記①、②のいずれか遅い日までの期間です。

上記以外の場合

居住建物取得者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができますが、この申入れから6カ月を経過した日までの期間です。

 

配偶者の持戻し免除の意思表示の推定規定の創設

法改正前

民法903条1項(特別受益者の相続分)
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」

夫から生前贈与等で妻が自宅持分2,000万円を贈与され、当該贈与が特別受益に該当すると、夫の相続における遺産分割で妻の相続分が2,000万円分少なくなります。
(先に贈与された自宅持分2,000万円は妻への相続分の先渡しと考えて相続時に調整することになっていました)

法改正後

民法903条4項
「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」

成立要件

  1. 婚姻期間が20年以上の夫婦
  2. 贈与・遺贈の対象が居住用不動産であること

参考 居住用不動産を贈与した場合の配偶者控除(税法)

内容

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに2,000万円まで配偶者控除できる特例

要件

  1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  2. 配偶者から贈与された財産が居住用不動産又は居住用不動産取得の金銭
  3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

 

遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ

法改正前

遺留分を侵害された者が遺留分減殺請求を行ったときの請求権の法的性質については、形成権・物権的効果説が通説でした。

形成権・物権的効果説によれば、遺留分減殺請求の対象が複数ある場合、遺留分減殺請求権を行使すると、各財産について共有関係が生じることになります。

したがって、事業承継の場面で遺留分減殺請求権が行使されると、事業資産や自社株式が後継者とその他の相続人との共有となり、円滑な事業承継が阻害されるといった問題が生じていました。

法改正後

遺留分の権利を行使することにより、遺留分権利者は、受遺者等に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることになりました。
したがって、遺留分権利者には目的物の帰属は認められず、単に遺留分侵害額相当の金銭債権の行使ができるだけです。

(改正民法1046条1項)
「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる」

 

遺留分算定方法の見直し

法改正前

これまでの民法では、次の算式により遺留分の計算を行っていました。

遺留分侵害額

遺留分額

(遺留分権利者が被相続人から相続した財産額-遺留分権利者が相続によって負担する相続債務額)

(遺留分権利者の特別受益額+遺留分権利者が受けた遺贈額)

[計算例]

被相続人Aの法定相続人には配偶者X、子Y、子Zがいます
相続財産は、預貯金800万円、自宅不動産2,000万円
Aは生前、子Zに対して1,000万円を贈与しました。
子Yは預貯金の1/8(100万円)を相続することになりました。

子Yの遺留分

(800万円+2,000万円+1,000万円)×1/4(法定相続分)×1/2(遺留分割合)=475万円

子Yの遺留分侵害額

475万円―(100万円(Yが相続した預金)-0円(相続債務))-(0円(Yの特別受益額)+0円(Yへの遺贈額))=375万円

相続開始前1年以内になされた贈与
→遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されます。

当事者双方が遺留分権者に損害を与えることを知ってなされた贈与
→相続開始前1年前より前になされたものも遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されます。
(改正前民法1044条1項 贈与の対象は相続人、相続人以外を区別しない)

法改正後

贈与の対象者について相続人と相続人以外を区別し、相続人に対する贈与については相続開始前10年間になされた贈与の価額だけが遺留分の算定の基礎となる財産の価額に算入されることになりました。

相続人以外に対する贈与

相続開始前1年以内になされた贈与
→遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されます。

当事者双方が遺留分権者に損害を与えることを知ってなされた贈与
→相続開始前1年より前になされたものも遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されます。
(民法第1044条1項)

相続人に対する贈与

相続開始前10年間になされた贈与の価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与の価額に限る)を遺留分の基礎となる財産の価額に算入することになりました。
(民法1044条3項による同条1項の読み替え)

 

遺産の一部分割

法改正前

遺産分割審判において、一部分割を行うためには、

  1. 遺産の一部を他と分離して分割する合理的な理由があること
    (必要性)
  2. 遺産の一部分割により全体として適正な分割を行うことに支障がないこと
    (許容性)

が必要とされてきました。

①が認められる例としては、全共同相続人間に遺産の一部を他の部分と分離して分割する旨の合意がある場合や、合意がない場合も、遺産の一部に遺産該当性等の問題があって解決に長時間要する場合に、遺産の一部を分割禁止として、残部を一部分割する場合などがあげられます。

②が認められる例としては、当該分割事件における遺産の範囲、特別受益や寄与分等の前提問題のほか、分割方法も検討して全体として適正な分割が見込まれる場合などがあげられます。

しかし、こうした要件を充足しない場合も多く、遺産の一部を分割することは事実上困難でした。

法改正後

民法907条
1項
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2項
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。
ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその分割については、この限りではない。
3項
前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

新法によって、これまで例外的取扱いであった遺産の一部分割を、相続人間で利用しやすいようにするために民法907条が設けられました。
また、同条2項では、相続人間の協議が調わない場合に、相続人が、家庭裁判所に一部分割を求めることができると規定されました。

 

預貯金の一部分割

法改正前

2016年(平成28年)に判例が変更されるまで、最高裁判所の判例では、相続財産としての預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとされていました。
(最判昭和29年4月8日 民集8巻4号819頁等)

しかし、金融機関の実務では、相続人間の紛争に巻き込まれないようにするため、遺言や遺産分割協議書で当該預貯金債権の帰属を確認した後に相続人や受遺者からの払戻しや名義の書き換え請求に応じてきました。

その後、判例が変更され、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象になると判断されることになりました。
(最大決平成28年12月19日 民集70巻8号2121頁)

法改正後

民法909条の2
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額 ※ を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。
この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

※ 150万円(平成30年法務省令29号)
金融機関ごとに150万円を限度として共同相続人が単独で預貯金の払戻しができるようになりました。

相続には、さまざまな種類があり、手続を行う期限があります。期日が過ぎて最適な相続方法の手続をとることができなかったということがないように、相続が始まったら遺された相続財産をできるだけ早く調査し、間違わない相続の種類を選びましょう。被相続人が遺した正確な相続財産が分からない場合や、自分にとって最適な相続がどれか分からないなど、お悩みであれば、弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士へご相談ください。

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