遺言・相続・遺産分割

  1. 相続したあと、税務調査はくるの?
  2. 税務調査の対象となりやすい相続の内容は?

オールワン法律会計事務所の弁護士・税理士が相続税の税務調査について法務・税務の両面から分かりやすく解説します。

相続についての
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税務調査の概要

準備調査

1 机上調査

机上調査では、納税者から提出された法定調書の確認が行われます。
法定調書とは、源泉徴収票(所得税)、生命保険の支払調書(相続税)等の書類です。
また、税務署から納税者に対して、「売上・仕入・費用・リベート等」に関する資料(一般資料せん)の提出を求めることもあります。

現在、国税庁にはKSKシステム(国税総合管理システム)が導入されており、全国の12の国税局(所)と524の税務署がネットワークで結ばれています。
KSKシステムに各種情報を入力することで情報の一元的な管理が可能となり、税務行政の効率化・高度化が図られています。
また、KSKシステムは、税務調査対象者の選定にも利用されているといわれています。

2 外観調査

外観調査とは、国税職員が対象者の店舗等を外から観察して、事業規模、活況、営業時間、客数等を調査するものです。

3 内偵(内観)調査

内偵調査とは、実際に国税職員が対象者の店舗等に出向いて、客数、支払いレジ打ちや売り上げの管理状況などを調査するものです。

内偵調査の際、国税職員が客となって料理等を注文し、その際の伝票等にしるしを付け、後日、実地調査に出向いた際にしるしが付いた伝票等が残されているか確認することもあるといわれています。
実地調査の際、しるしのついた伝票が見つからないと、伝票を破棄して売上を除外していることが疑われます。

事前通知

国税職員が実地調査を行う場合、対象者に対して以下の事項を事前に通知することになっています(国税通則法74条の9、国税通則法施行令30条の4)。

①質問検査等を行う実地調査(以下、「調査」)を開始する日時
②調査を行う場所
③調査の目的※
※具体的な通知内容としては、納税申告書の記載内容の確認、納税申告書の提出がない場合における納税義務の確認、その他これらに類するもの、とされています。
④調査の対象となる税目
⑤調査の対象となる期間
⑥調査の対象となる帳簿書類その他の物件
※当該物件が国税に関する法令の規定により備付け又は保存をしなければならないとされているものである場合は、その旨を併せて通知することとされています。
⑦調査の相手方である納税義務者の氏名及び住所又は居所※
※相手方が法人の場合は、名称及び所在地
⑧調査を行う職員の氏名及び所属官署※
※当該職員が複数の場合は、当該職員を代表する者の氏名及び所属官署
⑨納税義務者は、合理的な理由を付して調査開始日時(上記①)又は調査開始場所(上記②)について変更を求めることができ、その場合には、税務当局はこれについて協議するよう努める旨
⑩税務職員は、「通知事項以外の事項」について非違が疑われる場合には、当該事項に関して質問検査等を行うことができる旨

事前通知のない税務調査

税務調査は事前通知がなされることが原則ですが、事前通知をすると税務調査の目的が達成できない場合、事前通知を行わないで調査が実施されることがあります。

事前通知を行わない調査の類型には次のようなものがあります。

  1. 事前通知をすることにより、納税義務者において、法第128条第2号又は同条第3号(※)に掲げる行為を行うことを助長することが合理的に推認される場合。
  2. 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査の実施を困難にすることを意図し逃亡することが合理的に推認される場合。
  3. 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合。
  4. 事前通知をすることにより、納税義務者において、過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、質問検査等を行う時点において適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出することが合理的に推認される場合。
  5. 事前通知をすることにより、納税義務者において、その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し、上記1から4までに掲げる行為を行うよう、又は調査への協力を控えるよう要請する(強要し、買収し又は共謀することを含む。)ことが合理的に推認される場合。※

国税通則法128条
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
1 第23条第3項(更正の請求)に規定する更正請求書に偽りの記載をして税務署長に提出した者
2 第74条の2、第74条の3(第2項を除く。)若しくは第74条の4から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
3 第74条の2から第74条の6までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者

上記事例への該当性判断については、税務職員の主観的判断ではなく、事前通知を行わなかったことの適法性が適切に判断されたといい得るよう、その情報について課税庁としての知見、判断能力をもって客観的に評価した場合に、それらの事情があると合理的に推認できるかどうかを客観的に判断すべきであるといわれています。

実地調査

実地調査には大別して、臨場調査、反面調査、金融機関調査の3つがあります。

1 臨場調査

国税庁、国税局、税務署の当該職員(以下、「国税職員」)は、所得税、法人税、地方法人税、消費税に関する調査について必要があるときは、納税義務者等に質問し、又は帳簿書類その他の物件を検査等することができます(質問検査権 国税通則法74条の2以下)。

帳簿書類について、その作成または保存に代えて電磁的記録の作成がなされている場合の電磁的記録が含まれます。
国税職員は、必要があれば、提示提出された物件の留め置きをすることができます(国税通則法74条7)。

住所、事業所その他の場所への立ち入りについて明文の規定はありません。
しかしながら、検査等は対象物が存在する場所に行かないとできないことから、検査等の必要があるときには、管理者等の承諾をえて住所、事業所その他の場所に立ち入ることができるとされています。

①質問検査権の規定による国税職員の質問に答弁しなかったり、偽りの答弁をしたり、検査の実施を拒否した場合
②国税通則法74条の2から74条の6までの規定による物件の提示又は提出の要求に対して、正当な理由なく応じなかったり、偽りの記載若しくは記録した帳簿書類その他の物件を提示し、若しくは提出した場合

以上の規定に該当する場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金の罰則規定があります(国税通則法128条2号)。

実地の調査を実施する場合には、身分証明書(国税職務証票の交付を受けている場合は国税職務証票)及び質問検査章を必ず携帯し、質問検査等の相手方となる者に提示して調査のために往訪した旨を明らかにした上で、調査に対する理解と協力を得て質問検査等を行う、とされています。※

2 反面調査

国税職員は、納税義務者等に対する臨場調査だけでは事実関係の把握が困難な場合、取引先等の反面調査を行います。
反面調査は、納税義務者等と異なる第三者に対する調査のため、反面調査で得られた証拠は、一般的に信用性が高いといわれています。

一方で、反面調査の実施により納税義務者と取引先の今後の取引に影響がでることもあります。
そこで、取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討する、反面調査の実施に当たっては、反面調査である旨を取引先等に明示した上で実施することに留意する、とされています。※

3 金融機関調査

反面調査の対象が銀行等の金融機関である場合は金融機関調査と呼ばれています。

※国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営方針)

質問応答記録書

質問応答記録書と調査報告書

臨場調査では、国税職員は納税義務者や関係者から様々な事情を聴取し、その内容を書面に記載して証拠を作成します。
このときに作成される書面には、質問応答記録書と調査報告書があります。

質問応答記録書は、納税義務者等である回答者が供述した内容が記載され、供述内容に間違いないことについて回答者の確認を得てから、その証として回答者による署名・押印(又は指印)を受けたものです。
調査報告書は、回答者の供述内容を調査担当者が記載したものです。

質問応答記録書と調査報告書を比較した場合、回答者の確認、署名・押印がある前者の書類の方が証拠としての重要性が高いといえます。

質問応答記録書

臨場調査においても、国税職員が、課税要件の存在を裏付ける物的な資料を収集できないことがあります。
そうした場合、国税職員が納税義務者等から供述を聴取し、供述内容から課税要件の存否を判断することになります。

しかしながら、納税義務者等の供述は書面化しないと国税職員の記憶にしか残らず、後で課税要件の存否について争いになったときに証拠として活用することができません。
質問応答記録書を作成することで、納税義務者等の供述内容を、課税要件の存在を裏付ける証拠として活用することができます。

質問応答記録書の具体的な作成方法には、「問答方式」と「物語方式」があるといわれています。
「問答方式」とは、国税職員の質問に対して納税義務者等が回答する、いわゆる一問一答式です。
「物語方式」とは、国税職員は登場せず、納税義務者自らが出来事を説明するものです。

税務調査の終了

調査結果の説明書

税務調査が終了すると、調査担当者は「調査結果の説明書」を作成します。
調査結果の説明書には、「更正又は決定すべきと認めた理由等」を記載する箇所があります。

更正すべきと認めた場合は、個々の非違を構成する前提となる理由が記載されます。
決定すべきと認めた場合は、納税義務の有無が記載されます。

調査結果の説明

調査担当者は、調査結果の説明書の決裁を受けると、納税義務者に来署を依頼し、又は納税義務者の事務所等に行って調査結果の説明をします。
調査担当者は、調査結果の説明をしたあと、修正申告又は期限後申告の勧奨を行います。
なお、調査結果の説明書は納税義務者に交付されません。

納税義務者が修正申告等に応じず、更正決定を行う場合は、その処分の理由を記載した「処分の理由書」を作成します。
処分の理由書には、納税義務者がその記載内容から処分の根拠となる事実関係や適用法令を領知し得る程度の記載が必要とされており、理由の記載が不十分な場合は不服申立手続によって処分が取り消されることがあります。

納税義務者は、処分の理由書の記載内容を確認し、不服申立を行うか否かを検討します。

更正決定等をすべきと認められない場合

更正決定等をすべきと認められない場合、調査担当者は「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を作成し、納税義務者に送付します。
納税義務者は、通知書を受領することで税務調査手続が終了したことを知ることになります。

税務調査の対象となりやすい相続税の申告内容

相続税の実地調査は、申告書を提出後、1年後から2年後にかけて着手されることが多いといわれています。それでは、実地調査の対象に選定されやすい申告内容とはどのようなものでしょうか。
国税出身の税理士さんから聞いた具体的な例を紹介したいと思います。
被相続人の生前の収入に比べて申告財産額(特に金融資産)が少ない
税務署は被相続人の生前の収入を把握しているため、その収入から推算できる相続財産額より申告財産額が少ないと調査対象に選定されやすくなるようです。
相続人の収入に比べて相続人名義の預貯金残高や有価証券残高が多い
相続人の名義預金(名義は相続人だが、実体は被相続人の預金)が疑われるケースです。
被相続人と相続人名義の預貯金の入出金額が一致する
相続人の名義預金や相続財産の隠匿が疑われるケースです。
そのほかにも、

被相続人が過去に相続した財産が、今回の申告に反映されていない

被相続人に生前不動産所得があるのに申告書に不動産の記載がない

不動産の評価に鑑定評価が用いられている

海外送金調書が提出されているのに、海外資産の申告がなされていない

確定申告書に添付された「財産債務調書」と申告書の記載に不一致がある

被相続人が大口資産家である

以上のようなケースでは税務署による相続税の実地調査が実施される可能性が高くなります。
さらには、申告書にどのような書類を添付するかによっても実地調査に選定されるか否かに大きな違いがでてきます。

実地調査における調査官の質問の意図

実地調査における調査官の質問の意図

調査官による実地調査は、大きく分けて①聴取調査、②現況調査、③現地調査があります。

このうち、②現況調査とは、実地調査の際に被相続人の預金通帳の保管場所や金庫等の現況を確かめる調査です。
③現地調査とは、相続財産の不動産について利用状況を実際に現地で確認する調査です。

そして、①聴取調査とは、調査官が直接相続人(納税義務者)から被相続人の生前の生活実態等を聞き取る調査です。
この聴取調査において調査官の発する典型的な質問と、その意図は次のとおりです。
被相続人の職業・職歴に関する質問
被相続人の職業から推定できる所得と、その所得に見合った申告がなされているかの確認です。
被相続人の趣味に関する質問
趣味に関する財産(ゴルフ会員権や書画骨董など)が申告されているかの確認です。
被相続人が過去に不動産を売却したことの有無に関する質問
売却代金に関する譲渡所得税の申告の有無や、相続開始時の売却代金の現状の確認です。
被相続人の転居の有無に関する質問
過去の住所地周辺での所有不動産の有無、金融機関の口座の有無の確認です。
被相続人の家族の状況に関する質問
名義預金の有無及びその帰属の確認です。
配偶者の預貯金に関する質問
専業主婦の配偶者が多額の預貯金を有する場合は名義預金の可能性が高いため出捐者等の確認です。
相続開始前後の出金の有無と金額に関する質問
医療費や葬儀費用に充てるため相続開始前後に相続人が被相続人の預貯金を引出すことがあるため、その残額についての申告状況の確認です。
毎月の家計費に関する質問
被相続人の口座からの出金と比べて毎月の家計費が相当程度低い場合、その差額部分が他の家族に流れていることがないかの確認です。

国税局査察部による強制調査

強制調査とは

強制調査とは、国税通則法第11章「犯則事件の調査及び処分」に基づき、国税犯則取締法に基づいて国税局査察部が行う、不正な手段を使って故意に税を免れた犯則嫌疑者の責任を追及し、正当な税を課すほか、刑罰を科すことで適正・公平な課税の実現と申告納税制度を維持するための税務調査のことです。
すなわち、大口・悪質な脱税者を対象に、犯則事件の調査を目的として、国税局の国税査察官によって行われる強制調査のことです。

一方で任意調査とは、一般の納税者を対象に、申告漏れの調査を目的として、税務署職員(大口案件・複雑案件については、国税庁資料調査課が担当することもあります)よって行われる調査のことです。
1億円前後が目安となるようです。

相続税の調査実績

令和4年12月 国税庁 「令 和 3事務年 度 に お け る相 続 税 の調 査 等 の状 況」より

項目 令和2事務年度 令和3事務年度
実地調査件数 5,106件 6,317件
申告漏れ等の非違件数 4,475件 5,532件
非違割合(②/①) 87.6% 87.6%
重加算税賦課件数 719件 858件
重加算税賦課割合(④/②) 16.1% 15.5%
申告漏れ課税価格 1,785億円 2,230億円
⑥のうち重加算税賦課対象 319億円 340億円
追徴税額 本税 416億円 486億円
加算税 66億円 74億円
合計 482億円 560億円
調査1件あたり 申告漏れ課税価格 3,496万円 3,530万円
追徴税額 943万円 886万円

 

使途不明金に対する税務調査

被相続人の口座から使途不明の出金がある場合

相続開始後、相続人の通帳を調べてみると、口座から度々ラウンドナンバー(丸い数字=100万円、200万円といった切りのいい数字のこと)での出金履歴がある。

一方、銀行預金は被相続人が自分で管理していたので、相続人はそのお金が何に使われたのか、どこになるのか分からない・・・

この被相続人の口座から出金された使途不明金について、出金回数が多数、使途不明金が多額にのぼると税務調査でその資金使途について税務職員から厳しい追及を受けることがあります。

また、被相続人と同居していた子、同居していなかった子がいる場合、使途不明金を同居の子が消費・隠匿したのではないかと相続人間で疑心暗鬼が生じ、遺産分割の際にトラブルの原因になったりします。

税務調査における使途不明金の取り扱い

税務調査では、不明金の使途を相続人が明らかにできない場合、当該金員が相続時に存在していたことを前提とした修正申告の慫慂(しょうよう=促すこと)を税務署員から受けることがあります。

それでは、こうした使途不明金が存在する場合、相続人は修正申告に応じる必要があるのでしょうか?

仮に相続人が修正申告に応じない場合、それでも使途不明金が相続時に存在したと税務署が主張するのであれば、税務署は納税額の修正や決定を行う更正処分を行います。

更正処分が行われた場合、それに不服がある相続人は、国政不服審判所への審査請求、審査請求の結果そこで出された裁決に不服がある場合は裁判所への提訴を行うことができます。

訴訟となった場合、使途不明金が相続時に存在することについて立証責任を負うのは国です。

この点、相続開始3年前に存在した被相続人の現金について、「収支計算を正確に行えば、相続開始時において残るはずのもの」で、相続開始までに「他の資産に変化したと考えるのが自然である」と国が主張した裁判で、裁判所は、国の主張・立証は不十分として国の主張を退けた裁判例があります。
(名古屋高判平成15年12月25日)

したがって、実際に使途不明金について修正申告の慫慂がなされた場合は、どのような理由に基づいて慫慂がなされたのかを個別に判断する必要があります。

なお、修正申告は、納税義務者が自主的に納税額を変更するため、その後に不服申し立てを行うことはできません。

名義預金

名義預金とは

相続税の調査においては、

 

などのケースでは金融資産に対する調査は徹底的に行われるといわれています。
特に名義預金(口座の名義人と出捐者が異なる預貯金のこと (例 父が子の名義でお金を預けるケース)は要注意です。

名義預金は被相続人が意図的に作ったもののほか、ペイオフ対策として家族名義にしていた預金などが名義預金として認定されることがあります。

ペイオフとは、預金保険制度に加盟している金融機関が破綻した場合の、預金者保護の方法のひとつである預金者への保険金の直接支払のことです。

2002年4月、ペイオフによる保護の対象が1金融機関につき1預金者あたり元本1,000万円までとその利息の預金債権となりました。
ペイオフが1金融機関について原則1,000万円に限定されたため、これ以降、1,000万円を超える預金を家族名義に変更した上で自らが管理する人が増えました。

贈与税の時効(賦課権の除斥期間)

国税の時効について国税通則法70条1項1号は、更正又は決定については、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後においてはすることができない、と規定しています。

国税通則法24条(更正)
「条税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」

国税通則法25条(決定)
「税務署長は、納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかつた場合には、その調査により、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する。ただし、決定により納付すべき税額及び還付金の額に相当する税額が生じないときは、この限りでない。」

ただし、贈与税については、相続税法36条1項において
「税務署長は、贈与税について、国税通則法第70条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正若しくは決定又は賦課決定を当該各号に定める期限又は日から6年を経過する日まで、することができる。」

と規定され、さらに同条4項1号において、
「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた贈与税」については、贈与税の申告期限から7年、贈与税に係る更正決定を行うことができるとされています。

相続税法28条1項によれば、贈与税の申告書の提出期限は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までとされているため、贈与を受けた翌年の3月15日から6年又は7年(偽りその他の不正の行為があった場合)が経過すると、贈与税は時効(除斥期間の経過)となります。

名義預金の時効

贈与税が時効(除斥期間の経過)となるのは、その前提として贈与者と受贈者の間に贈与契約が成立しいていることが前提となります。
いわゆる名義預金(贈与者が、受贈者名義の口座で自らが管理を継続する預金)については、税務署から贈与契約が成立していないと判断されることが大半です。

したがって名義預金については、そもそも贈与契約が成立していないため、贈与税の時効とは関係がありません
(何時までたっても贈与者の預金のままです)

名義預金と生前贈与

名義預金については、当事者間で贈与が成立しているといった主張がなされることが多いようです。

相続税法上、贈与については特段の規定が設けられていないため、贈与の成否については民法における贈与の規定を参照することになります。

民法549条(贈与)
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

したがって、民法上、贈与契約が成立するためには、贈与者と受贈者の意思の合致が必要となります。

しかし、意思の合致といっても、意思それ自体は外から見てわかりません。
そこで贈与がなされたという時期にどのようなことが贈与者、受贈者間で行われていたのか、具体的な事情を検討することになります。

預金にいては、口座開設時の印鑑やその保管場所、利子の帰属、通帳類の保管場所、預金の引き出し等を誰が行っていたのか、贈与契約書の作成の有無、贈与額が暦年で110万円を超える場合の贈与税の申告状況等をもとに、贈与契約成立の有無が判断されます。

相続税の実地調査においては、贈与税の申告がない場合、贈与契約の成立を認めない調査官が多いようです。

税務署による事前調査

なお、税務調査では、最低でも家族名義等を含めた過去3年分の通帳の復元及び家族名義等を含めた3年の一定日における残高証明書等を入手した上で実地調査が行われていると考えられます。

名義預金に関する裁判例

【事例】

被相続人Aの相続人である甲、乙(Aと前妻との間の子 原告ら)が相続税の申告をしたところ、税務署長はAの配偶者丙名義の有価証券及び普通預金(普通預金等)がAの遺産にあたるとして更正処分等がなされました。
その後、丙は普通預金等を遺産に含めて修正申告しましたが、原告らは普通預金等の遺産該当性を争い訴訟を提起しました。

【税務署長(国)の主張】

ある財産が被相続人以外の名義になっていたとしても、相続開始時に被相続人に帰属する財産であったと認められれば相続税の課税財産となる。
被相続人に帰属する財産か否かは、単に当該財産の名義のみによって判断するのではなく、当該財産の購入原資の出資者、管理・運用の状況、収益の帰属者、名義人と管理及び運用をする者の関係等を総合考慮して判断すべきである。

B名義の普通預金等の原資はいずれもAが出捐したものであり、その管理・運用はAが行っていた。
原告らはAからBへ贈与があったと主張するが、具体的な時期や方法が特定されていない。

【原告らの主張】

財産の帰属はその名義だけではなく、その他の事情も想像考慮して判定すべきであるとしても、一般に財産を取得する者は自己の名義で取得及び管理するのであるから、財産の帰属先を判定する上で財産の名義は極めて重要な要素である。

Bは老後の生活に不安を有しており、Aに働きかけて普通預金等を贈与された。
Bは生前贈与を受けた際に申告していなかったため、税務調査をおそれて修正申告したものである。

【裁判所の判断】

裁判所は、被相続人以外の名義の財産が相続開始維持に被相続人に帰属するか否かは、

①当該財産又はその購入原資の出捐者
②当該財産の管理及び運用の状況
③当該財産から生ずる利益の帰属者
④被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係
⑤当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯
⑥その他の事情

を総合考慮して判断するのが相当、としました。

その上で、
財産の帰属の判定では、一般的には当該財産の名義が誰であるかは重要な一要素となり得るが、「我が国においては、夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義に預金等の形態で保有することも珍しいことではない」。
財産の管理・運用を誰がしていたかということは重要な一要素であるが、「夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることがさほど不自然であるということはできない」。

本件では、

①B名義の普通預金等はAが出捐したものである
②Bは、B名義の普通預金等を自ら管理・運用していた
③Bは、A名義の普通預金等についても管理・運用していた
④Aは、全財産をBに相続させる遺言を作成していた
⑤Aは、自分がなくなった後のBの生活を心配していた
⑥AからBに生前贈与した土地建物については贈与契約書を作成の上、税務署長に申告していた
⑦B名義の普通預金等から生ずる収益はBが取得していた
⑧Bが普通預金等を解約して他の用途に使用したといった事情はうかがわれない

裁判所は以上の理由によって、B名義の普通預金等はAの遺産であると判断しました。
(東京地判平成20年10月17日税資258号順号11053)

生命保険

相続と生命保険金

契約者・被保険者が被相続人、受取人が相続人となる生命保険契約において保険事故が発生すると、受取人は固有の財産としての生命保険金を受領します。

上記保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になる一方、一定の範囲で非課税財産として取り扱われることになります(相続税法12条)。

一方で、契約者が被相続人、被保険者が被相続人以外の生命保険契約の場合、相続が発生しても保険金が支払われないため、相続人が生命保険契約の存在に気付かず、生命保険契約が相続財産から漏れてしまうことがあります。

(この場合、生命保険契約の解約返戻金相当額が相続税の課税対象となります。)

支払調書

生命保険会社は、生命保険金等を支払った場合、支払事由ごとに決めらられた法定調書(支払調書及び合計票)を提出することが義務付けられています。
したがって、税務署は上記支払調書によって生命保険契約の存在を把握することができます。

(生命保険契約等の一時金の支払調書)
生命保険契約等から一時期の支払があったときに、支払った日の属する年の翌年1月31日までに、納税地の所轄税務署長に提出されます。
支払調書の提出が求められるのは、1回の支払金額が100万円を超えるものです。

(生命保険契約等の年金の支払調書)
生命保険契約等から年金の支払があったときに、支払った日の属する年の翌年1月31日までに、納税地の所轄税務署長に提出されます。
支払調書の提出が求められるのは、同一人に対する年中年金の支出金額が20万円を超えるものです。

(生命保険金・共済金受取人別支払調書)
その月中に生命保険金や共済金を支払ったときに、支払った日の属する月の翌月15日までに、納税地の所轄税務署長に提出されます。
支払調書の提出が求められるのは、保険金額が100万円を超えるものです。

法定調書

2015年(平成27年)の改正以前は、保険契約者が死亡し、生命保険契約が相続人等に引き継がれても、保険金の支払事由が生じていないため調書が提出されず、上記生命保険契約者の変更を税務署が把握することは困難でした。

そこで法改正が行われ、生命保険契約又は損害保険契約の契約者が死亡したことに伴い、これらの契約の契約者変更が行われた場合は、その変更の効力が生じた日の属する年の翌年1月31日までに、一定の事項を記載した調書を、その調書を作成した営業所との所在地の税務署長に提出しなければならないとされました。
この法改正によって、保険契約者が死亡し、当該保険契約を相続人が引き継いだ場合、こうした事実を税務署が把握できることになりました。

課税処分取消訴訟における主張立証責任

主張責任と立証責任

民事訴訟では、判決の基礎となる事実と証拠の収集は、当事者の責任かつ権能とされています(弁論主義)。
したがって、法律効果の発生に必要な事実(要件事実といいます)は、当事者が主張したものに限られ、主張がなければ、たとえその事実が証拠によって認められても、裁判所はその事実を認定することはできません。
このように、ある法律効果の発生要件に該当する事実が弁論に現れないため、裁判所がその要件事実の存在を認定できないことにより、法律効果の発生が認められないという一方当事者の不利益を主張責任といいます。

次に、権利の発生等の法律効果の発生が認められるには、要件事実の存在が必要ですが、訴訟でその存在が争われると、証拠によって立証する必要があります。
しかし、当事者が提出できる証拠や裁判所の能力にも限界があるため、要件事実が存在するのか真偽不明となることがあります。
要件事実の存否が真偽不明になったことで法律効果の発生が認められないという不利益のことを立証責任といいいます。

課税処分取消訴訟における主張立証責任

贈与の時期が争われた訴訟において裁判所は、
「本件のような課税処分取消訴訟においては、その訴訟物は課税処分の取消原因としての違法性一般(適法性の欠缺一般)、すなわち、処分の主体、内容、手続、方法等の実体上及び手続上のすべての面における違法であると解される。」
「したがって、原告(注:納税者のこと)は、課税処分を主体、名宛人、主文等によって特定し、それが「違法」である旨主張すれば、これによって訴訟物は特定され、請求原因に係る主張としては足り、これに対し、被告(注:国のこと)は、租税債権の発生原因事実として、課税処分が実体上及び手続上の適法要件を具備していることを抗弁として主張立証しなければならない。」
と判示しまいした。
(京都地判平成27年10月30日税資265号順号12750)

すなわち税務訴訟では、納税者が課税処分を主体、名宛人、主文等によって特定し、それが違法であると主張します。
こうして訴訟物が特定されると、国が当該訴訟物に係る租税債権の発生原因事実として、課税処分が実体上及び手続上の適法要件を具備していることを抗弁として主張、立証しなければなりません。

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