離婚・親権問題
- モラハラとは何ですか?
- モラハラやDVを理由に離婚できますか?
- DV防止法って何ですか?
最近、離婚原因としても注目されるモラハラ(モラルハラスメント)やDV(ドメスティックバイオレンス)について、弁護士が分かりやすく解説します。
モラルハラスメント(モラハラ)とは
モラルハラスメント(以下、「モラハラ」)とは、言葉や態度で相手を継続的に追い詰める精神的な暴力のことです。
モラハラという言葉は、フランスの精神医であるマリー=フランス・イルゴイエンヌ(Marie-France Hirigoyen)氏(以下、「イルゴイエンヌ氏」)の著書の「モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない」(1999年 紀伊国屋書店)が翻訳されてから一般的に認知されるようになったと言われています。
イルゴイエンヌ氏は、モラハラの加害者について、
「相手を傷つけ、貶めることによって自分が偉いと感じ、自分の心のなかの葛藤から目をそむけるような人間」
「うまくいかないことはすべてほかの人の責任にして、自分のことは考えなくてもすむようにする人間」
「『私には責任がない。悪いのはお前の方だ』と考える人間」
「罪悪感もなければ、精神的な葛藤から来る苦しみも感じない人間」
と表現しています。
モラハラの典型例には次のようなものがあります。
- 怒鳴る。強い口調で命令する。
- 何時間もしつこく説教する。問いつめる。反省文を書かせる。
- 土下座を強要して誤らせる。
- あながた大切にしている物を壊す。勝手に捨てる。
- 「殺すぞ」「死ね」などと脅す。
- 何を言っても無視して口をきかない。
- 大きな音を立てて(ドアを閉めるなどして)威嚇する。
- あなたの実家や親せき、友達をばかにして悪口を言う。
- あなたが人前でした発言・行為についてダメ出しをする。
- 「頭が悪い」「役立たず」「何をやらせてもできない」などと言って侮辱する。
- 異常な嫉妬をする。
- 自分のメールにすぐ返信しないと(電話にすぐ出ないと)怒る。
(「モラルハラスメント」のすべて 夫の支配から逃れるための実践ガイド」本田りえ 露木肇子 熊谷早智子 2013年 講談社)
後述するDV(ドメスティックバイオレンス=家庭内暴力)と異なり、モラハラの加害者は、自分は正しいことを行っていると考えているため、被害者が傷ついているといった認識を有していないことが大半です。
モラハラが離婚原因となるのか
程度にもよりますが、裁判上の離婚原因の一つである
[その他婚姻を継続しがたい重大な事由]
(民法770条1項5号)
に該当する場合があります。
[その他婚姻を継続しがたい重大な事由]に該当するかどうかは、
- モラハラの内容
- モラハラがどの程度継続しているのか
といったことがポイントになります。
モラハラを理由に離婚をしたいと思ったら
協議による離婚では、モラハラの加害者は自らを正当化するため、被害者の言い分を聞かないのが一般的です。
加害者が協議離婚に応じない場合、離婚調停や裁判離婚(離婚訴訟)で離婚を争うことになりますが、特に裁判離婚では加害者の一連の言動が継続しがたい重大な事由としてのモラハラに該当するのかが焦点となります。
被害者が加害者の一連の言動を指摘しても、加害者が否定すると水掛け論になることも少なくありません。そうした事態を避けるためには証拠を残しておくことが重要です。
例えば
- 加害者の発言を録音しておく
- 加害者の言動を録画しておく
- モラハラを受けたときにその内容と改善要求をメールで加害者に送信し、そのメールを残しておく
とった工夫が必要になります。
DV防止法とは
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)では、配偶者からの暴力を「身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義しています。
したがって、身体に対する直接の暴力だけではなく、被害者の「心身に有害な影響を及ぼす言動」についても、その規制の対象に含めています。
モラハラはこの被害者の心身に有害な影響を及ぼす言動に該当することになります。
次に、DV防止法上の「配偶者」には、法律婚だけではなく事実婚の者も含まれます。
他方、同じ住居に住民票をの届出をしている、結婚式を挙げている等の事情がなく、単に同居していた、交際していたといっただけでは事実婚にあたらず、したがってDV防止法における「配偶者」に含まれません。
また、保護命令を申立てることができる「被害者」とは、「婚姻中」に配偶者から身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた者となります。
したがって、婚姻中に暴力等を受けた者は「被害者」といえますが、婚姻中には暴力等を受けたことがなく、離婚後に初めて元の配偶者から暴力等をを受けた場合は「被害者」にあたらず、保護命令の申立ができません。
DV防止法による保護命令の内容
DV防止法では、裁判所が被害者の申立を認めると、次のような保護命令が発令されます。
被害者への接近禁止命令 DV防止法10条1項1号
接近禁止命令により次のことが禁止されます。
- 被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除かれます)その他の場所において被害者の身辺につきまとうこと
- 被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊すること
これは、被害者の身辺への「つきまとい」、被害者の住居、勤務先や通常存在する場所での「徘徊」を禁止する命令です。
退去命令 DV防止法10条1項2号
退去命令の内容は次のとおりです。
- 被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること
- 当該住居の付近を徘徊してはならないこと
電話等禁止命令 DV防止法10条2項
電話等禁止命令では次のことが禁止されます。
- 面会を要求すること
- その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと
- 著しく粗野又は乱暴な言動をすること
- 電話をかけて何も告げないこと
- 緊急やむを得ない場合を除いて連続して電話、ファックス、電子メールを送信すること
- 緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話、ファックス、電子メールを送信すること
- 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと
- その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと
- その性的羞恥心を害する事項を告げたり、知り得る状態に置くこと
- その性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと
子への接近禁止命令 DV防止法10条3項
子への接近禁止命令では次のことが禁止されます。
- 子の住居、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい
- 子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近の徘徊
親族等への接近禁止命令 DV防止法10条4項
親族等への接近禁止命令では次のことが禁止されます。
- 親族等の住居その他の場所において当該親族等の身辺につきまとうこと
- 当該親族等の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊すること
これらの保護命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。
保護命令の申立て
管轄
保護命令を申立てる裁判所の管轄は、
- 相手方(加害者)の住所地を管轄する地方裁判所
- 申立人(被害者)の住所地を管轄する地方裁判所
- 暴力が行われた地を管轄する地方裁判所
いずれにも申立をすることができます。
申立書面
保護命令の申立は書面で行います(DV防止法12条)。
申立書面は裁判所のホームページからダウンロードできます。
申立書や添付書類等は相手方が閲覧や謄写(コピー)することができます。
申立人が避難先等の住所を秘匿している場合は、従前の住所を記載する必要があります。
「申立の趣旨」では、いずれの保護命令(退去命令、接近禁止命令、電話等禁止命令、子への接近禁止命令、親族等への接近禁止命令)を申立てるのかチェックします。
「申立の理由」では、
- 申立人と相手方の関係
- 既に発令された保護命令事件がある場合はその事件番号等
- 相手方から受けたな身体に対する暴力や生命等に対する脅迫の内容
- 相手方から更に暴力を振るわれて,生命,身体に重大な危害を加えられると考える理由
- 子への接近禁止命令を申立てる場合は相手方が子を連れ戻すと疑うに足りる相手方の言動等
- 親族への接近禁止命令を申立てる場合は親族が相手方と面談を余儀なくされると考える理由
- 申立人が援助や保護を求めた配偶者暴力相談支援センターや警察
等を記載します。
提出資料
申立ての事情を裏付ける資料を提出します。
具体的には、相手方の暴力によりケガをした際の診断書や写真、暴力を受けた際の詳細な陳述書を提出するようにします。
裁判所の審尋
申立てが受理されると速やかに申立人への審尋が行われます。
その後、相手方に申立書等が送付され、一週間から10日程度で相手方の審尋が実施されます。
保護命令の言い渡し
保護命令は相手方が審尋期日に出頭した場合、その場で言い渡されます。
相手方が出頭しない場合、決定書が相手方に送達されることによって効力が生じます。
審尋における相手方の主張
審尋において、時に相手方が暴力を正当化しようとして、暴力に至る経緯を滔々と説明することがあります。
申立人の言動を非難して、暴力をふるうことも当時の状況ではやむを得なかった、といった話です。
しかし、こうした相手方の主張は、保護命令の発令に影響をあたることはまずありません。
DV防止法の要件は「配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫」を受けたことであり、「ただし、身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫に相当な理由がある場合はこのかぎりではない。」といった但書はありません。
相手方の暴力の理由の如何を問わず条文に規定された暴力や脅迫があると保護命令は発令されます。
保護命令発令後の警察・支援センターとの連携
裁判所書記官から警察等への連絡
裁判所による保護命令発令後、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人(DV被害者)の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長に通知するものとする、とされています。
(DV保護法15条3項)
申立人の住所、居所の警察本部に連絡がないと、申立人の身の安全が保障されないためです。
そのため、保護命令の申立にあたっては、当事者目録に現在の居所を記載しない場合も、裁判所から裁判記録以外の事務連絡簿等の非公開記録に実際の居所を記載するよう求められます。
警察と申立人の情報共有
保護命令発令の連絡を受けた警察(警察本部長)は、速やかに申立人に連絡をとり、住居、勤務先、その他通常所在する場所を把握したうえで、当該場所を管轄する警察署長に対して、保護命令が発令された旨とその内容を通知することになっています。
その上で警察本部長等は、申立人の生活実態に変化があったり、保護命令の相手方に特異な言動がみられるといった状況が生じた場合は、必要な連携を図ることとされています。
支援センターとの連携
保護命令申立書に支援センターに事前相談した旨の記載がある場合、裁判所書記官は当該支援センターにも保護命令発令の事実とその内容を通知することとされています。
(DV保護法15条4項)
申立人から相談を受けていた支援センターに保護命令発令等の事実を通知することで、支援センターが、申立人が危険等に対処できるような支援を行えるようにするためです。
DV防止法の保護命令の再度の申立
保護命令の再度の申立の可否
保護命令の申立に回数 制限はないため、申立人は再度同じ命令の申立をすることができます。
申立人が、保護命令発令後に新たな身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けていない場合でも、申立をすることになった身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を理由として再度の申立をすることができます。
再度の申立が認められる要件
再度の申立が認められるには、その時点で、被害者が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認められる必要があります。
(DV防止法10条)
再度の申立の手続
再度の申立の要件や手続については、退去命令を除き、初回の申立と同様となります。
事前相談(DV防止法12条1項5号)については、初回の申立以前にかかる相談ではなく、再度の申立時点での相談が対象となります。
申立の時期については、再度の申立にかかる保護命令発令までに空白が生じないようにするのであれば、審理に必要な期間を考慮して、初回の保護命令の満了日から2週間前に申立を行うことを検討します。
離婚後の元配偶者によるつきまとい等
DV防止法の規制対象
DV防止とは「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」のことです。
この法律の名前にあるとおり、DV防止法の規制対象は「配偶者からの暴力」や「脅迫」です。
被害者が離婚をしても「当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力」を受ける場合や、「配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚」した場合は規制対象に含まれます。
しかし婚姻期間中に暴力や脅迫を受けることはなかったが、離婚後に離婚相手の家に行って付きまとったり、メールや電話を頻繁に欠けてもDV防止法では規制できません。
ストーカー規制防止法
ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)の規制対象は、「つきまとい等」(同法2条)です。
「何人も、つきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。」(同法3条)と規定されています。
同条2条1項が規定する付きまとい等とは次のとおりです。
- つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
- その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
- 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
- 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
- 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
- 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
- その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
- その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。
このようにストーカー規制法では規制対象が配偶者に限られず、また暴力や脅迫の有無も関係ありません。
しがたって離婚後に元夫(妻)が付きまとったり、メールや電話を頻繁に掛けてくる場合は、ストーカー規制法の適用を検討することになります。
配偶者、離婚した元配偶者、同棲している恋人から暴力や脅迫を受けた場合、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)による保護命令の申立を検討することも必要です。
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