離婚・親権問題

  1. 別居している夫が生活費を払ってくれない場合どうすればいいですか?
  2. しっかり養育費を確保するにはどんな準備が必要ですか?
  3. 養育費は何時までもらえますか?

別居期間中の婚姻費用、離婚後の養育費は、総支払額が高額になることもあります。婚姻費用や養育費を取り決める際のポイントを弁護士がご紹介します。

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婚姻費用とは

夫婦間の生活保持義務

離婚の話し合いをしている別居中の夫婦であっても、法律上夫婦であることに変わりはありません。
夫婦である以上、互いに助け合う義務があります。

婚姻費用とは、別居中の夫婦の間で,夫婦や未成熟子の生活費などの婚姻生活を維持するために必要な一切の費用のことです。
具体的には、衣食住の費用のほか,出産費,医療費,未成熟子の養育費,教育費,相当の交際費などのおよそ夫婦が生活していくために必要な費用が含まれます。

直系血族間の生活扶助義務

直系血族及び兄弟姉妹の間では、互いに扶養をする義務があります(民法877条1項)。
直系血族の範囲については、実親子、養親子を問わず、子が嫡子であっても被嫡子であってもよいとされています。
直系血族間の扶助義務は「生活扶助義務」とされ、自分の生活に余裕があれば扶助すれば足りると言われています。

したがって、夫と別居した妻の生活が困窮している場合、夫には妻に対する「生活保持義務」が、妻の両親が健在の場合には子(妻)に対する「生活扶助義務」がそれぞれ認められられます。
もっとも、妻の両親の生活扶助義務は、自分たちの生活に余裕があれば扶助すれば足りるものなので、妻に対する生活保持義務より程度の低い義務となります。
例えば、別居当初は妻が実家からの援助を受けていたが、その後に実家の経済状況化が悪化して援助が途絶えたといった場合、妻は夫に対して、生活保持義務に基づく婚姻費用の分担を請求することができます。

婚姻費用の請求

婚姻費用の分担について、夫婦間で話し合いがまとまらない場合、話し合いができない場合は、家庭裁判所にこれを定める調停又は審判の申立てをすることができます。
調停手続を利用する場合には,婚姻費用分担調停事件として申立てをします。

調停手続では,夫婦の資産,収入,支出など一切の事情について,調停委員等が当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握して,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指し話合いが進められます。

話合いがまとまらず調停不成立になった場合、自動的に審判手続が開始され,裁判官が,必要な審理を行った上,一切の事情を考慮して,婚姻費用の金額等を決めることになります。

婚姻費用分担の始期

婚姻費用分担の始期

婚姻費用が何時から請求できるのかについては、次のような裁判例があります。

  1. 要扶養状態発生時(東京高決昭和42年9月12日ほか)
  2. 要扶養状態を知りえた時期(広島高決昭和50年7月17日ほか)
  3. 別居時(大阪高決昭和59年12月10日ほか)
  4. 婚姻費用の分担請求時(大阪高決昭和43年10月28日ほか)
  5. 調停・審判の申立時(大阪高決昭和62年6月24日ほか)

現在の実務では、婚姻費用の分担請求は請求時以降とするものが大半です。
ここに請求時とは、調停や審判の申立時だけではなく、それ以前に事実上請求していれば、その請求時点が始期となります。
内容証明郵便によって婚姻費用の分担を請求した場合は、その時期が始期となるという裁判例もあります(東京家審平成27年8月13日)。

過去に遡って請求することの可否

請求時点より過去に遡って婚姻費用の分担請求を認めると、その期間によっては義務者が一時に支払う金額が多額になるなど、義務者にとって過酷な結果となります。
また過去に遡って婚姻費用の請求を認めなくても最終的に財産分与で清算することも可能です。
したがって、一般的には過去に遡っての婚姻費用の分担請求は認められません

一方で、義務者の収入や資産からみて過去に遡って婚姻費用の分担を認めても過酷とはならずその分担を免れさせることが著しく公平に反する場合や、義務者が権利者の要扶養状態を知りながら権利者の婚姻費用の分担請求を妨げた事情がある場合などには、過去に遡っての請求が認められる場合があるといわれています。

調停申立に必要な費用

収入印紙1,200円分
連絡用の郵便切手代(金額は申立てをする家庭裁判所に確認して下さい)

婚姻費用の額

2019年12月23日に、東京と大阪の家庭裁判所裁判官によって、養育費・婚姻費用の算定表が発表されました。
夫婦間の子どもの有無、子どもの人数、子どもの年齢別に10の算定表が公表されています。
調停や審判ではこの算定表が婚姻費用決定にあたり重視されています。

平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

婚姻費用(養育費)の算定表における総収入の認定方法

婚姻費用や養育費を決めるにあたり裁判所では算定表が参考にされます。
算定表では、権利者(婚姻費用は養育費を受取る人)と義務者(これらを支払う人)の総収入によって婚姻費用や養育費の具体的な金額を決めていくことになります。
それでは、権利者や義務者の総収入はどのように認定されるのでしょうか。

給与所得者の総収入

支払義務者が給与所得者の場合、直近の源泉徴収票や課税証明書によって総収入を認定します。
もっとも源泉徴収票や課税証明書は、前年度の総収入を明らかにする資料です。
そこで、支払義務発生時点の総収入が前年度と異なる場合は、直近3か月分の給与明細等で総収入を認定することもあります。

自営業者の総収入

自営業者の場合は、確定申告書の「課税されるべき所得金額」が総収入にあたります。
もっとも「課税されるべき所得金額」は、税法上、種々の観点から控除がなされています。
そこで、実際の支出を伴わない①青色申告特別控除、②雑損控除、③寡婦寡夫控除、④勤労学生障害者控除、⑤配偶者控除、⑥配偶者特別控除、⑦扶養控除、⑧基礎控除については控除しません
⑨専従者給与が計上されている場合も、実際には給与が支給されていない場合は控除しません。
さらに、⑩医療費控除、⑪生命保険料等控除についても、標準的な保険医療費等は既に特別経費として控除されているので控除しません。

自営業者における減価償却費の取扱い

減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少する固定資産を取得した際、取得した年に全て費用計上するのではなく、耐用年数に応じて費用を分散計上する会計処理の方法です。
例えば、仕事に使う車を購入した際、車は買った年だけではなく、何年も仕事につかえます。
そこで普通車の新車を購入した場合などは、その耐用年数の6年にわたって費用計上をします。
しかし、上記事例で車を一括で購入した場合、お金が出ていくのは購入した年だけで、あとの5年間は実際には支出がないのに費用が計上されることになります(実際の減価償却の計算では月割で金額を算定します)。
そこで自営業者の年収の算定においても、確定申告書の「課税される所得金額」に減価償却費を加算すべきではないかが問題となります。
この問題については、上記事例のように減価償却資産購入時に代金を全て支払っている場合は、その後に実際の支出がないので減価償却費を「課税される所得金額」に加算して年収を求めます。
一方で、ローンで減価償却資産を購入するなど、計上された減価償却費に見合った支出が実際にある場合には、「課税される所得金額」に減価償却費を加算しないで年収を求めることなります。
したがって、自営業者の年収の算定における減価償却費の取扱いについては、実際の支出があるか否かをしっかりと確認する必要があります。

給与所得と事業所得がある場合

この場合、収入を給与所得か事業所得にそろえて合算します。
給与所得を事業所得の総収入に換算する場合は、給与所得から職業費と社会保険料を控除します。
反対に、事業所得を給与所得に換算する場合は、事業所得としての総収入に社会保険料を加算します。

義務者が働けるのに働いていない場合

無職で収入がない場合は、原則として収入はゼロとなります。
一方で、働く能力がある場合は、潜在的稼働能力があるものとして収入を認定することもあります。
具体的には賃金センサス等を用いて収入を推計することがありますが、定職について働いた経験がある場合と、そうした経験がない場合では、賃金センサスの適用区分を分けたりします。
後者の場合は、短時間労働者の性別・年齢別の年間収入によって推計することになります。

義務者が生活保護を受給している場合

生活保護は、国が困窮した人が最低限の生活を送れるように生活を保障するものです。
したがって、この場合、受給者は婚姻費用や養育費の分担義務を負いません。

義務者に債務がある場合

養育費や婚姻費用の算定において、義務者(支払う側)に債務があると、義務者側から債務を考慮して養育費や婚姻費用を算定して欲しいといった要望が出されることがあります。
しかしながら、債務の支払いを扶養義務に優先させることは適当ではないため、債務を養育費・婚姻費用算定における特別経費に含めることは行なわれていません。
他方で、その債務の発生原因が共同生活に関するものである場合(婚姻期間中に購入した車のローン等)、別居後にこれを一方だけが負担することは公平とはいえません。
そこで、共同生活に関して生じた債務については、養育費・婚姻費用の算定の際に考慮されることがあります。

義務者が失業保険を受給している場合

失業保険は生活保護と趣旨が異なるため受給者は婚姻費用や養育費の分担義務を負います。
その上で、受給者に必要な職業費を考慮して総収入の19~20%を控除します。

義務者が年金生活者の場合

権利者と義務者の年金をそれぞれの収入として婚姻費用を算定します。
もっとも、老齢年金の受給者は通常仕事をしていません。
そこで、職業費を控除せずに婚姻費用を算定します。

義務者の収入が不明な場合

義務者が源泉徴収票や確定申告書等の提出を拒み、その結果義務者の収入が明らかにならないことがあります。
こうした場合に備えて、権利者が、義務者の源泉徴収票等を同居している時に予め確保しておきます。
また、そうした事前の準備がない場合、裁判所から勤務先に調査嘱託をして年収を調査したり、あるいは賃金センサスによって収入を認定することがあると説明することで、義務者から任意で源泉徴収票の提出を受けられる場合があります。

賃金センサスとは、賃金構造基本統計調査のことで、労働者の種類,職種,性別,年齢,学歴,勤続年数,経験年数に応じて、それぞれの平均賃金を算出したものです。

賃金センサスは膨大な数に上るため、義務者の年収を認定するためにどの賃金センサスを用いるべきかについて、権利者から義務者の就業状態を聴収するなどして認定していくことになります。

義務者が収入が減少すると主張する場合

義務者の収入が実際に減少すると認めるか否かは事実認定の問題です。
したがって、義務者にはその主張を裏付ける資料の提出を求めます。
その上で義務者の主張の是非について判断することになります。

会社経営者が意図的に自らの給料を低くしていると考えられる場合

会社経営者が義務者の場合、婚姻費用や養育費を低額にするため、意図的に自らの給料を低くすることがあります。
こうした場合、義務者の生活費は会社の必要経費に振り替えられている可能性があります。
そこで、会社の決算書や確定申告書の提出を求めた上で、必要経費の内容について説明を求め、給料が不当に低くなっていないか確認を行うことになります。
もっとも、義務者が決算書や確定申告書の提出を拒んだ場合は、それ以上の追及が困難となることもあります。

婚姻費用分担の終期

婚姻費用分担の終期

「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」とされおり(民法760条)、婚姻費用分担の義務は夫婦が婚姻関係にあることで生じます。
もっとも、実際の婚姻費用分担請求は、夫婦が別居している時に問題となります。

したがって婚姻費用分担の終期は、別居が円満に解消され同居に戻るか、離婚して婚姻関係が解消されたときに終期となります。
実際の審判で婚姻費用の終期については、「離婚又は別居状態の解消まで」と表現されることが一般的です。

別居状態が解消されても婚姻費用分担の終期が到来しない場合

妻(申立人、被告)が夫(相手方、原告)に対して婚姻費用の申立を行いました。
裁判所では、「相手方は、申立人に対し、平成20年3月1日から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで、毎月末日限り13万円を支払え」との審判が下されました。
その後夫は、平成22年10月6日以降自宅に戻り、別居状態が解消されたとして請求異議の訴えを提起しました。

裁判では、「別居状態の解消」という条件が成就したか否か、仮に成就したとしても民法130条※の類推的適用がなされるのかが問題となりました。

※民法130条(条件の成就の妨害等)
1項
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2項
条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

判決では、平成22年10月6日以降の状況は「当事者の別居状態の解消」という解除条件にあたるとしながらも、
「原告は、被告との婚姻生活を修復するために自宅に戻ったのではなく、自宅で寝泊まりすることが、本件審判の主文2項の「別居状態の解消」という解除条件を充足することになることを認識しながら、あえて、婚姻費用の支払義務を免れるために、自宅に戻ってきたことが認められ、これは、条件の成就によって利益を受ける原告が故意に条件を成就させたものといえる。」
「原告が、婚姻費用減額の調停や審判という手続をとらずに、婚姻費用の支払義務を免れるために、本件審判の主文2項の「別居状態の解消」という解除条件を成就させることは、信義則に反するというべべきである。」
「したがって、民法130条の類推適用によって、被告は、条件不成就とみなすことができるから、本件審判の主文2項に基づく原告の婚姻費用支払義務は消滅しない。
と判示しました。
(名古屋家岡崎支判平成23年10月27日)

住宅ローンがある場合の婚姻費用の算定

離婚を前提とした別居期間中、妻が子と一緒に夫名義のマンションで暮らしている。
そして夫がマンションのローンを支払っている。

こうした場合に、夫が支払っている住宅ローンの金額が、標準的な婚姻費用の金額を上回っていると、夫から妻に対して、婚姻費用の支払は必要ないといった主張がなされる場合があります。
しかし、この場合、婚姻費用の支払義務者(夫)による住宅ローンの支払は、自らの資産形成のための債務の支払ともいえ、権利者(妻)の生活保持義務を果たしているとはいえません。
一方で、権利者は別途、婚姻費用をそのまま請求できるとすると、今度は義務者の負担が過重になります。

住宅ローンがある場合の婚姻費用の調整方法

義務者が住宅ローンを支払っている場合の婚姻費用の調整方法については、

  1. 義務者の住宅ローンの支払額のうち、婚姻費用の簡易算定表で特別経費として考慮されている標準的な住宅関係費を超えた部分を上限とした金額を特別経費に加算する方法
  2. 権利者及び義務者の年収から算定された婚姻費用の金額から、権利者が負担を免れている部分として、権利者の年収に応じた標準的な住居関係費を控除する方法

があります。
簡単に説明すると、
1.は、婚姻費用を算定する際の義務者の年収から、住宅ローンの支払額のうち、一定金額を控除することで、住宅ローンを支払っていない場合の婚姻費用から一定の金額を減額する方法です。
2.は、簡易算定表で一旦婚姻費用を算定した後、住宅ローンの支払額のうち一定金額を控除する方法です。
すなわち、権利者(妻)は婚姻費用の簡易算定表で支払うことになっている住居費について、実際に支払っていないのだから、その分婚姻費用を減額しましょう、ということです。

いずれの方法も、権利者と義務者の年収及び標準的な住居費を基にして婚姻費用の額を調整することになります。

住宅ローンを支払っていても婚姻費用が調整されない場合

一方で、別居に至った理由や、権利者と義務者の年収、住宅ローンの支払額等から、義務者が住宅ローンを支払っていても、婚姻費用が調整されないこともあります。
また、住宅が夫婦の実質的な共有財産といえる場合は、婚姻費用ではなく、財産分与において考慮されることもあります。

有責配偶者からの婚姻費用分担請求

有責配偶者とは

有責配偶者とは、離婚原因をつくった一方の配偶者のことです。
有責配偶者の典型は、不貞行為やDVなどを行った配偶者です。

有責配偶者については、有責配偶者から離婚の請求ができるのか等が問題となりますが、今回は、有責配偶者から婚姻費用分担請求ができるのかについて考えてみます。

有責配偶者からの婚姻費用分担請求

婚姻費用分担義務については、婚姻関係の破綻の程度に応じると考え(破綻がすすむと婚姻費用分担義務が小さくなる)、有責性についてはさほど重視しないという考えもあります。
一方、多数の裁判例では、有責性が婚姻費用分担の減額又は免除の事由となることが認められています。

民法752条は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」として、夫婦の同居、協力及び扶助の義務を定めています。
裁判において有責性が考慮されるのは、夫婦の扶助義務に反した配偶者が、自らその義務を怠りながら、他方配偶者に履行を求めることは信義則に反すると考えられるからです。
したがって、有責配偶者からの婚姻費用分担請求は、その責任の程度によって、分担請求が全く認められないか、認められても減額されることになります。

他方で有責配偶者が未成熟子を監護している場合、子には責任がないため、子の監護費用相当分については認められます
裁判例1 福岡高宮崎支決平成17年3月15日
相手方(妻)がXと不貞関係があり、抗告人(夫)との間でXとの交際を取りやめるとの合意書を交わしたが不貞関係を続け、その後同趣旨の合意書を作成した後、双方から離婚訴訟が提起された事例

「相手方は、有責配偶者であり、その相手方が婚姻関係が破綻したものとして抗告人に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めることは(略)婚姻共同生活が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したこと自認することにほかならないのであるから、このような相手方から抗告人に対して、婚姻費用の分担を求めることは、信義則に照らして許されない。」
裁判例2 大阪高決平成20年9月18日
抗告人(夫)が相手方(妻)の不貞行為を理由に離婚を決意して家を出たが、相手方は男性とラブホテルに宿泊したことを認める一方で男性との間に不貞行為はなかったと主張した事例

「当該別居に至った原因が、専らあるいは主として分担を求める権利者に存する場合には、信義則上、上記義務は(注 生活保持義務のこと)は軽減され、分担額は、権利者が現に監護している未成熟子に係る養育費相当分に止められ、権利者に係る部分まで分担する必要はないものと解するのが相当である。」
「当事者の別居は、抗告人が相手方の不貞を強く疑って家を出たことによるもので、抗告人がそのような疑いを抱いたことについて、それなりの客観的根拠があったものと評価することできる。」

夫婦双方が有責の場合の婚姻費用分担請求

権利者が有責であるが、義務者も有責であるなど、夫婦双方に婚姻関係破綻の責任がある場合、権利者の請求を一切認めないことは相当ではありません。
そこで夫婦双方が有責の場合の婚姻費用分担請求については、責任の程度に応じて分担額を減額して調整することになります。

裁判例によれば、減額の程度は3割から7割となります。
裁判例1 大阪高決平成19年2月28日
資産家の相手方(夫)は、不妊治療が失敗したことが原因で抗告人(妻)と喧嘩となり、生活費を一方的に減額する一方、女性Yと交際したため抗告人が激しく非難して粗暴な行為に出たため別居を開始。
一方抗告人も別居の半年前から男性と不貞関係を継続した事例。

「相手方には、抗告人との同居期間中と同程度の生活が維持できるように生活費を支給すべき義務があるとはいえず、相手方の支払うべき婚姻費用分担額は、上記基準からは相当程度減額されてしかるべき」として生活保持義務を前提とした場合の70万円の半額35万円が相当であるとした。
裁判例2 大阪高決平成20年12月18日
十分な生活費を渡さず、粗暴な抗告人(夫)に対して不満を抱いていた相手方(妻)は抗告人との離婚を考えていたが、一方で家庭生活から逃避するために始めた趣味に没頭し、その過程で知り合った男性Xと不貞関係を続けていた事例。
裁判所は、相手方の行為は不貞行為にあたり、婚姻関係破綻の一原因になることは否めないものの、抗告人も責任があるとして、抗告人が分担する婚姻費用について3割の減額を認めた。

養育費とは

養育費とは、離婚後に子どもと離れて暮らす親(非監護親)から、子どもと一緒に暮らす親(監護親)に対して支払われる未成熟子(未だに自立できないでいる扶養を必要とする子のこと)の生活費・教育費・医療費のことです。
民法877条1項には、直系血族は互いに扶養する義務があると規定しています。
したがって、離婚をしても親は血のつながった子を扶養する義務を負うことになります。

養育費の請求

養育費の分担や金額について、当事者間で話し合いがまとまらない場合、話し合いができない場合は、家庭裁判所にこれを定める調停又は審判の申立てをすることができます。
調停手続を利用する場合には,子の監護に関する処分(養育費)調停事件として申立てをします。

調停手続では,養育費がどのくらいかかっているのか,申立人及び相手方の収入がどのくらいあるかなど一切の事情について,当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握して,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指し話合いが進められます。

話合いがまとまらず調停不成立になった場合、自動的に審判手続が開始され,裁判官が,必要な審理を行った上,一切の事情を考慮して,養育費の金額等を決めることになります。

調停申立に必要な費用

収入印紙 1,200円分
連絡用の郵便切手代(金額は申立てをする家庭裁判所に確認して下さい)

養育費の額

2019年12月23日に、東京と大阪の家庭裁判所裁判官によって、養育費・婚姻費用の算定表が発表されました。
夫婦間の子どもの人数、子どもの年齢別に9つの算定表が公表されています。
調停や審判ではこの算定表が婚姻費用決定にあたり重視されています。

平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

もっとも算定表の金額が絶対というわけではありません。
子が私立の中学校に進学する場合や子に持病がある場合など、個別の事情がある場合は算定表とは別の取決めがなされる場合もあります。

養育費は何時まで支払う必要があるのか

養育費をいつまで支払うのかについては、特段の決まりはありません。

もっとも、離婚した親(たとえば父)が、監護親(子と一緒に暮らしている親 たとえば母)に養育費を支払うのは、父には子を扶養する義務が離婚後も継続するためです。
したがって、養育費をいつまで支払えばいいのかという問題は、子の扶養義務をいつまで負うのかという問題と考えることもできます。

親が子の扶養義務を負うのは、子が独り立ちできるまでと考えるのが一般的です。
そこで子が成人するまで、すなわち20歳になるまで養育費を支払うと取り決めることが一般的です。
(実際には、年度に合わせて「子が20歳となった月が含まれる年度の末月まで」といった取決めをします)

もっとも、両親が共に大学を卒業していて、父も子が大学に進学することを希望している場合は、子が22歳になるまで養育費を支払うといった合意をすることもあります。

一方で、成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日から施行されます。
この法律が施行されると、法律上は18歳で子は成人です。
したがって今後は、子が成人する18歳までしか養育費を支払わない、といった主張をする養育費の支払義務者がでてくる可能性があります。

養育費の支払方法

養育費の月払い

家賃、クレジットカード、電話代などの生活費の多くは月を単位にして集計され、請求されています。
養育費は、非監護親の未成熟子に対する生活保持義務(自分と同じ水準の生活を送ることができるようにする義務)に基づくものなので、月払いで支払われることが一般的です。

支払対象の月と支払期限については、①翌月分を前月末日までに支払う先払い、②当月分を当月末日までに支払う当月払い、③当月分を翌月末日までに支払う後払い、があります。
実務では、②当月分を当月末日までに支払う当月払いが多いと思われます。
支払方法は、現金を直接交付する、送金する、といった方法もありますが、ほとんどが権利者の口座に義務者が振込む方法で支払われています。
養育費を振込んで支払う場合、その振込手数料を権利者、義務者いずれが負担するのかを予め決めておく必要があります。

賞与時の加算

義務者が給与所得者の場合、賞与の時期に養育費を増額して支払う合意がなされることがあります。
賞与の時期に養育費を増額する場合は、それが、①通常の養育費に対する加算なのか、②賞与月の養育費の月額を変更するものなのか、明確にしておく必要があります。
なお、義務者の勤務先によっては、現在支給されている賞与がこれからの支給されるとは限りません。
そこで、一年間の支払総額が同じであれば、権利者にとっては賞与時期に養育費を増額する取り決めより、その増額分も含めて月々の養育費を多くした方が有利になることが多いと思います。

例)
① 養育費の月額 10万円 年2回 賞与月に各6万円(計12万円)を加算する
② 養育費の月額 11万円

どちらも年間の養育費の総額は132万円だが、①のケースで賞与が支給されず、賞与月の加算分12万円が支払われないと総額は120万円となる可能性がある。

養育費の一括払い

義務者の将来の資力等に不安があるため、権利者が養育費の一括払いを要求することがあります。
養育費の一括払いは権利者に贈与税が課税されるおそれがあります。
加えて義務者にとっても、権利者が一括で受取った養育費を浪費した場合、改めて養育費を支払う必要があるのかといった問題が生じる可能性があります。
したがって、義務者の将来の資力等に不安がある場合も、養育費の一括払いはおすすめできません。

不動産を養育費の支払に代えて譲渡する場合

居住用不動不動産を養育費の支払に代えて譲渡すると、権利者は家賃等の支払がなくなるため、収入等をその他の生活費に充当することができます。
また賃貸マンションやアパートを譲渡すると、家賃収入が養育費の代わりとなります。
この場合、義務者から権利者への不動産の譲渡は、代物弁済にあたると考えられます。
なお、不動産を譲渡する場合、義務者に譲渡所得税が課税される可能性があるため注意が必要です

養育費をしっかり確保するために

養育費をいつまで支払うのかといった問題以前に、そもそも養育費を支払ってもらえるのか、といったことを考えておく必要があります。
未成年の子がいる夫婦が離婚をする場合、養育費支払いの取決めをしている夫婦は半分以下といわれています。
さらには、養育費の取決めをしていた場合でも、実際に養育費を約束どおりに支払ってもらえているのは3割程度ともいわれています。
したがって、まずは養育費をいつまで支払ってもらうのかという問題以前に、義務者から養育費をしっかり支払ってもらえるようにしておく必要があります。
具体的には、協議離婚する場合も養育費支払の取決めは口約束ではなく、書面で残すようにします。
さらに、その後の強制執行を容易にするために、強制執行認諾文言が付いた離婚公正証書を作成することがおすすめです。
また、調停離婚を利用して調停調書に養育費支払の条件等を記載すれば、調停調書は確定判決と同じ効力を有するため、同じく強制執行が容易になります。

離婚後の養育費の増額請求・減額請求

当事者間で養育費の金額を合意すると、当該合意には法的な拘束力が生じます。したがって、合意後に当事者の一方が勝手に養育費の増額や減額を求めることはできません。

しかし、夫婦が離婚する際、養育費の取決めを行っても、離婚時には予想できなかった個人的・社会的事情の変化が生じることがあります。
父母の会社の倒産やリストラ、親や子の病気、子どもの進学。
こうした事情が生じた場合は、養育費の増額や減額を請求することが考えられます。

当事者間の協議による養育費の増額・減額

養育費の増額を請求したい場合、まずは権利者(養育費を受取る側)から義務者(養育費を支払う側)に対して増額の必要性を説明したうえで、増額したい金額を伝えます。
同様に、養育費の減額を請求したい場合、義務者が、権利者に対して、減額の必要性を説明したうえで、減額したい金額を伝えます。
当事者双方が合意できれば、新たな合意内容で公正証書等を作成します。

当事者双方が養育費の増額・減額について合意できない場合

当事者間の話し合いで養育費の増額や減額の合意ができない場合、それでも増額や減額を希望する場合は、家庭裁判所の調停を利用することになります。
養育費増額(減額)調停を申立て、調停の場で増額(減額)が必要な理由や、その主張を裏付ける証拠等を提出して当事者間で話し合うことができます。
養育費増額(減額)調停においても当事者間が合意できない場合、審判に移行することになります。
養育費増額(減額)審判では、両親の社会的地位・学歴・経済力や、子どもの状況を踏まえ、裁判官が養育費の増額(減額)の可否について判断することになります。
したがって、養育費の増額や減額を請求したいと考えている方は、
当事者間の協議
当事者間の協議で合意できない場合の家庭裁判所の調停
家庭裁判所の調停で合意できない場合の家庭裁判所の審判

の順で話し合い等をすすめていくことになります。
もちろん、全ての手続きで弁護士に依頼をして交渉に参加してもらうことも可能です。

過去の養育費の請求

養育費の請求の始期については、

①扶養権利者が扶養を請求したり、扶養を受ける意思を明確にした時点で義務者の扶養義務が具体化するとして、養育費を請求した時点からとするものと、
②扶養権利者の要扶養状態という事実があれば扶養義務が具体化するとして、過去に遡って養育費の請求ができるが、扶養義務者に多額の負担を命じることが公平に反する場合は相当な範囲に限定する、

という異なる考え方にたつ、それぞれ複数の審判例があります。

②の審判例は、親であれば未成熟子が要扶養状態にあることは分かる以上、請求時以降に養育費の負担を限定する必要はないと考える立場です。
このように審判例が分かれているため、過去の養育費を遡って請求できるかについては事案によって判断されることになります。
そこで養育費を出来るだけ多く請求するためには、離婚時に養育費を負担について取決めを行っておく必要があります。
また、養育費の取決めをせずに離婚した場合は、早期に養育費の請求をする必要があります。
なお、婚姻費用の負担については、調停又は審判の申立時がその始期とされるのが一般的です。

養育費を支払わない相手方の面会交流を制限できるか

離婚の際、離婚相手の養育費支払いが滞った場合、離婚相手と子の面会交流を制限するような契約はできるのでしょうか。
面会交流をいわば人質にして養育費の支払いを確保したいという気持ちはわかりますが、養育費の支払いは親の扶養義務の履行であり、面会交流とは直接関係ありません。
面会交流はあくまで子の健全な発達のために行うものである以上、養育費の支払いをその要件とすることはできないと考えられています。
公証人事務においても、養育費の支払いを面会交流の条件とするような公正証書は作成してもらえないようです。

養育費を0とする合意は有効か

養育費の合意は、当事者間の監護費用の分担をどうするかの決定であり、養育費をゼロとする合意も、法律的に無効になることはありません。
しかし、子の扶養を受ける権利は、親が勝手に放棄することができないため、親同士で養育費を請求しない約束をしていても、子は親に扶養料を要求できます
したがって、離婚の際に母親が養育費を放棄したとしても、親権者となった母親は、子を代理して養育費を父親に請求することができます。

離婚相手が再婚した場合の養育費

再婚相手と子が養子縁組をした場合

子を連れた親が再婚しても、再婚相手と子の間には当然には親子関係は生じません。
再婚相手と子が養子縁組をすることで始めて法律上の親子関係が生じます(民法809条)。
その結果、養親は未成年の養子に対して扶養義務を負うことになります。

他方で、実親は、子が養親に扶養されるようになっても、当然に子に対する扶養義務が無くなることはありません。
その結果、養親と実親は共に子の扶養義務者となります。
もっともその扶養義務の順位は、養親が第一位、実親が第二位になると解されています。

過去の審判例では、離婚した妻が別の男性と再婚し、連れ子と再婚相手の男性が養子縁組した事例で、元夫の事情変更による養育費減額請求が認められました。
(東京家審平成2年3月6日)

また、子が母の再婚相手と養子縁組した後、元夫に対して養育費の支払を求めた事例で、元夫は母や養父に劣後する扶養義務を負うに過ぎないとして、元夫に対する養育費の支払い請求は却下されました。
(神戸家姫路支審平成12年9月4日)

再婚相手が子と養子縁組しない場合

再婚相手と子が養子縁組しない場合、実親が子に対して一時的な扶養義務を負うことに変わりはありません。
もっとも、再婚後の過程の状況や実親の経済状況等が考慮されるため、再婚相手が子の養育費を含む生活費全般を負担する経済力と意思が認められる場合は、実親からの養育費減額請求が認められる可能性があります。

相手方が離婚後に破産した場合の養育費

破産の申立をして裁判所から免責許可決定が出れば、破産者はそれまでの債務について返済義務を免れます。
しかし破産法では、政策的な理由で、免責許可決定が出ても免責されない債務が複数規定されています。

免責されない債務には、「租税債務、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」などと並んで
「民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務」
が規定されています。

したがって、離婚後に養育費の支払義務者が破産手続により免責許可決定を得ても、養育費の支払義務は継続することになります。

養育費・婚姻費用に関する差押えの特例

扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例

養育費や婚姻費用を義務者が支払わない場合、権利者は債務名義を得る等して義務者の財産を差押えることになります。しかし、請求が確定期限の到来にかかる債権では、その期限が到来するまでは強制執行を開始することができないのが原則です。
(民事執行法30条1項)
これを養育費や婚姻費用の支払にそのまま当てはめると、権利者は義務者が不払いをする都度、強制執行するか、不払額がある程度まとまってから強制執行をする必要が生じます。
そもそも養育費や婚姻費用は、権利者の生活を維持するために不可欠なものであり、不払額がまとまるまで強制執行ができないとなると、権利者に経済的な困難を強いることになります。
そこで養育費や婚姻費用といった扶養義務等に係る定期金債権については、その一部が不履行となれば、まだ期限が到来しない定期金についても一括して、義務者の給料等継続的給付にかかる債権に対する強制執行ができることとされています。

請求債権に関する要件

特例の対象となる請求債権は、次の定期債権で、確定期限のあるものに限られます。

  1. 夫婦間の協力扶養義務(民法752条)
  2. 婚姻費用分担義務(同760条)
  3. 子の監護費用分担義務(同766条等)
  4. 扶養義務(同877条乃至880条)

この特例で強制執行を開始するには、各定期金債権の一部に不履行があることが必要です。
不履行がない場合や、過去に不履行があっても既にその弁済を済ませている場合は強制執行をすることはできません。

差押えの対象となる財産

差押えの対象となるのは、養育費等の支払日到来後に弁済期が到来する給与等となります。
差押債権者(権利者)は、債務者(義務者)に差押命令が送達された日から1週間を経過したときに、差押債権を第三債務者(債務者に給料を支払う会社等)から取り立てることができます。
ただし、第三債務者は、自己の債務の弁済期(給料日など)まで支払いを拒絶することができます。

差押禁止の範囲

通常の債権を被保全債権として差押えをする場合、債務者の給与(手取額)の4分の3については差押えができません。
(差押えができるのは給与の4分の1まで)

他方、養育費・婚姻費用金・扶養料(以下、「養育費等」)を被保全債権とする差押えでは、原則として債務者の給与の2分の1まで差押えができます。

さらに、給与が月額66万円を超える場合、差押えができないのは一律で月額33万円までとなるため、手取額が33万円を超える部分については全額差押えができます

債務者の財産開示

養育費等の債権者は財産開示手続の申立てができます。
財産開示手続の申立てがあると、裁判所は財産開示の期日を指定し、債務者は期日に出頭して財産に関する情報を陳述する必要があります。
債務者が期日に出頭しない場合、出頭しても宣誓しない場合及び虚偽に陳述をした場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。

財産開示手続の申立てができるのは、確定判決などを有する債権者のほか、仮執行宣言付判決や執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)を有する債権者も含まれます。

第三者からの情報取得手続

一定の要件を満たす債権者は、
①金融機関から預貯金債権、上場株式及び国債等に関する情報
②市区町村、日本年金機構から給与債権に関する情報(勤務先等)
③登記所(法務局)から土地、建物に関する情報
を取得できます。

養育費等の債権者、生命・身体の損害賠償の債権者は、確定判決や執行証書を有していれば①、②、③の申立てができます。
上記以外の債権者については、①、③の申立てができます。

裁判所は、債権者の申立てを認めるときには、第三者に対して情報の提供を命じます。
第三者は書面で情報を提示し、裁判所は書面の写しを債権者に送付します。
債務者には、情報の提供がなされたことが通知されます。

養育費回収のための生命保険の差押え

養育費回収のための生命保険解約返戻金の差押え

養育費の義務者がその義務を履行しない場合、家庭裁判所による履行勧告が利用できます。
それでもなお義務者が義務を履行しない場合、権利者は義務者の財産に対する差押えを検討することになります。
差押えの対象となる義務者の財産は不動産、預貯金債権などが考えられますが、義務者が保険契約を締結しており、当該保険契約に解約返戻金がある場合、解約返戻金を差押えることもできます。

権利者による解約権の行使

解約返戻金請求権は、保険契約者が解約権を行使することにより具体的な金銭債権となります。
最高裁の判例は、保険契約の解約権は、身分法上の権利と性質を異にしており、その行使を保険契約者のみの意思に委ねるべき事情はないので、一身専属的権利にあたらない、と判示しました。
その上で、債権者(養育費の権利者)にとって、解約権を行使することは差押えた解約返戻金請求権を現実化するために必要不可欠な行為であるから、債権者は解約権を行使できる、と判示しています。
(最判平成11年9月9日民集53巻7号1173頁)

介入権

一方、解約返戻金請求権を差押えられた債務者(義務者)にとってみると、生命保険が解約されてしまうと、体況や年齢により新しい生命保険に加入できなくなったり、あるいは契約条件が悪くなってしまうといったことが考えられます。
そこで保険法では「介入権」という権利が認められています。
保険契約者の債権者等が、保険契約に対する解約権を行使しようとする場合において、保険金受取人が一定の金銭を支払うことにより解約の効力を阻止できるというものです。
具体的には、債権者は破産管財人が保険契約を解除した場合、その解除の効力は保険会社が通知を受けてから1カ月を経過した日に発生することになります。
その間に保険金受取人が保険契約者の同意を得て、解約により支払われるべき解約返戻金の金額を解約権者に支払えば解約の効力は生じないというものです。

養育費を一括で受領した場合の贈与税課税

養育費非課税の原則

直系血族や兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があります。
(民法877条1項)
養育費の支払いは、民法上の扶養義務者からの教育費や生活の支払に他なりません。
そして、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」については贈与税の非課税財産とされています。
(相続税法21条の3第1項2号)
もっとも、養育費は月払いが原則であり、権利者が、義務者に対して、当然に将来の養育費を一括して請求できるものではなりません。

養育費を一括で受取った場合

監護親と非監護親との間で養育費の取決めをしても、非監護親が将来にわたって養育費を支払ってくれるのか不安がある・・・
そこで、将来支払われるべき養育費についても、離婚のときに一括して受取りたいという相談が寄せられることがあります。
そうした養育費の原資をどのように確保するのかといった問題もありますが、養育費を一括で受取ると贈与税が課税されるという問題も生じます。
相続税の財産評価基本通達によれば、相続税法21条の3第1項2号で贈与税が非課税となる「生活費」、「教育費」とは、次のとおりです。
「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるものを含むものとして取り扱うものとする。
(財産評価基本通達21の3-3)
「教育費」とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限らないのであるから留意する。
(財産評価基本通達21の3-4)
一方で、養育費を一括で受取り、それを預貯金した場合については次のような取扱いとなります。
生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の購入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。
(財産評価基本通達21の3-5)
したがって、養育費を一括で受取り、それを預貯金とした場合、贈与税の非課税財産に当たらなくなる結果、贈与税が課税されます。
贈与税は暦年課税の場合、受贈者1人につき暦年で受増額110万円を超えると課税されます。

離婚手続には以上のようなものがありますが、どちらに離婚原因があるのか、また、どの離婚原因に当たるのかを、判断するのが難しい場合もあるでしょう。
離婚で悩まれている方に対して、現状で離婚が可能かどうかや、離婚に向けてこれから必要な準備について弁護士が相談をお受けします。
もちろん、離婚したい気持ちや、離婚の理由があるからといって、実際に離婚すべきかどうかは、離婚後の生活のことや、お子さまのこと等……さまざまなことを考えて決断する必要がありますので、具体的な事情をお聞きし、場合によっては離婚しないほうがよいというアドバイスをすることもあります。

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