離婚・親権問題
- 慰謝料の相場はいくらくらいですか?
- 裁判で慰謝料を請求するにはどうすればいいですか?
- どのような財産が財産分与の対象になりますか?
不倫相手からどのくらいの慰謝料がとれるのか?結婚前の貯金が財産分与の対象となるのか?オールワン法律会計事務所の弁護士が分かりやすく解説します。
慰謝料とは
慰謝料
離婚で問題となる慰謝料とは、配偶者の不貞行為や暴力といった不法行為によって受けた精神的苦痛を金銭で評価するものです。
配偶者の不貞行為を理由として不貞慰謝料を請求する場合、配偶者と配偶者の不貞行為の相手方・その両方に請求することが考えられます。
請求したうちの一方が慰謝料を支払った場合、他方への請求は認められません。
また、不貞慰謝料などとは別に、不貞行為や暴力といった相手方の行為が原因で離婚する場合、離婚自体を理由として請求する離婚慰謝料もあります。
慰謝料請求権の時効消滅
慰謝料の請求権は、「被害者」が「損害」と「加害者」を知ってから3年、若しくは不法行為の時から20年が経過すると時効によって消滅することになります。
(民法724条)
例えば、夫が妻の不貞に気づき(不貞行為が「損害」です)、不貞相手(不貞相手が「加害者」です)を知ってから3年が経過してしまうと、不貞相手に慰謝料を請求しても、不貞相手が時効を援用すると慰謝料の請求はできなくなります。
なお、夫婦の一方が、他方に対して有する権利については、離婚から6か月を経過するまで時効は完成しないとされています(民法159条)。
したがって、配偶者に対する慰謝料請求は、不貞行為の相手方に対するものと異なり、離婚後6か月以内に訴訟を提起すれば請求できます。
また、民法改正により「人の生命又は身体を害する不法行為」(DVなど)による慰謝料請求では3年ではなく5年で時効消滅することになります。
(民法724条の2)
財産分与と慰謝料
財産分与には、①婚姻中の夫婦の財産を清算する意味合いの「清算的財産分与」、②離婚後の配偶者の生活を扶養する意味合いの「扶養的財産分与」、③財産分与に離婚に伴う慰謝料を含める「慰謝料的財産分与」があります。
相手方に慰謝料の支払と財産分与を求める場合、財産分与に慰謝料が含まれるのか否かを明確にしておくことが重要です。
財産分与の合意のなかで「一切の解決金」といった言葉を用いると、財産分与の中に慰謝料が含まれるのか否かが不明確となります。
財産分与と別に慰謝料を請求する場合、「財産分与として」等の言葉を用いて財産分与であることを明確にしておきます。
慰謝料に関する裁判例・調査
裁判例
原告:甲 被告:乙
①事件の概要
(夫A・妻甲) Aと乙は会社の同僚で、不貞関係を持つようになり、後に不貞関係が甲に発覚。
乙は、甲に対して、①慰謝料200万円の支払い、②今後Aと連絡をとらない、③②に反したら違約金100万円を支払う、約束をする。
しかし、乙はその後もAとの連絡をとり、慰謝料200万円についても60万円を支払っただけで残金140万円の支払いをしていない。
- 結婚期間・不貞期間
- 6年7カ月・2年以上
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 440万円(1240万円)
(東京地判平成15年2月14日)
②事件の概要
(夫甲と妻A) Aは乙との交際開始後、甲の口座からの引出しや甲名義のクレジットカードを使用するなどして412万円を費消。
Aの借入はその後甲が返済。
甲とAは、子2人の親権者をAとして、Aは慰謝料300万円を5万円の分割払いで甲に支払うことを合意した上で調停離婚。
- 結婚期間・不貞期間
- 10年10か月・1年2か月
- 婚姻継続・離婚
- 離婚
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 400万円(900万円)
(東京地判平成15年6月12日)
③事件の概要
(夫A・妻甲) 甲が出産したのと同時期に乙はAの子を出産し、Aは乙が産んだ子を認知。
その後、Aは乙との不倫関係を甲に告白し、自宅を出て乙と同棲を始める。
- 結婚期間・不貞期間
- 8年8カ月・5年6か月
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続(別居)
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 450万円(5200万円)
(東京地判平成15年9月8日)
④事件の概要
(夫A・妻甲) Aは医師で乙は看護師。
乙はAが原因で一度中絶するが、その後2人を出産。
Aは婚姻関係は破綻していないとしながら、Aと乙は今後も不貞関係を積極的に止めることはないと明言している。
- 結婚期間・不貞期間
- 6年6か月・4年以上
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 500万円(800万円)
(東京地判平成18年3月31日)
⑤事件の概要
(夫A・妻甲) 甲の子と乙の子は学校の同級生。
甲は、乙に対して、Aとの不貞行為を止めるように求めるが乙は聞き入れず。乙は精神科を受診。
不貞行為が原因で甲の長男は不登校となり、長女は小学校内でリストカットをした。
乙は夫Bと暮らしているが、将来はAと暮らすことを希望している。
- 結婚期間・不貞期間
- 17年1カ月・2年11カ月
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続(離婚調停中)
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 300万円(500万円)
(東京地判平成18年6月12日)
⑥事件の概要
(夫甲・妻A) 甲とAの間には子が2人。乙はスペイン人ケーナ奏者。
Aは乙の子をペルーで出産。XとAは協議離婚。Yは調停離婚。
- 結婚期間・不貞期間
- 8年・1年以上
- 婚姻継続・離婚
- 離婚
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 400万円(1000万円)
(東京地判平成18年8月31日)
⑦事件の概要
(夫甲・妻A) Aは高校時代に乙の後輩。
Aと乙の不貞行為が甲に発覚し、乙が500万円支払うことで甲と合意。
その後、乙は、甲の強迫(民法96条)、錯誤(同95条)を主張した。
- 結婚期間・不貞期間
- 5年10か月・3か月
- 婚姻継続・離婚
- 離婚
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 500万円(500万円)
(東京地判平成18年9月8日)
⑧事件の概要
(夫A・妻甲) Aと乙はともに医師。
Aは以前にも別の女性との交際が甲に発覚し、今後は浮気しないことを甲に誓約した。
Aと乙の不貞行為が発覚後、甲は乙に対してAと別れることを求めたが乙は拒否した。
- 結婚期間・不貞期間
- 7年11カ月・2年2か月
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続(別居)
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 300万円(1000万円)
(東京地判平成19年4月5日)
⑨事件の概要
(夫A・妻甲) Aは亡くなるまでの20年間、毎日乙宅に通った。
Aと乙の間に認知した子2人。
Aと乙は近隣で暮らしていたので、甲は愛人や隠し子といった風評に悩まされていた。
- 結婚期間・不貞期間
- 40年・20年
- 婚姻継続・離婚
- 婚姻継続(Aは死亡)
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 500万円(1億円)
(東京地判平成19年7月27日)
⑩事件の概要
(夫甲・妻A)乙はA母親の主治医。乙とAは肉体関係を持ち、Aは乙の子Bを出産。
甲はBを自分の子と信じて養育するが、DNA鑑定の結果乙の子であると判明した。
乙はBの親であることを否定し、法律上Bは甲の子であることが確定した。
- 結婚期間・不貞期間
- 18年7カ月・2年
- 婚姻継続・離婚
- 離婚
- 慰謝料認定額(請求金額)
- 500万円(1000万円)
(東京地判平成21年1月26日)
参照:千葉弁護士会編「慰謝料算定の実務 第2版」平成25年ぎょうせい
慰謝料に関する調査
神野泰一裁判官が執筆した「離婚訴訟における慰謝料の動向」(ケース研究322号・30頁)という論文があります。
2012年4月から2013年12月までの間に東京家裁で終局した離婚事件のうち、和解などではなく判決が下さされた事件で、かつ、慰謝料について当事者間に争いがあった事件を203事例を調査したものです。
同論文によれば、203事例中、慰謝料が一部でも認容されたのは75件(約37%)。
平均認容額は153万円で、最高金額は700万円、最低金額は10万円でした。
主な慰謝料事由が不貞である場合の平均認容額は223万円であるのに対して、主な慰謝料事由が暴力である場合の平均認容額は123万円でした。
同論文によれば、慰謝料の金額の高低は次のような要素で決まります。
- 婚姻期間(長い方が高く、短い方が低い)
- 未成熟子(いれば高く、いないと低い)
- 当事者の経済力(有責配偶者に経済力がある、無責の配偶者に経済力がないと高い)
離婚原因の内容によって慰謝料の額に高低はありますが、一般的に慰謝料の額は請求する側が期待するほどは認められません。
慰謝料が認められるためには
配偶者の不貞行為を理由として慰謝料を請求する場合、配偶者が不貞行為を否定すると、慰謝料を請求する方が配偶者の不貞行為を立証して調停や訴訟を提起する必要があります。
配偶者の不貞行為の立証ができないと、訴訟では慰謝料の請求は認められません。
それでは、慰謝料の請求をするため、どのように不貞行為の証拠を収集すればいいでしょうか?
性交渉自体を撮影した写真やビデオがあれば直接証拠となりますが、そうした証拠が入手できることは普通あまり期待できません。
稀に配偶者のスマホに残された不貞行為の相手との性交渉が写っている写真やビデオが入手できることがありますが、やはりごく稀です。
そうすると、後は間接証拠(浮気の事実を間接的に推測させる証拠)を収集することになります。
配偶者と不貞行為の相手が一緒にホテルに入る写真、そして出てくる写真
利用しているホテルがシティホテルなどの場合は、ホテルで性交渉をしていないと反論される場合があります。
一方で、利用しているのがラブホテルだったりするケースや、ホテルを利用する頻度が高いケースなどは性交渉を推認させる有力な間接証拠になります。
ホテルを利用した際のクレジットカードの利用明細や領収書
入手できれば間接証拠となります。
しかし、不貞行為が発覚することを警戒して現金払いにしていたり、領収書も破棄しているので入手は困難といえます。
浮気相手からの手紙やプレゼント
こちらも入手できれば間接証拠となりえますが、ふつうは自宅に持ち帰ることはせず、会社や自分だけが使用する車の車内などに保管していることが多い。
SNS(LINE、Facebook)での浮気相手とのやりとり
LINEなどのやり取りはスマホで写真を撮っておきます。
こうした写真もあくまで間接証拠に過ぎませんが、内容や添付されている写真によっては有力な間接証拠になりえます。
ただし、不貞行為を始めるとパスワードを変更するなどして他人にLINE等を見られなくすることが多いので、こうした証拠が入手できるのは不貞行為を始めるごく初期に限られます。
証拠を入手するための探偵会社(興信所)の利用
探偵会社の利用については、請求が高額になることもあり、慎重に検討する必要があります。
依頼をする場合は、業務内容と費用を予め確認した上で契約すべきです。
いくつかの探偵会社から見積もりをとることをお勧めします。
慰謝料を請求するタイミング
慰謝料とは、配偶者の不貞行為や暴力といった不法行為によって受けた精神的苦痛を金銭で評価するものです。
したがって、必ずしも離婚をしてから請求する必要はなく、婚姻期間中であっても慰謝料の請求をすることができます。
ただ、配偶者の不貞行為を理由に慰謝料を請求する場合は、離婚後に請求する方が、不貞行為によって婚姻が破綻したと主張がしやすいため、一般的には慰謝料を増額しやすくなります。
なお、配偶者の不貞行為を理由に慰謝料を請求する場合は、配偶者の不貞行為をしているという事実と、配偶者の不貞行為の相手を知ってから3年以内に請求しないと、相手が時効を援用すると請求できなくなるので注意が必要です。
不貞行為の相手方に対する離婚慰謝料請求の可否
不貞行為の相手方(不貞相手)への慰謝料請求の可否が問題となった事件で、最高裁は不貞相手への離婚慰謝料請求は認められないと判断しました。
事件の経過
①1994年3月 結婚
②2008年12月ころ 妻が勤務先でAと知り合う
③2009年6月以降 妻とAの不貞行為開始
④2010年5月ころ 夫が妻とAの不貞行為を知る
⑤2014年4月 別居開始
⑥2014年11月ころ 夫が離婚調停申立
⑦2015年2月 離婚成立
⑧2015年11月 元夫がAに対して慰謝料支払いを求めて訴え提起
争点
元夫がAに慰謝料請求をした⑧の時点では、④不貞行為を知ってから3年以上、⑦離婚成立から9カ月が経過していました。
慰謝料請求とは、不法行為による損害賠償の請求権であり、損害賠償請求権は「損害」(=不貞行為)と「加害者」(=A)を知ってから3年で時効消滅します(民法724条)。
したがって、元夫の④不貞行為を理由とする慰謝料請求は既に時効で消滅しています。
そこで、離婚自体を理由としてAに対して離婚慰謝料を請求できるのか(こちらは時効消滅していない)問題となりました。
裁判所の判断
1審と2審では元夫も請求を認めてAに対して慰謝料200万円の支払いを求める判決が下されました。
しかし、最高裁では一転して元夫の請求が退けられました。
「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができる」が、「本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。」
「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが」、「離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」
したがって、「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」
「第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」
(最判平成31年2月19日 民集第73巻2号187頁)
財産分与とは
婚姻期間中に夫婦が共同で築いた財産を、離婚時又は離婚後に清算するものが財産分与です。
当事者間で合意できればどのような財産分与を行っても問題ありません。
財産分与の対象となるか否かは、財産の名義とは関係ありません。
夫名義の自宅でも、夫婦が共同で築いた財産であれば、財産分与の対象となります。
2分の1ルールとその例外
従来、財産分与の基準については、寄与度説と平等説の対立がありました。
寄与度説とは、具体的事案ごとに、夫婦それぞれが財産の形成に寄与した内容を検討し、その寄与度に応じて財産を分与するという考え方です。
一方、平等説とは、夫婦における両性の本質的平等を重視し、仮に夫婦で財産形成に対する寄与度が異なっていたとしても、財産分与は平等に行うという考え方です。
実務では、ほぼ平等説に従って財産分与が行われています。
したがって、よほど特別な事情がない限り、財産分与は2分の1づつ均分で行われることになります。
2分の1ルールの例外
この2分の1ルールの例外として主張されることが多いのが、①不動産等の高額な資産を購入する際、夫婦の一方がその特有財産から頭金等を支払った場合、②夫婦の一方の特別な努力や能力によって多額の財産を形成することができた場合、です。
このうち、①夫婦の一方が不動産購入の際などに特有財産から頭金を支払っているケースでは、支払の記録等からその寄与を評価することは比較的容易です。
(但し頭金の額そのものを共有財産から控除できるのかについては別途検討する必要があります。)
他方、②夫婦の一方の特別な努力や能力によって多額の財産が形成できた、との主張については、どのような努力や能力を特別と評価するのか、財産形成との因果関係があるのか、等が問題となります。
夫が会社を経営し、妻が専業主婦のケースで、夫が努力して会社を大きくしたとしても、そもそも妻が家事や育児を頑張ったからこそ夫の事業が成功したともいえます(内助の功)。
こうしたケースでは、事業の成功が夫の特別の努力や才能だけによるものか問題となります。
なお、裁判例で2分の1ルールの例外が認められたものには、夫の病院経営が成功したのは夫の手腕や能力によるところが多いとした上で、妻の医業への協力、婚姻継続期間、離婚に至った経緯、妻の年齢、子の扶養関係、夫婦の財産関係を考慮して、夫の個人資産1億円中、妻への財産分与は2,000万円とした裁判例があります。
(福岡高判昭和44年12月24日)
上記裁判例はありますが、やはり財産分与ではよほどの事情がない限り2分の1ルールが適用されることが多いと思われます。
財産分与請求調停
当事者間の話合いで合意ができない場合は、家庭裁判所の財産分与請求調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをすることになります。
また、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚)を申立て、付随事項として財産分与を請求することもできます。
調停手続では,夫婦が協力して得た財産額や範囲,財産の取得・維持に対する夫婦双方の貢献の度合い等一切の事情について,当事者双方から事情を説明し、また必要な資料を提出して話し合いが進められます。
なお、財産分与請求調停が不成立となった場合は、自動的に審判手続に移行して裁判官が話し合いに関与することになります。
離婚訴訟と財産分与
離婚訴訟と財産分与
夫婦の一方が他方に対して離婚の訴えを提起する場合、その附帯処分として財産分与に関する処分も申立てることができます(人事訴訟法32条1項)。
附帯処分の申立は必要的で、申立がなければ附帯処分の判決はなされません。
具体的には、附帯処分の申立は書面で行う必要があるため(人事訴訟規則19条1項)、申立の趣旨及び理由を記載し、証拠となるべき文書の写しで重要なものを添付する必要があります(同条2項)。
もっとも、財産分与は非訟事項(終局的な権利義務の解決ではなく、裁判所が後見的に介入して事件を処理する事件類型に関する事項のこと)のため、裁判所は申立人の主張に拘束されず、場合によっては申立人が申し立てた額を超えて財産分与を命じることもできます。
離婚訴訟を提起された場合(被告の場合)
相手方から離婚訴訟を提起された場合、離婚自体は争いながら、離婚が認容された場合に備えて被告から予備的に財産分与の申立を行うことができます。
ただし、財産分与に関して遅延損害金を請求する場合は、予備的な財産分与の申立ではなく、反訴等、訴えの提起によるべきであるとされています(京都地判平成5年12月22日)。
離婚訴訟の終了
裁判所は、離婚訴訟について認容判決を出す場合、附帯処分としての財産分与に関する判断も示さなければならないとされています(人事訴訟法32条1項)。
他方で、棄却判決を出す場合は、婚姻関係は継続するため、財産分与に関する判断は示されません。
離婚訴訟が判決に拠らずに終了する場合(請求の放棄・認諾、裁判上の和解、訴訟の取下げ ただし請求が認諾できるのは附帯処分の裁判が不要な場合に限られます)、附帯処分の申立がなされている場合は、附帯処分の裁判が行われます(人事訴訟法36条)。
保全処分
保全処分とは
相手方に財産の分与を請求しても、相手方が自己の名義になっている財産を予め処分したり、あるいは隠匿したりすると、財産分与請求権は絵に描いた餅になってしまいます。
そこで相手方が分与の対象となりえる財産を勝手に処分できないようにするため、保全処分の利用を検討する必要があります。
離婚訴訟とは人事に関する訴訟事件です。
人事訴訟法では、その附帯処分として財産分与の申立がができるため(人事訴訟法32条1項)、併せて財産分与請求権を被保全債権とする保全処分の申立ができます。
この離婚訴訟に伴う保全処分は、通常の民事保全法に基づく保全処分になります。
(但し、「本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄する。」という管轄の特則があります(人事訴訟法30条1項)。)
保全処分を申立てるには、被保全権利の存在、すなわち財産分与請求権が認められる蓋然性及び保全の必要性を明らかにする必要があります(民事保全法13条1項)。
立証の程度は疎明(裁判官に一応確からしいという推測を得させるために求められる立証活動)が必要です(同条2項)。
財産分与請求権は離婚が前提となるため、財産分与請求権の蓋然性を疎明するためには、離婚事由の存在を疎明することになります。
具体的には、裁判上の離婚原因(民法770条1項 1号配偶者の不貞行為、2号配偶者からの悪意の遺棄、3号配偶者の生死が3年以上不明、4号配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない、5号その他婚姻を継続し難い重大な事由)の存在の蓋然性を債権者の陳述書等で疎明していくことになります。
担保の提供
債権者は保全処分の申立に際して担保を提供する必要があります(民事保全法14条1項)。
担保の額は裁判官が決定するため、債権者の資力が乏しく十分な担保の準備ができない場合は、個別に裁判官と交渉をする必要があります。
財産分与請求に必要な費用
財産分与請求調停
収入印紙1,200円分
必要な郵便切手代(申立てをする家庭裁判所に確認して下さい。)
離婚訴訟の附帯処分として財産分与を請求する場合
収入印紙1200円(訴額に関係なく一律1200円)
※離婚訴訟と併せて財産分与を請求する場合の手数料
1万3000円(離婚訴訟)+1200円(財産分与請求)=1万4200円
財産分与の対象とならないもの
次のような夫婦の一方の特有財産については財産分与の対象となりません。
- 婚姻以前から各自が所有していたもの
- 婚姻期間中でも一方が相続や贈与で取得したもの
- 社会通念上、一方の固有財産と考えられる衣装や装身具など
財産分与で争いになりやすい事柄
婚姻以前から各自が有していた財産、特に独身時代の預貯金が固有財産として財産分与の対象に含まれないと主張されることとがあります。
しかし独身の頃から使っていて銀行口座を結婚後も利用していると、口座名義人の預貯金と夫婦で築いた預貯金が一つの口座に混在することになります。
したがって、結婚前の通帳をしっかり保管されているなど、独身時代の預貯金が明確に区別できている場合でないと固有財産としての主張は難しくなります。
自宅の財産分与
自宅の売却
自宅を売却して、その代金を財産分与の対象とする場合、売却代金がそのまま財産分与の対象となるわけではありません。
住宅ローンが残っている場合は、その残債務を売却代金から控除する必要があります。
また、自宅を売却すると、不動産業者に支払う仲介手数料、登記費用(司法書士の費用、登録免許税等)、契約書に貼付する印紙代等が必要となります。
さらに、売却できた金額次第では譲渡所得税が課税される場合があります。
したがって財産分与の対象となるのは、売却代金からこれら費用を控除した残額になります。
頭金に一方の特有財産が使用されている場合
自宅の頭金として一方の当事者の特有財産(独身自体の貯金など)が使用されている場合があります。
こうした場合に、頭金を出した当事者が、自宅の評価額から頭金の額を控除した残額を財産分与の対象にするという主張がなされることがあります。
しかしながら自宅は、購入してから売却するまでの間使用するため、その価値は下落することが一般的です。
であるにもかかわらず、離婚時に頭金相当の金員を、それを出した当事者の特有財産として認めることは当事者間の公平を害することになります。
この問題については、自宅の評価額から、取得価額に占める特有財産が原資とされた割合を控除して、夫婦の実質的共有部分を算出した裁判例があります。
(大阪高判平成19年1月23日)
この裁判例の考え方では、自宅取得時の頭金の価値を現在の自宅の評価額にスライドさせることになるため、当事者にとって公平は清算的財産分与が実現できます。
この裁判例に拠れば、財産分与の対象となる額は次のとおりです。
財産分与の対象となる額=現在の自宅の評価額×(1-特有財産の額/取得額)
子ども名義の財産
子が生まれると、子の名義で預金口座を開設し、将来の教育資金等に充てるために、夫婦の収入等を原資として預金をするといったことは現実によく行われています。
こうした預貯金については、子が未成年で預貯金の管理は両親が行っている場合は、たとえ口座の名義が子であったとしても夫婦の共有財産として、財産分与の対象に含まれれるのが一般的です。
他方で、子が成人しており、預貯金が名実ともに子の財産であると認められる場合は、子の固有財産として財産分与の対象から除外されます。
問題なのは、子の預貯金に夫婦の収入を原資として預金されたものと、子がアルバイトをして稼いだりお年玉などを貯めたりした預金が混在する場合です。
両者を明瞭に区分できるのであれば、夫婦の収入を原資とする預金は財産分与の対象になり、アルバイト代やお年玉を原資とする預金は子の固有財産として財産分与の対象から除外されます。
両者の区分が明確にできない場合は、その金額に拠りますが、子の固有財産として取り扱い、財産分与の対象から除外することが一般的です。
このように子の名義の財産については、その原資が何なのか、夫婦が管理しているのか子が管理しているのか等によって財産分与に含まれるか否か判断が分かれます。
法人名義の財産
法人は、夫婦とは別の人格であるため、法人名義の財産は財産分与の対象とならないのが原則です。
もっとも、夫婦が協力して会社の経営にあたり、法人名義の財産の維持・増加に貢献したといった事情がある場合は、法人名義の財産であっても清算的財産分与の対象に含めて考えることができると言われています。
裁判例でも、
「A社は、一審原・被告が営んできた自動車販売部門を独立させるために設立され、B社は、一審原・被告が所有するマンションの管理会社として設立されたものであり、いずれも一審原・被告を中心とする同族会社であって、一審原・被告がその経営に従事していたことに徴すると、上記各会社名義の資産も財産分与の対象として考慮するのが相当である。」
として、寄与率5割で法人名義の財産を財産分与の対象とすることを認めました。
(広島高裁岡山支部平成16年6月18日)
法人名義の財産が財産分の対象に含まれる場合、取引相場のない株式(以下、「自社株式」)そのものを現物分割する方法が考えられます。
しかし、自社株式を取得しても換価することができません。
(発行会社が自社株式を買い取り金庫株にする方法もありますが、他方株主の同意が必要であり、そもそも会社に資金がないと買取自体困難です。)
また、離婚した者同士が株主となった場合、会社の運営自体が困難となります。
したがって、法人名義の財産を分与の対象にするとは、あくまで財産分与の評価の対象に法人名義の財産を含めるということであり、実際の分与方法としては金銭給付を選択することになります。
具体的には、会社の経営を続ける側が、一定の金銭を相手方に支払うことになります。
親族名義の財産
夫婦が、一方の親族が営む事業に従事し、その親族名義の財産が形成されることがあります。
事業が農業や畜産業の場合、その親族から夫婦に正当な対価が支払われないことが少なくありません。
対価の支払いを受けずに事業に従事した場合、結果として婚姻期間中に夫婦名義の財産は形成されないことになります。
親族名義の財産が分与対象財産に含まれるとした裁判例があります。
「原被告は結婚後は被告の父Aが経営する畜産業に従事していたのであるが、原被告の稼働分は全てAの収入となり、婚姻中双方の協力で得た原被告名義の財産は存在しないこと、もっとも婚姻後被告名義で取得したことになっている桑畑五町歩があるが、右は被告、その両親が相談のうえ他から資金を借りて購入したものを偶々被告名義にしたものにすぎないことが認められ、右事実によれば、原被告が婚姻後双方の協力によって取得した、清算の対象となるべき原被告名義の財産は存しないものとはいえないではない。」
「しかしながら、財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻後双方の協力によって取得した財産であって現に法律上いずれかの名義に属するもののみではなく、法律上は第三者に属する財産であっても右財産が婚姻後の夫婦の労働によって形成若しくは取得されたものであって、かつ、将来夫婦の双方若しくは一方の財産となる見込みの十分な財産も含まれると解するのが相当である。」
(熊本地裁八代支部昭和52年7月5日判決)
上記裁判例では、婚姻後に形成された被告の父A名義の財産中、夫婦の労働寄与分については財産分与での清算対象とすべきであるとして、賃金センサスに基づく平均賃金から生活費を控除した残金を清算的財産分与と評価した上で、その半額が被告から原告への財産分与であると判示しました。
退職金
退職金の財産分与該当性
退職金が財産分与の対象となるか否かは、退職金の性質によって結論が異なります。
一般的に企業の退職金規定等に基づき支給される退職金は、労働者の賃金の後払的性質を有するとされています。
このように退職金が労働の対価的側面を有している場合は、夫婦の他方に家事労働を始めとする協力により勤務が継続できたからこそ受領することができると考えられます。
したがって、この場合は財産分与の対象となります。
他方で、退職金が労働の後払的側面を有していない場合は、財産分与の対象にならないと判断されることがあります。
離婚後1年を経過して支給された退職金について、勤務先の統廃合という偶発的な理由により支給が決まったものであり、離婚時には退職金の支給の有無が不確定で、支給の趣旨も勤務先の合併による生活補償であった場合に、当該退職金の財産分与該当性を否定した裁判例があります。
(東京家裁八王子支部平成11年5月18日審判)
将来の退職金
将来の退職金については、当事者が中小企業に勤務している場合、①勤務先の就業規則に退職金支給規定等があるのか、②就業規則に規定等がない場合は、慣行として退職金を支給することになっているのか、を予め確認する必要があります。
中小企業の場合、退職金支給規定等がなかったり、業績次第で退職金を支給したりしなかったりする企業が少なくありません。
そこでまず退職金支給規定等の有無、慣行の有無を調査する必要があります。
退職金支給規定等がある場合は、将来支払われる退職金を財産分与でどのように評価するのかが問題となります。
将来における勤務先の倒産、業績不振による賃金切り下げ、それを理由とする事情変更による退職金の減額といった事態の可能性は否定できません。
さらには、当事者のリストラや懲戒(普通)解雇の可能性もあります。
そこで実務では、個々の事情に応じて、将来退職金が支給される蓋然性が高いことを条件に退職金を分与対象財産に含める取扱いとなっています。
将来退職金が支給されるのかについては、どこまでいっても不確定要素が残るため、蓋然性の程度に応じて支給予定の退職金の何割を分与対象財産に含めるのかを協議することにならざるを得ません。
なお、支給時期が10年程度先であっても、公務員等、退職金が支給される蓋然性が極めて高い場合には分与対象財産に退職金が含まれることが多くなります。
企業年金
企業年金は、年金分割の対象に含まれません。
しかし、その原資として退職金等があてられている場合は、退職金の一部又は全部が年金化されたと評価できるため、退職金同様、分与対象財産に含めることになります。
別居時に一方が財産を持ち出している場合
離婚に先立つ別居の際、自宅を出る側が相手方名義の銀行通帳やキャッシュカードなどの夫婦の共有財産を持ち出すことがあります。
実際によくあるのが自宅を出る妻が夫名義の銀行通帳やキャッシュカードを持ち出し、口座から引き出したお金を別居後の生活費に充てるといったケースです。
こうしたケースでは、別居後に一方が費消した預貯金等を含めて財産分与の金額を検討することになります。
実務では、財産分与の基準時は別居時とすることが原則のため、別居時の預金残高を基準として財産分与を行います。
別居時に多額の財産を持ち出した妻が夫に対して財産分与を請求したケースで、裁判所は、夫から妻への財産分与額を2510万円とした上で、妻が既に持ち出した財産中2510万円を超過する1,100万円を妻が夫に支払うように命じました。
(東京高判平成7年4月27日)
夫婦の一方が相手方の承諾なく夫婦の共有財産を持ち出した場合、当該行為が不法行為となるのかが問題となることがあります。
裁判所は、
「婚姻関係が破綻して離婚に至った場合には、その実質的共有関係を清算するために、財産分与が予定されているなどの事実を考慮すると、婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないものと解するのが相当である。」
と判示し、不法行為の正立を否定しました。
(東京地判平成4年8月26日)
したがって、夫婦の一方が夫婦の共有財産を持ち出しても、持ち出した財産が財産分与の範囲を著しく逸脱するといった事情が認められない限り不法行為は成立しません。
財産分与における債務の取扱い
財産分与は、婚姻期間中に夫婦が築いた財産を、離婚に際して清算するものです。
したがって、婚姻前に夫婦の一方が負った債務については、原則として財産分与の対象として考慮されません。
すなわち、財産分与で問題となる債務とは、婚姻期間中に夫婦の一方ないし双方が負った債務の負担についてだけです。
民法は原則として夫婦別財産制を採用しているため(※)、後で紹介する日常家事債務に該当しない限り、夫婦の一方が負担した債務については、他方が責任を負うことは原則としてありません。
問題は、どのような債務が夫婦の一方が負担した債務といえるのか、日常家事債務にあたるのかの区別の基準となります。
具体的には、発生原因ごとに債務の取扱いを検討することになります。
※
民法762条1項(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
夫婦の一方が負担した個人的な債務
夫婦の一方が夫婦共同生活とは無関係にギャンブルや飲食で使った金銭に関する債務は、財産分与において考慮されません。
当該債務は債務を負った本人が返済すべきであり、他方が債務を負担することはありません。
個人の趣味のための債務、親族へ金銭を融通するための債務、相続債務等も財産分与で考慮されることはありません。
株式等の投資による債務については、夫婦の財産形成を目的としたものでなく、投資によるリターンの一部が夫婦の共同生活に費消されたといった事情がなければ同じく財産分与で考慮されることはないと考えられています。
他方、夫婦の一方の個人的債務について、他方が返済に返済に協力したといった事情がある場合には、「一切の事情」(民法768条3項)として考慮される可能性があります。
日常家事債務
「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。」とされています(日常家事債務 民法761条)。
どの様な債務が日常家事債務に含まれるのかについては、「当該夫婦の社会的地位・職業・資産・収入等によって、また、その夫婦が生活する地域の習慣によって異なる」とされています(新版注釈民法21)。
過去に裁判例等で日常家事債務と判断されたのは次のようなものです。
〇家庭用の食料品・衣料品の購入契約
〇家庭用光熱費債務
〇夫婦が暮らす住居の賃料債務
〇夫婦の一方の医療費・子の医療費
(夫婦の一方の医療費については婚姻関係が破綻して離婚した場合にも含まれると判断されています)
〇子の学習教材費に関する債務
他方で日常家事債務に含まれないと判断されたのは次のようなものです。
△夫婦の一方が他方名義の不動産に担保権を設定したり譲渡すること
△借財
△他人の債務について保証契約を締結すること
△夫婦で同居する建物の賃貸借終了後明渡までの損害金
婚姻前の債務を夫婦の一方が婚姻中に返済した場合
婚姻前に夫婦の一方が負った債務については、原則として財産分与の問題は生じません。
離婚後も当該一方が債務を返済し、他方が債務を負担することはありません。
もっとも、婚姻前の夫婦の一方が負った債務を、婚姻中に他方が返済した場合、その協力を離婚後に清算的財産分与で考慮することができるのか、問題となることがあります。
夫が婚姻の約5か月後に勤務先のお金約230万円を使い込んだため、妻が自らの給料で返済した事例において裁判所は、一切の事情を考慮して、財産分与として返済額の半分である115万円について財産分与を認めました。
(名古屋地判昭和49年10月1日)
上記裁判例は婚姻後に生じた夫の債務を妻が返済した事例ですが、夫の債務が婚姻直後に生じたものであるため、婚姻前の債務を婚姻後に返済した場合も、当該返済額が財産分与において考慮される可能性はあると思われます。
財産分与と税金
財産分与と贈与税
夫婦の一方が相手方から財産分与を受けた場合、受けた側に贈与税が課税されるのか問題となります。
財産分与は、新たな財産の獲得ではなく、夫婦が共同生活中に築いた財産の清算や、離婚後の生活保障又は慰謝料といった性質があります。
したがって、潜在的に自己の財産であったものを財産分与という形で取得するものであり、原則として贈与税は課税されません。
ただし、分与された財産の額が共同生活中の夫婦の協力によって獲得した財産の額やその他事情を考慮してもなお過大である場合には、その過大である部分について贈与税等が課税されます。
また、離婚が贈与税や相続税を免れる目的で行われたと認められる場合には、分与された財産全体に贈与税や相続税が課税されます。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、土地や建物を売却した際に得た利益(譲渡所得)にかかる税金です。
譲渡所得税が課税されるのは、譲渡益が生じる譲渡側(売主側)となります。
具体的には、
収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除=課税譲渡所得金額
となります。
したがって、そもそも買った時より安い金額で不動産を売却した場合は譲渡所得税は課税されません。
また、居住用不動産(マイホーム)を売却した場合は、特別控除として3,000万円の控除ができるため、収入金額から取得費と譲渡費用を控除した残額が3,000万円以内であれば、同じく譲渡所得税は課税されません(この場合、申告は必要となります)。
なお、居住用不動産の特例は、夫婦や親子の間では適用されません。
したがって、この適用を受けたい場合は、離婚によって夫婦関係を解消した後に財産分与を行う必要があります。
課税譲渡所得金額がある場合、その金額に長期譲渡所得※1の場合は20.315%を乗じて、短期譲渡所得※2の場合は39.63%を乗じて、譲渡所得税を算出します。
※1 譲渡した年の1月1日時点で不動産の保有期間が5年超の場合
※2 譲渡した年の1月1日時点で不動産の保有期間が5年以内の場合
財産分与と譲渡所得税
財産分与した不動産に対する譲渡所得課税の適法性が争われた事件で最高裁は、
「不動産の譲渡等の分与が完了すれば、財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。」
として財産分与に対する譲渡所得課税を適用であると判示しました。
(最判昭和50年5月27日)
したがって、夫から妻に財産分与として不動産を譲渡する場合、当該不動産に課税譲渡所得金額があると夫に譲渡所得税が課税されるため注意が必要となります。
離婚後の財産分与
財産分与ができる期間
財産分与請求権は、離婚後2年以内に請求をしないと消滅します(民法768条2項但書)。
この2年間は時効ではなく、除斥期間と解されています。
したがって、時効に認められている完成猶予(一定の期間時効が完成しないこと)や、催告による期間の延長はありません。
離婚時に財産分与がなされなかった元妻及び子名義の貯金債権について、元妻の死亡後に子が金融機関に対して、当該貯金債権を相続又は時効取得したとしてその払戻しを請求した事件で、裁判所は、すでに離婚から2年が経過しており、元夫が財産分与として元妻の貯金債権を請求することができないため、貯金債権は確定的に子に帰属しているとして、子の請求を認めました。
(東京地判平成20年12月26日)
除斥期間経過後に財産分与の合意が無効となった場合
離婚後2年以内に財産分与の合意はしたが、2年経過後にその合意が無効とされた場合に、改めて財産分与が請求できるのか問題となります。
財産分与契約の錯誤無効が認められた事例で裁判所は、本件の事情の下においては財産分与請求権を予め行使させることは期待できないこと等を理由に、時効停止に関する民法161条(注 改正前の天災等による時効の完成猶予の規定)を類推適用する余地があるとして、財産分与契約の錯誤無効が確定した後に行う協議に代わる処分の請求が、除斥期間の定めによって妨げられないと判断しました。
(東京高判平成3年3月14日)
離婚時に共有財産が隠匿されていた場合
離婚時に夫婦の一方が故意に共有財産の一部を隠匿したため、他方が本来であれば受けることができた財産分与を受けられなくなった場合、不法行為に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ってから3年間が経過するか、不法行為から20年経過するまでは請求することができます(民法724条)。
もっとも損害賠償請求が認められるためには、「故意に」共有財産を「隠匿」(「違法性」)したことが必要となります。
共有財産の一部が隠匿されたため財産分与を受けられなかったとして除斥期間経過後に不法行為に基づく損害賠償が請求された事例では、婚姻期間中は原告及び被告が各財産をそれぞれ管理していたこと、原告が離婚時に財産分与を求めていなかったことからは、被告が意図的に預金を隠匿したとはいえないとして、原告の請求は棄却されました。
(東京地判平成25年8月8日)
同様に、離婚訴訟において自己の特有財産であるとの認識から財産の存在を主張せず、相手方当事者において調査嘱託等の手段を講じて預金の存在を主張して攻撃防御を尽くすことは、離婚訴訟で通常に行われている攻撃防御方法であるから、単に預金及び貯金の存在を主張しなかっただけでは故意の遺徳行為として評価できないとして、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた原告の訴えを棄却した裁判例もあります。
(東京地判平成19年3月29日)
したがって、離婚時に相手方が単に財産の存在を黙っていた等の事情しかみとめられないのであれば、除斥期間経過後に財産分与に代わる損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えられます。
財産分与の合意の取消しの可否
離婚成立後、夫(妻)が一方的に財産分与の合意を撤回することができるのか問題となります。
民法550条は、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。」と規定しています。
また、民法754条本文は、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」と規定しています。
財産分与は夫婦財産関係の清算であり、贈与にはあたりません。
したがって、書面によらない財産分与の合意であっても、民法550条によって取り消す(撤回する)ことはできません。
また、夫婦間の契約の取消権は、あくまで「婚姻中」に認められるもので、離婚後は民法754条本文に基づき契約を取消すことはできません。
さらには、婚姻中であっても夫婦関係が実質的に破綻している場合には、夫婦間の契約取消し権を行使できないとするのが最高裁の判例です。
したがって、離婚後に夫(妻)が一方的に財産分与の合意を取消すことはできません。
離婚問題について弁護士へ依頼することは、ひとりぼっちで戦うより、何倍も心強くなれる大きな味方ができることだと思ってください。オールワン法律会計事務所の経験豊かな弁護士に相談することで、相手との交渉を有利に進めることができます。
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