事業承継自社株の承継・M&A
- 少数株主がいる場合どうすればいいですか?
- 会社に対する貸付金がある場合どうすればいいですか?
- 相続税の納税資金はどのように準備すればいいですか?
少数株主対策、貸付金対策、相続税資金の準備について、オールワン法律会計事務所の弁護士・税理士が分かりやすく解説します。
少数株主対策
議決権割合と議決事項
会社では株主の議決権の保有割合に応じて議決できる事項が異なります。
議決権保有割合 | 権利 |
---|---|
3分の2以上 | 特別決議を単独で決議できます |
2分の1超 | 普通決議を単独で決議できます |
2分の1以上 | 普通決議を単独で否決できます |
3分の1超 | 特別決議を単独で否決できます |
特別決議が 必要な事項例 |
〇 合併・会社分割・株式交換・株式移転等の組織再編 〇 事業の全部の譲渡 〇 定款変更 〇 新株の有利発行 |
---|---|
普通決議が 必要な事項例 |
〇 取締役の選任・解任 〇 監査役の選任 〇 取締役・監査役の報酬の決定 〇 配当等の剰余金の分配 |
単独株主権 | 〇 募集株式・新株予約権株式発行停止請求 〇 取締役の行為差止請求 〇 株主名簿・計算書類の閲覧・交付請求 〇 株主代表訴訟提起権 |
少数株主が生じる理由
1991年(平成3年)以前に創業した会社の場合
1990年の商法改正(施行は1991年4月1日)以前は、株式会社設立時の発起人の数を7人と規定していました。
発起人は会社成立後、そのまま株主となるため、商法改正以前に設立された会社では、会社設立時に7人の株主が存在していたことになります。
これら株主の多くは、数合わせのために会社の創業者の親族などから名義を借りた名義株主でした。
創業者が会社成立後に名義株主を放置していた場合、創業者や名義株主に相続が発生すると、名義株であることの証明が困難となり、名義株主がそのまま少数株主として残ることになりました。
企業オーナーが相続税対策として自社株の生前贈与を行っていた場合
相続税対策として生前贈与が行われることがあります。
贈与税の暦年課税の計算では、受贈者1人に対して暦年で110万円の控除を受けることができるため、受贈者を増やせば、より贈与税の負担を抑えながら生前贈与を行うことができます。
そこで相続税対策のことだけを考えた企業オーナーが、後継者以外の相続人や親族に自社株式を生前贈与すると、後継者以外の相続人や親族が少数株主となってしまいます。
その他にも取引先に自社株式を一定程度保有してもらっている場合にも少数株主が存在することになります。
少数株主対策 これ以上少数株主をつくらない
特定承継(売買・贈与)を制限する
株主の投下資本の回収を容易にするため、株式は譲渡が自由であることが原則です。
(会社法127条)
しかし中小企業では、株主間の人的信頼関係が基本となっていることが多いため、予め定款に規定を置いておくと、株主が株式を譲渡する際に会社等の承認を要件とすることができます。
(既にある株式に譲渡制限を付する場合は特殊決議が必要です)
したがって、定款に自社株式の譲渡制限を設けておくことで売買や贈与といった特定承継による少数株主発生を阻止することができます。
一般承継(相続・合併)を制限する
定款に規定すれば、相続で自社株式を相続した株主の相続人に対して、その株式を会社に売渡すことを請求することができます。
相続人等への売渡請求は会社の特別決議により行います。
既に存在する少数株主を整理する
全部取得条項付株式の活用
例) 甲株式会社 発行済株式数 100株
企業オーナー 90株保有
少数株主甲 6株保有 少数株主乙 4株保有
- 企業オーナーは株主総会で特別決議を行い、①種類株発行会社に定款を変更し、 ②普通株式を全て全部取得条項付種類株式に変更します。
- 企業オーナーは株主総会で再度特別決議を行い、全部取得条項付種類株式10株につき、A種類株式1株を割当てることを決議します。
- 全部取得条項付種類株式を90株有する企業オーナーはA種類株式9株が割当てられますが、少数株主甲と少数株主乙は10株に満たない全部取得条項付種類株式しか有していないのでA種類株式は割当られません。
少数株主甲と少数株主乙の有する全部取得条項付種類株式はすべて現金で清算することになります。
株式交換の活用
例) A株式会社 発行済株式数 100株
企業オーナー 90株保有
少数株主甲 6株保有 少数株主乙 4株保有
企業オーナーは、A株式会社とは別に100%株式を保有するB株式会社を支配
- A社とB社の間で「A社の株式10株と、B社の株式1株」を内容とする株式交換契約を締結します。
- A社の株式を90株有する企業オーナーにはB社株式9株が割当てられますが、10株未満の甲社株式しか有さない少数株主甲と少数株主乙にはB社株式が割当てられません。
少数株主甲と少数株主乙のA社株式はすべて現金で清算することになります。
企業オーナーの会社に対する貸付金
会社に対する貸付金を放置していると
中小企業では、企業オーナー個人と会社との間で金銭取引が行われ、その取引がそのまま放置されていることがあります。
企業オーナーが会社に対する貸付金を放置したまま亡くなると、貸付債権は相続財産として他の相続財産と同様に相続税の課税対象に含まれます。
会社に返済資金がない場合、企業オーナーの相続人は相続税を支払うためだけに貸付債権を相続することになります。
一方、会社が返済資金を準備できる場合でも、相続税が課税される場合は相続税相当額、貸付債権は目減りしてしまいます。
このように企業オーナーの会社に対する貸付金は、放置しておくと様々な問題を引き起こしてしまいます。
貸付金対策 貸付金の放棄
会社からの貸付金の返済が困難な場合、企業オーナーが会社に対する貸付金を放棄します。
企業オーナーが貸付金を放棄する場合、後述する法人税が課税される場合があります。
企業オーナーは、会社で法人税を払うのか、相続時に相続人が相続税を支払うのかを衡量して、メリットの大きな方を選択します。
[問題点]
- 会社に債務免除益が計上される
企業オーナーが貸付金を放棄すると会社に債務免除益が計上されます。
繰越欠損金※を利用できる場合、繰越欠損金を利用します。 - 他の株主にみなし贈与課税が発生する
他に株主がいる場合、企業オーナーが貸付金を放棄した結果、自社株式の価値が増加すると、増加部分は企業オーナーから他の株主に対するみなし贈与として、贈与税が課税されます。
贈与税が課税される場合、債務免除を複数年にわたり行うことで暦年課税の控除(110万円)を利用するようにします。
※ 繰越欠損金の利用に制限がない法人
(法人税法57Ⅰ、同Ⅺ、66Ⅵ)
- 資本金1億円以下で次の要件のいずれかを満たす法人
ア 大法人(資本金又は出資金が5億円以上である法人、相互会社、法人課税信託の受託法人)との間に当該法人による完全支配関係がない
イ 完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式全てを所有されている法人でない - 公益法人等又は協同組合等
- 人格のない社団等
(上記以外の法人は繰越欠損金の控除限度額が制限されます)
貸付金対策 DESを活用する
DESとは、債務(Debt)と資本(Equity)の交換(Swap)のことです。
企業オーナーから見ると、会社に対する貸付金によって出資をする、すなわち債権(貸付金)の現物出資となります。
債権放棄と同様に、会社の財務再構築(デッド・リストラクチャリング)の手法として利用されるほか、事業承継でも活用されます。
企業オーナーの貸付金は相続発生時、相続税では額面で評価されます。
会社の財務内容が悪化して貸付金の回収が困難な場合も基本的には同様です。
一方、貸付金を株式にすれば、会社の財務内容が悪化している場合、当該株式の評価額が下がる結果、相続税の負担も減少します。
なお、現物出資型のDESの場合、適格現物出資の場合を除いて2006年税制改正により、発行する株式の額面と貸付金の時価の差額を、債務消滅益として認識することになります。
[注意点]
DESによって会社の法人税が増加する可能性があります。
DESによる払込金額のうち2分の1までは資本金に組み入れる必要があるため、資本金額が増加することになります。
資本金額が増加すると法人住民税の均等割の負担が増加します。
例)
大阪市の場合
資本金等の額1,000万円以下の均等割額は5万円ですが、
資本金等の額が1,000万円超1億円以下の場合13万円になります。
期末の資本金額が1億円を超える場合、
- 外形標準課税の対象になります
- 年800万円以下の所得に対する軽減税率が適用されません
- 交際費の損金算入ができなくなります
- 特定同族法人の留保金課税の対象となります
貸付金対策 借換え
会社が金融機関等から資金を借入れ、その資金で企業オーナーからの借入を返済します。
債務免除やDESで生じうる不利益を回避できるとともに、企業オーナーは貸付金を現金化できることによって相続人に対する生前贈与や生命保険加入などの相続税対策を実現できます。
[注意点]
- 企業オーナーからの名目上の債務(ある時払いの催促なし)が、弁済が必要な債務に代わります
- 有利子負債が増加します
相続税の納税対策
金庫株活用による相続税納税資金の準備
相続税は相続開始の翌日から10カ月以内に申告と納税をする必要があります。
10カ月以内に納税ができないと延滞税等の加算税が課せられる場合があります。
相続税は現金一括納付が原則です。
延納は現金一括納付が困難な事情がある場合、物納は延納で納付できない場合に限られます。
一方で、相続財産がほぼ自社株式だけといったケースでは納税資金が準備できないこともあります。
そうした場合、金庫株によって相続税の納税資金を確保する方法があります。
平成13年の商法改正により、会社は自己株式を取得・保有することができるようになりました。
金庫株とは、会社が保有する自己株式のことです。
平常時、株主が会社に株式を売り渡すと、資本金等の額を超える部分の対価は、「みなし配当」として課税されます。
みなし配当課税は、配当控除後の最高税率が約49%となるため、非常に重い税負担となります。
他方で、
① 相続または遺贈により財産を取得し、相続税を納付する必要があること
② 相続税の申告期限後3年以内に譲渡すること
以上の要件を満たす者が、相続により取得した自社株を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当課税ではなく、全額が譲渡所得として課税されます。
譲渡所得課税の税率は20.315%(復興特別所得税含)となるため、課税上有利になります。
したがって、相続した株式を金庫株にすることで納税資金を調達することができます。
さらには、譲渡所得の計算上控除できる取得費に、譲渡した株式に課された相続税額を加算することができます(相続税の取得費加算の特例)。
もっとも、会社に自己株式を取得する資金がなければこうした対策をとることはできません。
そこで解約返戻率の高い生命保険金等で、自己株式の取得資金の準備をしておく必要があります。
自社株式の物納
相続税の物納
次の要件を満たす場合は、相続税を物納(代物弁済)ができます。
但し、延滞税や加算税は延納の対象になりません。
- 延納によっても金銭納付することが困難な金額の範囲内であること
- 物納申請財産が定められた種類の財産で申請順位によっていること※
- 申請書・物納手続関係書類を期限までに提出すること
- 物納申請財産が物納適格財産であること
※物納の順位
順位 | 物納できる財産の種類 | |
第1順位 | ① | 不動産・船舶・国債・地方債・上場株式等 |
② | 不動産・上場株式等のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2順位 | ③ | 非上場株式 |
④ | 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3順位 | ⑤ | 動産 |
自社株式の物納
自社株式は第2順位の「非上場株式」となるため、第1順位の不動産、国債、地方債、上場株式等がない場合に限り物納に充てることができます。
ただし、次に掲げる自社株式は物納することができません。
- 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続がとられていないもの
- 譲渡制限株式
- 質権その他の担保権の目的となっている株式
- 権利の帰属について争いのある株式
- 2以上の者の共有となっている株式で、共有者全員が物納の許可申請をしないもの
物納後の手続
物納された自社株式は、原則として一般競争入札で処分されます。
発行会社等が物納した自社株式を買戻すには、「随意契約適格者」(物納申請者、株式発行会社、主要株主、会社役員等)が一定の書類を税務署に提出し、原則として収納日から1年以内に買戻す必要があります。
一人で悩まず、
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