開業医・医療法人の法律問題

病医院の経営には十分な事前準備が必要です。そこで、病医院の経営について、オールワン法律会計事務所がその概要を説明します。

医療法人の法律問題についての
お問い合わせ・ご相談予約

テナント開業(ビル診)の注意点

ビル診

勤務医が開業する場合、親が戸建てで開業していたといったケースを除き、テナントを借り手開業することになります。
このビルの一角を借りて開業するスタイルを、ビル診療所を約して「ビル診」といったりします。
ビル診はさらに、
①オフィス仕様のテナント物件を借り受けて内装を手直しする、
②スケルトンで物件を借り受けて一から内装する、
③医療モールで開業する、
の3つのケースがあります。それぞれにメリットとデメリットがあるので、開業に際してはそうしたメリット・デメリットを予め知っておく必要があります。

①オフィス仕様の物件

オフィス仕様の物件とは、天井・壁・床がすでに出来上がっており、エアコンなども設置され、後は電話さえ設置すればオフィスとして使用できる状態になっているものです。
名前のとおり、その部屋をオフィスとして使用する場合には一番適していますが、端的にいってクリニックとして使用するには向いていません。
クリニックの内装には室数が多いという特徴があります。
室数が多くなると仕切りが増え、室数に合わせた照明や空調が必要となります。
オフィス仕様の物件を借り受けると、改めて内装を一から手直しする必要が出てきます。
また医療機器を使用するときに必要となる高圧電流もオフィス仕様では対応できません。

②スケルトン

一見費用がかかりそうなスケルトンですが、オフィス仕様と違って内装を作り替えることなく、最初からクリニック仕様にすることができます。
また、スケルトンの場合、区画内に排水設備が設けれていることが多く、簡単な手洗い等であれば比較的自由に配置を決めることができます。
ただ、スケルトンの場合、内装を一から作り上げていく必要があるため、いかにしてそのコストを抑えることができるか、工期を何処まで短縮できるのか、がポイントとなります。

③医療モール

医療モールでは、他の診療科目との相乗効果によって集患が期待できます。
もちろんクリニック仕様のため、比較的自由に内装を決めることができます。
注意点としては、企画会社によっては内装業者や医療機器メーカーを指定している場合があるため、そうした制約があるのか予め確認しておく必要があります。
またワクチン接種等で他の診療科目のクリニックと患者の奪い合いが起こることがあるため、場合によっては診療範囲を予め調整しておく必要があります。

 

開業時の診療圏調査

開業時の診療圏調査とは

新たに病医院を開業する際には、必ずといっていいほど医療コンサルタント等から診療圏調査を提案されます。
具体的には、開業予定地を中心に、患者が移動する範囲を想定した円を描きます。
円の範囲は概ね診療科目によって決まっており、競合が多い内科の場合は500m、耳鼻咽喉科や皮膚科の場合は1km、精神科の場合で2kmといったところで、専門性が高く競合が少ない診療科目ほど円が広くなります。
次に、実際の患者の移動手段(徒歩、自転車、自動車、電車等公共交通機関)を想定し、円の広さを修正します。
円の範囲が決まると、次に河川や大型道路、線路等、患者の動線を分断する障害物の有無を検討し、障害物がある場合はその外側を除外します。
そして、市区町村が公表している町丁別人口データを基にして診療圏の人口を特定し、厚労省が発表している診療科目ごとの受療率を乗じて1日あたりの診療圏の患者数を算出します。
最後は、その患者数を、競合先医療機関に自院を加えた施設数で除すると1日あたりの想定来院患者数を求めることができます。

診療圏調査の信用度

診療圏調査は一見科学的ですが、様々な問題点も指摘されています。
問題点を一言で言うと、不確定要素が多いということです。
まず、患者の移動手段ついては、正確なデータがない以上大まかな設定にならざるを得ません。
また、診療圏にある障害物をどの程度顧慮するのかによって診療圏の範囲が大きく異なってきます。
さらには、診療圏調査で算出されるのは、診療圏の患者数を医療機関の数で除した数値です。
実際には競争力があるクリニックに多くの患者が集まるので上記計算式では自院の患者数を予想することはできません。
このように診療圏調査信用度は必ずしも高くないため、開業時の患者数のある程度の目安程度に考えたほうが良いと思われます。
さらには、医療コンサルタントの力量によっても診療圏調査の信用度は大きく異なります。
(経験豊富な医療コンサルタントが作成する診療圏調査の結果は、開業後の患者数とかなり一致すると言われています。)
もっとも、金融機関から融資を受ける際には、診療圏調査が審査資料として重視されるため、診療圏調査があると役に立ちます。

 

クリニックの収支

クリニックの収支の特徴

クリニックの支出の特徴は、支出全体に占める固定費の割合が高いということです。
病医院の支出には、薬品費、診療材料費といった変動費と、テナント賃料、スタッフの人件費、水道光熱費、医療機器のリース料といった固定費に分類できます。
支出全体に占める固定費の割合が高くなるのは、クリニックより病院で、郊外よりもテナント賃料が高くなる都市部で開業する場合において顕著になります。
このようにクリニックは「固定費型」と呼ばれる支出構造を有しているため、一般的には損益分岐点が高くなります。
したがって、特に開業当初は患者の数も少なく、固定費以上の収益が獲得できないことが多いため、運転資金の減少が早くなります。
開業にあたっては、収益が損益分岐点を超えるまでの運転資金を準備しないとクリニックの経営が行き詰まります。
このため、開業当初は、①固定費をできるだけ抑制しておく、②事業計画において収入予測を厳しくして十分な運転資金を確保しておくこと、が非常に重要になります。
具体的には、①使用する医療機器・備品を絞り込む、②医療機器は買取りではなくリースを利用する、③備品等は場合によっては自費で購入する、④スタッフの採用は最低限に抑える、といったことが必要となります。
一方で固定費型のもう一つの特徴は、収益が一旦損益分岐点を超えると、大きく儲かるというということです。
集患の伸びに応じて増加する変動費が少ないため、経営が軌道に乗るとクリニックの経営は高い収益を維持しながら安定します。
したがって、クリニック経営を成功させる秘訣は、損益分岐点を超える収益を早期に実現することとと、その間の運転資金を確保すること、にあります。

 

医療法人設立のメリット

実効税率の比較

個人の開業医が医業により所得を得ると、事業所得として所得税が課税されます。
所得税は累進税であり、課税される所得金額が4,000万円を超えると、地方税と併せて55%の税金が課税されます。
したがってクリニックが軌道に乗ってくると非常に加重な税金が課せられることになります。
他方、医療法人の場合、各事業年度の所得に課税される法人税は、法人の資本金額や所得額によって適用税率は変わりますが、税率そのものは定率です。
事業税の損金算入の影響を考慮した上で法人税、住民税および事業税の所得に対する税率を合計した時刻税率は約30%で、所得税及び住民税の最高税率55%より低率です。

経費の比較

医療法人では、役員が退職する際、勤務期間や功績に応じて役員退職金が支給できます。
役員が退職金を受領した際の所得税の計算では、勤務年数に応じて退職所得控除を受けることができるなど優遇されています。
他方、個人の場合はそもそも役員退職金の支給ができません。
医療法人の場合、使用人兼役員には賞与を支給することができます。
しかし、個人の場合賞与を支給することはできません。
その他、医療法人では、法人が不動産を取得し、一定の金額で役員や従業員に当該不動産を賃貸することができます。
しかし、個人の場合はこうしたことはできません。

欠損金の控除

医療法人においてある事業年度で欠損金が生じた場合、最大9年間(平成30年4月1日以降に開始する事業年度では10年間)欠損金の繰り越しができます。
したがって、欠損金が生じた翌期以降の事業年度に益金が生じても、欠損金と相殺することで税負担を軽減できます。
他方、個人が青色申告をしている場合、欠損金を繰り越すことができるのは3年となります。
まとめ
このように税制面では個人の開業医より医療法人の方が優遇されているといえます。
他方で、医療法人になると、理事会等のガバナンスを整備し、決算申告時に税理士に依頼するなど、様々なコストが発生します。
したがって、医療法人化はこうしたコストを上回る税制上のメリットが認められる場合に検討することになります。

 

医療法人設立のデメリット

院長の可処分所得が減少する

医療法人の目的の一つは、所得の分散による税負担の軽減化にありました。
この所得の分散によって院長の可処分所得自体は少なくなります。

持分なし医療法人しか設立できない

医療法の改正により、平成19年4月1日以降、新たに設立される医療法人は全て持分が認められなくなりました。
この持分なし医療法人が解散すると、残余財産は全て国庫に帰属することになります。

事業報告書等の作成が必要となる

医療法人は、毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書を作成する必要があります(医療法51条1項)。
これら事業報告書等は、理事から監事に提出され、監事はこれらをもとに業務・財産の状況を監査し、監査報告書を作成する必要があります(同46条の8第3号)。

経営の透明性の確保・ガバナンスの強化が求められる

医療法人経営の透明性の確保のため、一定の規模以上の医療法人には医療法人会計基準の適用と公認会計士等による外部監査が義務付けられました。
また、一定の規模以上の医療法人には、計算書類の公告も必要となります。
さらに、医療法人とMS法人関係者との関係の透明化のため、毎年度、医療法人と関係事業者との一定の取引状況を都道府県知事に報告する必要もあります。

その他のデメリット

院長が小規模企業共済に加入していた場合は脱退する必要がある。
地方税の均等割の負担が生じる。
交際費等の損金不算入制度が適用される。
組織や構成員が変わるたびに登記する義務が生じる。

まとめ

医療法人化には税制上のメリットがある反面、今回ご紹介したようなデメリットもあります。
もっとも、デメリットの内容を見てみると、そのほとんどが医療法人化による事務作業の増加のため、事務作業を効率的に進めることができれば問題はないとも言えます。

 

医療法人における剰余金の配当禁止

剰余金の配当禁止

医療法54条は、「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」として、医療法人における剰余金の配当を禁止しています。
医療法人において剰余金の配当が禁止されるのは、医療法人が営利を目的としていないためです。
医療法人が獲得した利益を剰余金として社員等に配当できるとすれば、不必要な医療サービスを提供することで多額の利益を計上して、その利益を配当に充てるといった危険性が生じます。
したがって医療法人で利益が生じた場合は、施設の整備・改善に充てるほか、その余の利益については積立金として留保することになります。
もっとも、厚労省が公表しているモデル定款(社団医療法人定款例)によると、医療法人が解散した場合の残余財産については、① 国、②地方公共団体、③医療法第 31 条に定める公的医療機関の開設者、④都道府県医師会又は郡市区医師会(一般社団法人又は一般財団法人に限る。)、⑤財団たる医療法人又は社団たる医療法人であって持分の定めのないもの、のいずれかに帰属させる必要があります。
(但し、2007年(平成19年)3月以前に設立された医療法人は除きます。)
したがって、実際には医療法人で生じた利益は配当ではなく、理事等の役員の報酬として払い出すことになりますが、次にご紹介するように青天井で役員報酬を上げることはできません。

配当とみなされる行為

形式的には剰余金の配当にあたらないものであっても、次のような行為は実質的に剰余金の配当とみなされるおそれがあるため注意が必要です。
〇役員の地位のみに基づいて高額は報酬を支払うこと
〇医療法人の関係者が役員を務めるMS法人に通常よりも高い対価を支払うこと
〇その他役員への不当な利益の供与
これらの行為が実質的な剰余金の配当であるとみなされると、医療法人の理事、監事には20万円以上の過料に処せられます(医療法93条7号)。

 

給与と外注費

給与と外注費の区別

給与とは、雇用契約又はこれに準じる契約に基づく対価で、社員やパート等に支払うものです。
外注費とは、請負契約又はこれに準じる契約に基づく対価で、外注先に支払うものです。

給与の場合、使用者において源泉徴収が必要で、社会保険料の使用者負担(給与から本人負担分を天引きし、使用者負担分と一緒に支払う)があます。
外注費の場合、源泉徴収や社会保険料の使用者負担はなく(※)、消費税がかかり、その消費税は課税仕入取引として扱われるため(仕入税額控除の対象となるため)、納めるべき消費税から後に控除することができます。
※所得税法204条1項に規定する外注費は源泉徴収が必要。

外注費であれば、消費税と社会保険料分、使用者の負担が軽減されます。

給与と外注費の判断基準

給与と外注費の区別は、一般的に次の基準に基づいて行われます。

大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)(抜粋)

①他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか
→代替できない場合は給与と認定される可能性が高まります。

②報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
→時間的な拘束があれば給与と認定される可能性が高まります。

③作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
→指揮監督があれば給与認定される可能性が高まります。

④まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
→請求することができれば給与認定される可能性が高まります。

⑤材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。
→供与されていれば給与認定される可能性が高まります。

雇用契約ではなく、請負契約を締結すれば外注費で処理できる訳ではありません。
仮に外注費で処理していたものが税務調査で否認され給与と認定されると消費税の追徴と源泉所得税の納付が必要となります。
継続的かつ大量に外注費で処理していたものが否認されると、その影響は甚大となります。

立入検査・随時調査・指導・監査

保健所や地方厚生局が主体となって、病医院の診療等の調査を行う方法には、立入検査、随時調査、指導、監査があります。
名前が似ていてややこしいのですが、中身はずい分と異なります。

立入検査

立入検査とは、医療法25条1項に基づき、保険所等医療機関に対して行う調査のことです。
具体的な調査内容には、医療従事者の人員等、病医院の衛生状態、診療録を含む書類・帳票類の確認、業務委託の内容及び委託先の確認、防火防災体制の確認、放射線管理の確認等があります。
病院では原則として年1回立入検査が実施されていいますが、診療所ではタレコミ等がない限り概ね5年に1回の程度で実施されています。
なお、立入検査によっては診療報酬の自主返納を求められること等はありません。

随時調査

随時調査とは、地方厚生局が、保険医療機関が届出どおりの人員配置や施設基準を満たしているかを調査するものです。

指導

指導とは、地方厚生局が、医療機関において保険診療が適切に行われているのかを確認するために実施される行政指導のことです。
指導には、集団指導、集団的個別指導、個別指導があります。

個別指導のうち、厚生労働省・地方厚生(支)局・都道府県が共同して行うものを共同指導といい、特に大学附属病院、臨床研修病院等を対象として行うものを特定共同指導といいます。

集団指導とは、大きな会場において講習会形式で行われるもので、保険医療機関の新規指定および指定更新にあたっての講習会や、診療報酬改定時に厚生局と医師会が共同で開催する「点数説明会」などです。
講習会が終わればそこで完結し、その後の措置や処分といったものはありません。
集団的個別指導は、講習会形式の集団部分と、個々の医療機関毎の面接形式の個別部分から実施される形式のものです。
講習会形式で実施されますが、その後に改善報告書の提出や自主返還といったものはありません。

個別指導は、新規指定を対象にするものと、既指定を対象とするものに分けられます。
問題となるのは既指定を対象として実施される個別指導です。

個別指導として選定される理由には、
①情報提供(被保険者や審査支払機関等から診療内容・診療報酬の請求に関する情報提供があり、厚生局が必要と認めた医療機関)
②再指導(前回の個別指導・新規指導の結果が再指導になった医療機関)
③高点数(前々年度に集団的個別指導を受け、前年度も高点数である医療機関)
④その他(監査の結果、戒告・注意となった医療機関や、正当な理由なく集団的個別指導を拒否した医療機関)
があります。

監査

個別指導の結果などにより、保険診療の内容又は診療報酬の請求について、架空・付増請求等の「不正」や「著しい不当」が疑われる場合に、保険医療機関の指定の取消など行政上の措置を前提に行われるものです。
監査が行われる前には、レセプトによる書面調査や患者等に対する実地調査(患者調査)が行われ、それらの調査に基づいて監査が実施され、終了後に行政上の措置(取消処分、戒告、注意)を採るかどうかが決められます。
不正請求には次のようなものがあります。

①架空請求(実際に診療を行っていない者につき診療をしたごとく請求すること。診療が継続して いる者 であっても当該 診療月 に診療行為がな いにもかかわらず請求を行った場合、当該診療月分については架空請求となります。)
② 付増請求(診療行為の回数(日数)、数量、内容等を実際に行ったものより多く請求すること。)
③ 振替請求( 実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振替えて請求すること。)
④ 二重請求(自費診療を行って患者から費用を受領しているにもかかわらず、保険でも診療報酬を請求すること。)
⑤ その他の請求(医師数、看護師数等が医療法の標準数を満たしていないにもかかわらず、入院基本料を減額せずに請求した場合など。)

出張旅費規程の作成

医療法人における旅費交通費等の処理

医療法人において、院長や職員が出張する場合、旅費交通費のほか、宿泊代や飲食代がかかります。
旅費交通費や宿泊代は、領収書等をとっておき、後日、院長や職員が立替えた費用を清算することが多いと思われます。
しかし、飲食代については、それが交際費※としての支出が認められる場合を除き、医療法人の経費とはならないため、清算することもできません。

※持分なし医療法人における交際費の損金不算入
期末の出資額が1億円以下の医療法人
次のいずれかの金額
1.飲食に要する費用の50%に相当する金額を超える部分の金額
2.800万円(事業年度が12ヶ月の場合)を超える部分の金額
期末の出資額が1億円超の医療法人
飲食に要する費用の50%に相当する金額を超える部分の金額

出張旅費規程

出張旅費規定とは、院長や職員が業務として出張する場合の旅費等について定めたものです。
予め出張旅費規程において旅費(交通費、宿泊代等)や日当(食事代等)を定め、医療法人がこれを支給すると、法人は経費として経理処理することができ、支給を受ける院長や職員は給与所得として課税されることもありません。
このように出張旅費規程を作成しておけば、本来経費にならかかった飲食代等についても経費として取り扱うことができます。

出張旅費規程作成のポイント

記載事項として、①適用の対象範囲(役員及び全従業員を対象とする等)、②出張の定義、③旅費・日当の額、を定めます。
③旅費・日当の額については、職制ごとに利用できる交通機関(役員はグリーン車・ビジネスクラスの利用が可能、職員は普通車の利用のみ可能等)、宿泊費の上限(役員は1泊2万円、職員は1泊1万円等)、日当の額(日帰りの場合役員は5千円・職員は3千円、宿泊を伴う場合は役員1万円・職員6千円等)を決めておきます。
また、出張する際には事前に院長に出張願を提出し、院長の許可を得る等の手続についても定めておきます。
このように院長や職員が出張する機会のある医療法人では出張旅費規程を作成しておくと何かと便利です。

借地権の認定課税

借地権の認定課税

医師個人が所有する土地の上に医療法人が建物を建てた場合、借地権が発生します。
医師が医療法人から権利金の支払を受ければ問題はありませんが、場所によっては借地権は底地の路線価のの80~90%と高額になるため、医療法人の財務を圧迫します。

他方で、権利金の支払がない場合、医療法人は借地権分の支払を免れた分が利益とみなされ、その部分に課税されることになります(借地権の認定課税)。

無償返還の届出書の提出

借地権の認定課税を回避するためには、税務署に対して借地の無償返還の届出書を提出します。
具体的には、賃貸借契約終了時に医療法人が無償で医師に土地を返還することを内容とする書面です。
無償返還の届出書を提出すると、医療法人には通常の賃借人に認められる権利が認められず、医師が立ち退きを要求した場合、立退料を請求できずに立ち退くことになります。

無償返還の届出書提出のメリット

無償返還の届出書を提出するメリットは次の2つです。
1 医療法人の借地権に係る認定課税を回避できる。
2 医師個人の相続時に土地の評価額を20%減額することができる。

なお、医療法人に十分な内部留保があり、医師個人に医療法人の利益を移したい場合は、医療法人から医師個人に相当の地代を支払うこともできます。
相当の地代とは、土地を更地とした場合の相続税評価額の3年平均の6%です。
地代を医師個人が受取ると所得税が課税されることになります。

病医院の経理

診療報酬の支払いと収入計上時期

診療報酬の支払い

社会保険診療報酬は、当月の診療点数を翌月10日までに請求した場合(レセプト請求)、国民健康保険団体連合、社会保険診療報酬支払基金から、請求月の翌月20日ころ支払われます。

会計処理では、開業初月を除き2か月分の医業未収金を計上します。

診療報酬の収入計上時期

診療報酬とは、診療行為などの役務の対価として受け取るものをいいます。

所得税基本通達によれば、その収入の計上時期は「人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。」とされています。
(所得税基本通達36-8(5))

したがって、国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬基金に対してレセプト請求を行った時期や、実際に診療報酬を受け取った時期に関わらず、診療行為を行ったときが計上時期となります。

請求金額と国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬基金からの支払額との相違

1個人開業医に対する源泉徴収

個人開業医への支払額は、社会保険診療報酬支払基金法の規定により、支払われる診療報酬から所得税が源泉徴収されます(所得税法204条1項3号)。
そのため、診療点数を計算して行った請求金額と、社会保険診療報酬基金からの支払額に差異が生じる場合があります。

所得税法の規定にあるように、源泉徴収されるのは社会保険診療報酬基金からの支払いだけであり、国民健康保険団体連合会から支払われる診療報酬については源泉徴収されません。
また、源泉徴収されるのは個人の開業医だけであり、医療法人に対しては源泉徴収はなされません。

2請求書類の不備

診療報酬を請求する書類に不備がある場合、国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬基金から「返戻」や「減点」の措置が取られます。
「返戻」の場合は医療機関にレセプトが差し戻され、「減点」の場合は請求額が減点されます。
したがって、「返戻」や「減点」の措置が取られた場合も、請求金額と支払額に差異が生じることになります。

なお、レセプトが差し戻された場合、不備を修正して翌月以降に再提出する必要があります。
この場合、診療報酬の支払いが1か月以上遅れることになるため注意が必要です。

個人開業医の必要経費

所得税の計算

所得税の計算において、収入金額は
「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」
と規定されています(所得税法36条1項)。

他方、必要経費は
「(事業所得等の)計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」
と規定されています(同法37条1項)。

診療で使用する薬剤や機器の代金については、必要経費に算入されます(機器については償却資産として減価償却の対象となる場合があります)。

飲食費やゴルフのプレーフィー等

交際費については、所得税法上の規定はありません。
所得税法上の規定によれば、「総収入金額を得るため直接に要した費用」、「所得を生ずべき業務について生じた費用」にあたれば必要経費に算入することができます。

したがって、必要経費に算入できるか否かは、当該支出によって所得(売り上げ)が増加したと言えるのか、業務がスムーズに行われることになったのか、といった観点から判断されます。
所得を得るために必要な活動としての飲食費やゴルフのプレーフィー、贈答代といったものであれば制限なく必要経費に算入できます。

注意が必要なのは飲食費にかかる領収書です。
最近の税務調査では、誰と、何人で飲食したのか、確認されるようになりました。
しががって、飲食費に係る領収書には、参加した相手の名前や、参加した人の人数などをメモしておきましょう。

なお、医療法人の場合、これらの必要経費は交際費と呼ばれます。
税務上の中小法人(各事業年度の期末において資本金又は出資金が1億円以下の法人)の場合、交際費は年額800万円が限度となります。
大法人の場合、交際費は認められません。

家族に対する給与の支払い

家族への給与の支払い

開業医などの個人事業主の場合、所得に応じて所得税が課税されます。
事業を手伝っている家族に給与を支払う場合、給与を必要経費にできるのであれば、開業医の所得が圧縮でき、結果として所得税の負担が軽減されます。
他方、給与を受け取る家族も開業医より所得税の負担が低くなります。

したがって、これを無条件に認めると税金逃れの温床となるため、原則として家族に支払う給与は必要経費に算入することはできません。
(家族に給与を支払うことができないのではなく、支払った給与を必要経費にできないということです)。

事業専従者控除

しかしながら実際には、開業医の配偶者が医療事務などを手伝っている事例は少なくありません。
こうした場合、事業を手伝ってくれる家族を事業専従者とすることで、その家族に支払う給与を必要経費に算入することができます。

必要系にできる事業専従者の給与は、白色申告と青色申告で異なります。
白色申告の場合、事業専従者控除は、配偶者で86万円、その他の家族で50万円が限度となります。
他方、青色申告の場合、事業専従者控除に制限がないため、妥当な金額であれば、給与全額を必要経費にすることができます。

青色事業専従者の要件

青色事業専従者の要件は次のとおりです。

①青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
②その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
③その年を通じて6月を超える期間(一定の場合は事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)その青色申告者の営む事業に専ら従事していること

なお、医療法人の場合は青色専従者給与というものはありません。
配偶者を始めとする家族に給与を支払うには、①家族が理事等に就任して役員報酬として支払う、②従業員として働き給与として支払う、方法があります。

小規模企業共済・中小企業倒産防止共済

小規模企業共済

小規模企業共済とは、国の機関である中小機構が運営する共済制度で、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。

個人開業医の場合、常時使用する従業員が5人以下であることが加入の条件となります。
他方、個人開業医から医療法人となった場合、その役員である医師は加入できません。

月額の掛け金は1,000円~70,000円まで500円単位で自由に設定でき、加入後も増額・減額ができます。
掛け金は全額、課税所得から控除することができるため、高い節税効果が期待できます。

共済金は、退職・廃業時に受け取り可能で、満期や満額はありません。
共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。

一括受取りの場合は退職所得扱い、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなります。
また、掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用することもできます。

クリニックの運営が軌道に乗ってきた個人開業医にとっては、非常に大きなメリットがある制度といえます。

中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)

中小企業倒産防止共済は、取引先事業者が倒産した際、無担保・無保証で掛け金の10倍(上限8,000万円)まで借入れることができる制度です。
取引先の倒産による中小企業の連鎖倒産を防ぐことを目的とするものです。

開業医の加入条件は、常用従業員数が100人以下で、引き続き1年以上事業を行っていることになります。
医療法人には加入資格が認められていません。
(MS法人の加入は可能です)

中小企業倒産防止共済には、倒産防止効果のほか、掛け金の税制優遇措置による高い節税効果が期待できます。
掛け金は月額5,000円~200,000円の範囲で加入者が自由に設定することができ、全額が損金又は必要経費に算入することができます。

解約返戻金は、自己都合の解約でも掛け金を12か月以上納めていれば、掛け金の8割以上が戻ってきます。
(12か月未満の場合は掛け捨てとなります)
掛け金を40か月以上納めていれば、掛け金は全額戻ってきます。

倒産防止協定を利用することで所得金額を繰り延べる効果が期待できます。

日々の診療や医師会の会合など、医師としての仕事だけでも多忙でありながら、病医院の経営についてご自身で適切に対応することはなかなか難しいものです。
もしお悩みがありましたら、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。

あなたの強い味方となって
お悩みの問題の解決にあたります。