開業医・医療法人の法律問題

病医院の継承には十分な事前準備が必要です。そこで、病医院の継承手続について、オールワン法律会計事務所がその概要を説明します。

医療法人の法律問題についての
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医療法人の承継

病医院の開設者が医療法人の場合、承継の前後で開設者の変更はありません。

そこで、医療法人は同一性を保ったまま、その構成員である社員、理事等の役員の変更、および病医院の管理者の交替によって承継を進めることになります。

必要な手続

社員関係

退社する社員が理事長に退社届を提出します。
定款の規定がある場合、理事長又は社員総会の承認が必要となります。

退社に伴う社員名簿の書換を行います。
承継者が新たに社員となる場合は理事長への入社申込及び社員総会における社員全員の承認が必要です。

経過措置型医療法人では持分払戻請求権が発生する場合があります。

理事関係

退任する理事が理事長に退社届を提出します。
(退任により理事会の定員が足りなくなる場合は次の理事就任まで責任が継続する)

退任に伴う役員名簿の書換を行います。
承継者が新たに理事となる場合は社員総会での選任及び本人の承諾が必要です。

都道府県の所管部署に役員変更届を提出します。

理事長関係

退任する理事長が理事会に退任届を提出します。
退任に伴う役員名簿の書換を行います。

承継者が新たに理事長となる場合は理事会での選任及び本人の承諾が必要となります。
法務局で退任登記を行います。

保健所に病院(診療所)開設許可事項変更届出を提出します。
地方厚生局に保険医療機関届出事項変更届出を提出します。

税務署に異動届を提出します。
都道府県税事務所に異動届を提出します。
市区町村に異動届を提出します。

管理者関係

先代経営者が辞任届を提出します。
社員総会で承継者が選任され本人が承諾して就任します。

保健所に病院(診療所)開設許可事項変更届出を提出します。
地方厚生局に保険医療機関届出事項変更届出を提出します。

個人開業医の承継

個人開業医の場合、承継者が病医院の名称をそのまま引継ぐ場合であっても法的には「前開設者の廃止」と「新開設者の開設」の組み合わせとなります。

したがって、前開設者の下での契約や債権債務は新開設者に承継されず、新開設者がそれらを引継ぐ場合は新たに契約等を行う必要があります。

必要な手続

保健所に前開設者による診療所廃止届と、新開設者による診療所開設届を提出します。
廃止届と開設届は必ず同一又は連続した日付とします。

地方厚生局に前開設者による保険医療機関廃止届と、新開設者による保険医療機関指定申請を提出します。
保険医療機関指定申請書は、前月の締切日までに、申請月の初日に遡及するように指定をして申請するようにします。

診療用エックス線装置を設置する場合

保健所に前開設者による診療用エックス線装置廃止届と、新開設者による診療用エックス線装置備付届を提出します。
診療用エックス線装置備付届にはエックス線診療室漏えい線量測定結果報告書等を添付するします。

新開設者が前開設者から麻薬の譲渡を受けて使用する場合

都道府県に前開設者による麻薬譲渡届と、新開設者による麻薬(施用・管理)者免許申請書を提出します。

税務署関係

前開設者

  1. 個人事業の開業・廃業等届出書
  2. 所得税の青色申告の取りやめ届出書
  3. 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請(予定納税の義務がある場合)
  4. 消費税の事業廃止届出書
  5. 給与支払事業所等の開設・移転・廃止の届出

新開設者

  1. 個人事業の開業・廃業等届出書
  2. 所得税の青色申告承認申請書
  3. 給与支払事業所等の開設・移転・廃止の届出
  4. 消費税課税事業者選択届出手続(多額の設備投資等により消費税の還付を受ける場合)
  5. 所得税の減価償却資産の償却方法の届出

その他の手続

労働基準監督署

新開設者が労働保険名称・在地等変更届出を行います(10日以内)。
常時10人以上の職員を使用する場合は就業規則の作成及び届出を行います。

ハローワーク

新開設者が雇用保険事業主事業所各種変更届、雇用保険適用事業所設置届を提出します。

日本年金機構

新設者が健康保険・厚生年金保険新規適用届を提出します。
前開設者が社会保険の適用事業所で職員の雇用を継続する場合は、健康保険・厚生年金保険事業所関係変更(訂正)届を提出します。
※その他にスタッフの雇用契約書等を作成することになります。

持分あり医療法人

持分あり医療法人とは

持分あり医療法人とは、医療法人設立時の出資者が持分に関する財産権・返還請求権を有している医療法人のことです。
持分なし医療法人とは、出資者にそうした権利が認められない医療法人のことです。

平成19年(2007年)施行の第五次医療法改正により、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなりました。
もっとも、既存の出資持分のある医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられており、これらは「経過措置型医療法人」と呼ばれることもあります。

平成30年(2018年)時点で、全国の医療法人53,944件のうち、出資持分のある社団医療法人は39,716件(73.6%)とあり、約7割が出資持分のある医療法人となっています。

持分あり医療法人メリット・デメリット

持分あり医療法人は、端的に言うと出資者のものであり、出資者の財産権・返還請求権が認められます。
持分なし医療法人では法人解散時に残余財産分配請求権が認められないため、それらは最終的に国庫に帰属することになるため、財産権・返還請求権が認められるのは持分あり医療法人のメリットといえます。

しかし、持分の評価が高い医療法人では、相続時に持分に対して多額の相続税が課税されるおそれがあります。
また、複数の出資者がいる場合、一部の出資者から持分の返還請求がなされる恐れがあります。

普通の会社の場合、相続税対策として株価を下げることが行われたりしますが、医療法人は医療法で配当が禁止されているため、持分の評価を下げる対策がとりにくくなっています。

出資額限度法人

持分あり医療法人の中には、社員の退社に伴う出資持分の払戻しや、医療法人の解散にともなう残余財産分配の範囲について払込出資額を限度とする旨を定款に規定している「出資額限度法人」があります。

出資額限度法人について国税庁は、
「出資額限度法人は、依然として、出資持分の定めを有する医療法人であり、出資者の権利についての制限は将来社員が退社した場合に生じる出資払戻請求権又は医療法人が解散した場合に生じる残余財産分配請求権について払込出資額の範囲に限定することであって、これらの出資払戻請求権等が行使されない限りにおいては、社員の医療法人に対する事実上の権限に影響を及ぼすものとはいえないこと」
「出資額限度法人においては、出資払戻請求権等が定款の定めにより払込出資額に制限されることとなるとしても、定款の後戻り禁止や医療法人の運営に関する特別利益供与の禁止が法令上担保されていないこと」
「他の通常の出資持分の定めのある医療法人との合併により、当該医療法人の出資者となることが可能であること」
といった理由から、その出資額の評価は通常の出資持分のある医療法人と同様であるとしています。

したがって、退社する社員が払戻請求権を行使した場合、当該社員には出資額を払戻せば足りますが、実際の評価額と出資額の差額は、他の社員や医療法人に対するみなし贈与として課税されます。
また、持分を有する社員に相続が発生した場合、その持分についても時価で評価されることになります。

一方で、次のいずれにも該当しない出資額限度法人においては、原則として、他の出資者に対するみなし贈与の課税は生じないものとされています。

ア.当該出資額限度法人に係る出資、社員及び役員が、その親族、使用人など相互に特殊な関係をもつ特定の同族グループによって占められていること

イ.当該出資額限度法人において社員(退社社員を含む)、役員(理事・監事)又はこれらの親族等に対し特別な利益を与えると認められるものであること

上記に該当するかどうかは、当該出資額限度法人の実態に即して個別に判断されます。

認定医療法人制度

認定医療法人とは

持分あり医療法人では相続時に多額の相続税が発生するなどして医療法人経営に重大な影響が出ることがありました。
そこで持分あり医療法人から、持分なし医療法人への移行計画を国が認定する制度がスタートしました。

認定期間は、当初平成29年9月までとなっていましたが、3年延長され令和2年9月までとされました。
併せて税制上の特例措置も延長されることになりました。

また、従来の認定を受けるための要件として「役員等のうち親族・特殊の関係がある者は等3分の1以下であること」があったため、同族経営の多い医療法人において上記要件がネックとなって認定制度の利用が進まないといった問題がありました。

認定期間の延長に伴い、これらの要件が緩和されたため、認定理療法人への移行のハードルはずい分と低くなったといわれています。

医療法人の持分に係る贈与税の特例

制度の概要

認定医療法人の持分を有する人(贈与者)がその持分の全部又は一部の放棄をしたことにより、その認定医療法人の持分を有する他の人(受贈者)に贈与税が課される場合、納付すべき贈与税のうち、その放棄により受けた経済的利益の価額に対応する贈与税については、一定の要件を満たすことにより、認定移行計画に記載された移行期限まで、その納税が猶予されます。
(猶予される贈与税額を「医療法人持分納税猶予税額」といいます。)。

この医療法人持分納税猶予税額は、次に掲げる場合に該当したときには、その全部又は一部が免除されます。

認定医療法人

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年医療法等改正法)附則第10条の4第1項に規定する認定医療法人をいいます。

地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日(平成26年10月1日)から令和5年9月30日までの間に厚生労働大臣の認定を受けた医療法人に限ります。

厚生労働大臣の認定

平成18年医療法等改正法附則第10条の3第1項の規定による厚生労働大臣の認定をいいます。

医療法人

平成18年医療法等改正法附則第10条の2に規定する経過措置医療法人(平成19年4月1日前に設立された社団たる医療法人又は同日前に医療法第44条第1項の規定による認可の申請をし、同日以後に設立の認可を受けた社団たる医療法人であって、その定款に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設けていないもの及び残余財産の帰属すべき者として同条第5項に規定する国若しくは地方公共団体又は厚生労働省令で定める一定の者以外の者を規定しているものをいいます。)をいいます。

認定移行計画

平成18年医療法等改正法附則第10条の4第2項に規定する認定移行計画をいいます。
なお、認定移行計画に記載する平成18年医療法等改正法附則第10条の2に規定する新医療法人(社団たる医療法人であって、その定款に残余財産の帰属すべき者として医療法第44条第5項に規定する国若しくは地方公共団体又は厚生労働省令で定める一定の者を規定しているものをいいます。)への移行期限は、厚生労働大臣の認定の日から起算して3年を超えない範囲内のものであることが認定の要件となっています。

医療法人持分納税猶予税額が免除される場合

認定医療法人の認定移行計画に記載された移行期限までに、次の①又は②に掲げる場合に該当することとなったとき(一定の場合を除きます。)には、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれに掲げる金額に相当する贈与税は、届出書を提出することにより、免除されます。

①認定医療法人の持分の全てを放棄※1した場合
→届出により医療法人持分納税猶予税額(全額)。

②認定医療法人が基金拠出型医療法人への移行をする場合において、持分の一部を放棄※1し、その残余の部分をその基金拠出型医療法人の基金として拠出※2したとき
→医療法人持分納税猶予税額から基金として拠出した額に対応する部分の金額を控除した残額。

※1
厚生労働大臣が定める「出資持分の放棄申出書」(医療法施行規則附則様式7)を認定医療法人に提出することにより放棄する必要があります。
※2
基金として拠出した額に対応する部分の医療法人持分納税猶予税額と利子税は免除されません。

特例の適用が受けられない場合

贈与者による認定医療法人の持分の放棄があった日から贈与税の申告期限までの間に、次の①から③までのいずれかに該当する場合には、この特例の適用を受けることはできません。

  1. 認定医療法人の持分に基づき出資額に応じた払戻しを受けた場合
  2. 認定医療法人の持分の譲渡をした場合
  3. 認定医療法人の持分の全部又は一部を放棄し、「医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の税額控除の特例」の適用を受ける場合

特例を受けるための要件

贈与者の要件

認定医療法人(贈与者による持分の放棄があった日において、認定医療法人である医療法人に限ります。)の持分を有していた人であること。

受贈者の要件

認定医療法人の持分を有していた人(贈与者による認定医療法人の持分の放棄により受けた経済的利益について贈与税が課される人に限ります。)であること。

特例の対象となる経済的利益の要件

贈与者による認定医療法人の持分の放棄により受けた経済的利益で、贈与税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載したものであること。

申告の手続

この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告書に、次の表に掲げる書類を添付して、その申告書を贈与税の申告書の提出期限内に提出するとともに、医療法人持分納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保(この特例の適用に係る認定医療法人の持分でなくても差し支えありません。)を提供する必要があります。

医療法人持分納税猶予税額を納付しなければならない場合

納税猶予を受けている贈与税額は、次に掲げる場合に該当することとなったときは、その贈与税額の全部又は一部を納付しなければなりません。

医療法人持分納税猶予税額の全部確定

医療法人持分納税猶予税額の一部確定

納付義務の承継

認定医療法人の認定移行計画に記載された移行期限までに、この特例の適用を受ける受贈者が死亡した場合には、その受贈者に係る医療法人持分納税猶予税額の納付義務は、その受贈者の相続人が承継することになります。
(死亡した受贈者に係る医療法人持分納税猶予税額は、免除されません。)

医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の税額控除の特例

概要

認定医療法人の持分を有する人(贈与者)がその持分の全部又は一部の放棄をしたことにより、その認定医療法人の持分を有する他の人(受贈者)に贈与税が課される場合その受贈者がその放棄の時からその放棄による経済的利益に係る贈与税の申告期限までの間に、認定医療法人の持分の全部又は一部を放棄((注)※1参照)したとき、

その受贈者の贈与税額から放棄相当贈与税額を控除します(贈与税額から控除する放棄相当贈与税額を「医療法人持分税額控除額」といいます。)。

なお、贈与者による認定医療法人の持分の放棄があった日から贈与税の申告期限までの間に、次の1又は2のいずれかに該当する場合には、この特例の適用を受けることはできません。

  1. 認定医療法人の持分に基づき出資額に応じた払戻しを受けた場合
  2. 認定医療法人の持分の譲渡をした場合

医療法人持分税額控除額

贈与者による認定医療法人の持分の放棄により受けた経済的利益の価額を受贈者に係る贈与税の課税価格とみなして計算した金額のうち、その受贈者による認定医療法人の持分の放棄がされた部分に相当するものとして、次の①又は②に掲げる場合の区分に応じ、それぞれに掲げる金額をいいます。

①認定医療法人の持分の全てを放棄※1した場合
→医療法人持分納税猶予税額に相当する金額

②認定医療法人が基金拠出型医療法人への移行をする場合において、持分の一部を放棄※1し、その残余の部分をその基金拠出型医療法人の基金として拠出※2したとき
→医療法人持分納税猶予税額に相当する金額から基金として拠出した額に対応する部分の金額を控除した残額

※1
厚生労働大臣が定める「出資持分の放棄申出書」(医療法施行規則附則様式7)を認定医療法人に提出することにより放棄をしなければなりません。
※2
基金として拠出した額に対応する部分の贈与税額は税額控除の対象となりません

特例を受けるための要件

《贈与者の要件》

認定医療法人(贈与者による持分の放棄があった日において、認定医療法人である医療法人に限ります。以下同じです。)の持分を有していた人であること。

《受贈者の要件》

認定医療法人の持分を有していた人(贈与者による認定医療法人の持分の放棄により受けた経済的利益について贈与税が課される人に限ります。)で、贈与者による認定医療法人の持分の放棄があった日から贈与税の申告期限までの間に、認定医療法人の持分の全部又は一部を放棄した人であること。

《特例の対象となる経済的利益の要件》

贈与者による認定医療法人の持分の放棄により受けた経済的利益で、贈与税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載したものであること。

《申告の手続》

この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告書に次に掲げる書類を添付して、その申告書を贈与税の申告書の提出期限内に提出する必要があります。

  1. 認定医療法人の定款の写し(厚生労働大臣の認定を受けたことを証する書類)
  2. 認定医療法人の認定移行計画の写し
  3. 贈与者による認定医療法人の持分の放棄の直前及びその放棄の時における認定医療法人の出資者名簿の写し
  4. 贈与者による認定医療法人の持分の放棄があった日から贈与税の申告書の提出期限までの間において、当該認定医療法人の持分に基づく出資額の払い戻しを受けていないこと及び持分の譲渡をしていないことを記載した書類
  5. 受贈者が認定医療法人の持分の放棄をする際に認定医療法人に提出した厚生労働大臣が定める「出資持分の放棄申出書」(認定医療法人が受理した年月日の記載があるものに限ります。)の写し
  6. 受贈者による認定医療法人の持分の放棄の直前及びその放棄の時における認定医療法人の出資者名簿の写し
  7. 基金拠出型医療法人の定款(認定医療法人から基金拠出型医療法人への移行のための医療法第54条の9第3項の規定による都道府県知事の認可を受けたものに限ります。)の写し(認定医療法人が基金拠出型医療法人への移行をする場合において、持分の一部を放棄し、その残余の部分を基金として拠出したときに限り、提出の必要があります。)

病医院の継承は、事前の準備が重要です。お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。

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