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病医院の労働問題の特徴
病医院の労働問題には次のような特徴があります。
売り手市場
看護師等の専門職は、転職が容易なため、現在の職場に不満があれば辞職を躊躇しません。
その結果、使用者側への待遇に関する要求(給料、労働時間、残業、福利厚生等)は増大する傾向にあります。
求人に困って派遣会社等を使用することもありますが、紹介手数料がかかるわりに良い人材を紹介してもらえないといった問題が起こっています。
短期間の離職
新卒等のスタッフの場合、理想と現実のギャップから比較的短期間に離職することが少なくありません。
特に介護施設では厳しい職場環境に耐えられずに短期間に離職するスタッフが後を絶ちません。
2019年4月、外国人介護士受け入れ制度の4つ目となる「特定技能」がスタートしましたが、根本的な問題解決にはつながっていません。
問題の多い労働環境
使用者である病医院の労働問題に関する意識が低いため、残業代不払い等の労働問題が潜在的に多数発生しています。
- 制服に着替えてから出勤のタイムカードを打刻させる
- 就業時間前に申し送りをさせる
- 就業時間前に当番制で院内の清掃をさせる
こうした指導を行っている病医院は少なくありません。
こうした病医院では看護師等が退職した後に相当な額の残業代が請求されたりします。
管理職不足
現場志向のスタッフが多いため、管理職を養成することが困難です。
しかし、中規模程度以上の診療施設では専門職の中から管理職を養成する必要がありますが、他の専門職の管理を嫌がるなど管理職になることを避ける専門職が少なくありません。
また、管理職になっても管理能力が伴わない管理職もいます。
まとめ
病医院の労働問題には、紹介したような特徴があります。
したがって、病医院にはスタッフの待遇改善や福利厚生の充実、後の未払残業代請求リスクを回避するための勤怠管理の徹底、中長期的な人材養成プログラムの実施といったことが求められます。
スタッフ採用時の労働問題
採用面接時の質問
結婚・出産に関する予定
結婚退職や出産により看護師やスタッフに穴が開くと困る……。
そうしたことから、看護師等の採用面接の時に結婚や出産の予定を聞く病医院もあると思われます。
募集業務に関する応募者の適性を判断するための質問は許される一方、結婚・出産予定に関する質問は原則として許されません。
雇用機会均等法第5条
「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」
法第5条により原則禁止されるもの(平成18年厚労省告示第614号)
「採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問をすること」
うつ病等の精神疾患の罹患歴
応募者の適正を判断するために必要な質問であるといえますが、罹患歴は他人に最も知られたくない事項の一つでもあります。
直近1~2年に限って罹患歴を質問することは許されると考えられます。
期間を限定することで、現在の業務の適格性を判断するために必要最低限の情報を収集することができると考えられるためです。
その他の質問や情報収集を避けるべき事項
厚生労働省「公正な採用選考の基本」によれば、次のような質問や情報収集は避けるべきとされています。
本人に責任のない事項
- 本籍・出生地に関すること
- 家族に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産等)
- 住宅状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近郊の施設等)
- 生活環境に関すること(生い立ちなど)
本来自由であるべき事項
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観・生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 労働組合・学生運動など社会運動に関すること
- 購買新聞・雑誌・愛読書に関すること
採用内定の取消し
内定の取消しは合理的な理由がある場合にのみ認められます。
採用内定によって、病医院と内定者間に、就労の始期付解約権が留保された労働契約が成立してるため、病医院による自由な内定取消はできません。
解約権が行使できる(内定を取消すことができる)場合とは
- 就労開始日に学校等を卒業できずに就労ができない
- 就労開始日までの病気やけがにより正常な勤務ができない
- 履歴書に職務能力や適性に関する虚偽の記載がある
- その他、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」(最判昭和54年7月20日 大日本印刷事件)
とされています。
試用期間中の賃金
試用期間中の賃金を本採用後より低くすることができるのかという問題です。
常時10人以上の労働者を使用する雇用主は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届出をしなければなりません(労働基準法89条)。
また、厚生労働省の指針では、「従業員が10人未満であっても就業規則を作成することが望まれる」とされています。
そこで、就業規則が作成されている病医院では、スタッフの労働条件は就業規則に拠ることになります。
試用期間中の賃金についても、就業規則の規定を下回らない範囲で労働条件を低く設定することができます。
もっとも、トラブル防止のために、求人票等には、試用期間中の労働条件が、本採用後よりも低くなることを明示しておく必要があります。
試用期間の延長
スタッフを採用する際に設けられることが多いのが試用期間です。
試用期間で採用予定のスタッフの仕事への適性や職場への順応の可否を判断することになります。
試用期間は1~3か月程度設けられることがありますが、試用期間が終わりに近づいてもスタッフの適性等が判断できないことがあります。
そうした場合、試用期間の延長ができるのかといった問題が生じますが、就業規則の規定がある場合にのみ延長できることになります。
具体的には、就業規則に、
- 試用期間を延長することができる旨
- 延長する場合の理由
- 延長する期間の上限
等の規定があれば試用期間を延長することができると考えられます。
他方、就業規則に規定がない場合は、スタッフと個別に合意を結んでも延長はできないと考えらます。
労働契約法12条
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。」
試用期間であることを理由とする本採用の拒否
試用期間であることだけを理由に採用予定のスタッフの本採用を拒否することができるのかについては、試用期間であることだけを理由に無条件に本採用を拒否することはできません。
本採用を拒否するためには合理的な理由が必要と言われています。
試用期間中の試用契約とは、期間中の勤務状況等により適性を判断し、適性がないとされる場合に本採用を拒否できるという解約権が留保されている労働契約です。
この解約権の行使には、「客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当」と認められる必要があるとされています。
(最大判昭和48年12月12日 三菱樹脂事件)
この解約権の行使については、内定の取消より厳格な一方、正社員の解雇よりも緩やかな基準で判断されます。
スタッフに仕事上のミスが多いことを理由に本採用を拒否する場合は、ミスの内容及びミスの頻度、指導・注意後の改善の程度などから解約権行使の是非が判断されます。
後々トラブルにならないためには、スタッフのミスの内容や、スタッフに対してどのような指導を行ったのかを記録として残しておく必要があります。
スタッフ採用時の労働条件の明示
病医院でスタッフを採用する際には労働条件を明示する必要があります。
このうち絶対的明示事項については、採用時に明示する必要があり、かつスタッフに対して、当該労働条件を明示した書面を交付する必要があります。
また、スタッフとの間で契約の内容とすることに合意した事項がある場合は、当該事項についても明示する必要があります(相対的明示事項)。
絶対的明示事項
- 労働契約の期間・就業場所、従事すべき業務
- 始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払方法、賃金の締切及び支払時期、昇給
- 退職(解雇事由を含む)、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払方法、退職手当の支払時期
1~4については、労働者に対して書面の交付が必要です(労基法施行規則第5条)。
相対的明示事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等
- 労働者に負担させる食費、作業用品に関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練
- 災害補償、業務外の疾病扶助
- 表彰・制裁
- 休職
パートタイムのスタッフを採用する場合の労働条件
パートタイムのスタッフを採用する場合は、上記1~11に加えて次の事項を文書の交付等により明示する必要があります。
(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条)
- 賃金の昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与等の有無
- 相談窓口
スタッフが勤務を開始した後、労働条件を巡ってトラブルになることが少なくありません。
そうしたトラブルを避けるためにも労働条件を明示し、記録を残しておく必要があります。
労働時間・賃金・労働条件
労働時間
始業前の朝礼や、訪問看護の移動時間等が労働時間に該当するのかについては、
当該時間が労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間といえる場合、労働時間に該当することになります。
始業前の朝礼
始業前の朝礼が、業務上の命令により朝礼への参加が強制されているか、参加は強制されていないが、申送り等があり朝礼への参加が業務上必要である場合は、労働時間に該当することになります。
訪問看護における移動時間
スタッフが患者宅に直行する時間、患者宅から直帰する時間は通勤時間にあたり、労働時間に該当しないと考えられます。
他方、患者宅から患者宅への移動時間については、次の患者宅における業務を提供するために必要な時間であり、労働時間に該当する可能性が高いと思われます。
外部研修への参加
研修へのスタッフの参加が義務付けられている場合は、労働時間に該当します。
他方で、外部研修参加のための移動時間については、移動時間をどのように過ごすのかは従業員の自由であるため、原則として労働時間に該当しません。
「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」(昭和23.3.17基発461号)とされています。
労働時間の管理
病医院(使用者)による労働時間管理の原則
使用者である病医院には、スタッフの労働時間を適切に管理する義務があります。
スタッフの労働時間管理における原則的な方法には、
- 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する方法
- タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する方法
などがあります。
(平成13.4.6基発339号)
スタッフに労働時間を自己申告させる場合の注意点
自己申告制を導入する前に、病医院は、その対象となるスタッフに対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行う必要があります。
病医院は、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施する必要があります。
また、病医院は、スタッフの労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないことも必要です。
さらに、時間外労働時間の削減のための院内の通達や、時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、スタッフの労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずることも必要です。
スタッフの残業
病医院がスタッフに残業を命じるためには、「事業所の労働者の過半数で組織する労働組合」、もしくは「労働者の過半数を代表する者」と36(さぶろく)協定を書面で締結し、当該書面を労基署に届け出る手続きが必要となります。
36協定とは、残業や休日出勤に関する労働基準法36条が規定する労使協定です。
具体的には、
- 時間外労働・休日労働が必要とされる具体的理由
- 業務の種類
- 労働者の数
- 延長する時間・休日
を規定し、有効期間を定める必要があります(労働基準法施行規則第16条)。
36協定の締結をせずにスタッフに残業を強制した場合、労働基準法違反として罰金等の罰則が科せられるおそれがあります。
管理職への残業代支払の要否
事務長や看護師長といった管理職への残業代の支払の要否は、役職名で決まるわけではありません。
「~長」といった役職名が付いていても、管理監督者に該当しなければ残業代の支払は必要となります。
「管理監督者」(労働基準法第41条第2号)の要件(昭和63.3.14基発150号)
1.経営者と一体的な立場で仕事をしていること
(事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること)
具体的には、
- 業務内容が統括的なものか一般スタッフと大差がないものか
- 部下の人事権(採用、異動、解雇)をどの程度有しているか
- 重要な会議等への出席の有無
2.出社時間や勤務時間などについて、厳格な制限を受けていないこと
(労働時間について裁量権を有していること)
具体的には、
- 通常の就業時間に拘束されているか
- 欠勤等にあたり上司に届出や報告が必要か
3.その地位にふさわしい待遇がなされていること
(一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること)
具体的には、
- 管理職手当等が支給され、待遇において、時間外手当が支給されていないことを十分に補われているか
以上のような要件を満たす管理監督者以外については、「~長」といた名前が付いていても残業代の支払が必要となります。
有給休暇
労働基準法39条1項は、「使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。」と規定しています。
他方で、業務が忙しい時期にスタッフから有給申請がなされると病医院の業務に支障が出ます。
そこで、その有給取得によって病医院の業務の正常な運営が妨げられる場合は、病医院(使用者)にはスタッフからの有給の申請を拒否する権利(時季(じき)変更権といいます)が認められます。
この時季変更権が認められるかどうかは、業務の内容、規模、看護師・スタッフの担当業務、事業活動の繁閑、予定された年休日数、他の社員の休暇との調整等様々な要因を考慮して判断されます。
ハラスメント
セクハラの類型
対価型セクハラ
職場において行われる「性的な言動」に対するスタッフの対応により当該スタッフがその労働条件につき不利益を受けるものを「対価型セクハラ」といいます。
〇院長が看護師に性的関係を要求し、これを拒否した看護師を解雇する。
環境型セクハラ
当該「性的な言動」により労働者の就業環境が害されるものを「環境型セクハラ」といいます。
〇病医院内で過去の恋愛経験を執拗に質問することで、質問を受けたスタッフの就労環境が悪化する。
「性的な言動」とは、「性的な内容の発言」及び「性的な行動」のことです。
「性的な内容の発言」とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を 意図的に流布すること等を指します。
「性的な行動」とは、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等を指します。
セクハラを防止するために病医院に求められる措置
セクハラを防止するために、病医院(使用者)には次のような一連の措置をとるべきとされています(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)。
1事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 職場におけるセクハラの内容及び職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者 を含む労働者に周知・啓発すること
- 職場におけるセクハラに係る性的な言動を行った者に ついては、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職 場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者 に周知・啓発すること
2相談(苦情)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談への対応のための窓口をあらかじめ 定めること
- 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対 応できるようにすること、また広く対応すること
3職場におけるセクハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 職場におけるセクハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正 に行うこと
- 職場におけるセクハラが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと
- セクハラが確認できなかった場合も含め、改めて職場におけるセクハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
4上記1から3までの措置とあわせて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨をスタッフに対して周知すること
- スタッフが職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、スタッフに周知・啓発すること
小規模なクリニックで院長がセクハラを行うと、セクハラを是正する者がいないため、被害を受けたスタッフがいきなり外部の弁護士等に相談をして問題が大きくなる傾向にあります。
したがって小規模なクリニックでは特にセクハラに注意が必要です。
パワハラの類型
「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」によると、パワハラの類型は次のとおりです。
身体的攻撃
〇暴行・傷害
精神的攻撃
〇脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
人間関係からの切り離し
〇隔離・仲間外し・無視
過大な要求
〇明らかに不当な業務や、実行不可能な業務の強要
過小な要求
〇能力・経験とかけ離れた程度の低い業務命令を行うこと
〇仕事を与えないこと
個の侵害
〇私的なことに過度に立ち入ること
パワハラを防止するために病医院に求められる対応
パワハラを防止するために病医院(使用者)には次のような対応が求められます。
トップがメッセージを発する
〇組織のトップが、職場のパワハラは職場からなくすべきであることを明確に示します。
ルールを決める
〇就業規則に関係規定を設ける、労使協定を締結するなどしてパワハラに関するルールを策定します。
〇予防・解決についての方針やガイドラインを作成します。
実態を把握する
スタッフにアンケートを実施するなどしてパワハラの実態を把握します。
教育や研修を実施する
スタッフに対してパワハラに関する教育や研修を実施します。
スタッフに周知する
病医院の方針や取組みについてスタッフに周知・啓発を実施します。
問題スタッフへの対応
ダラダラ残業をするスタッフへの対応
スタッフが要もないのに院内に残り、ダラダラと残業をすることがあります。
ダラダラ残業であることを理由に当該スタッフへの残業代を不払にできるのか、問題となりますが、スタッフが時間外労働をしている以上残業代を不払とすることは困難であると思われます。
したがって、スタッフのダラダラ残業については、適正な労務管理と、残業の許可制・事前申告制の導入によって対応することになります。
適正な労務管理
業務時間内の私的メール、私用による離席等がみられる場合は、指導・注意を行います。
残業の事前申告制・許可制の採用
原則、残業禁止としたうえで、残業が必要な場合、スタッフから事前に理由を付記した事前申請書を提出させるようにします。
また、 残業を許可制として、同様の残業許可申請書を提出させるようにします。
協調性のないスタッフへの対応
協調性がないスタッフがいると、他のスタッフとの軋轢が生まれる等、院内全体の業務効率が低下するなどの問題が生じます。
協調性のないスタッフについては、まず事実確認を行い、その上でスタッフに対して注意・指導を行い、それでも改善されない場合は解雇を検討します。
なお、協調性がないという理由だけではスタッフをいきなり解雇することはできません。
事実確認
問題スタッフ、その他スタッフから事情を聴取するなどして問題スタッフの何が問題なのかを把握します。
聴取する対象はあくまで業務に関連するものです。
改善策の検討
問題スタッフを交えて業務をスムーズに行うにはどうすればよいのか、改善策を検討します。
注意・指導
改善されない場合、スタッフに注意・指導を行います。
スタッフに行った注意や指導の内容は必ず記録化しておきます。
懲戒処分、普通解雇の検討
問題スタッフの行動で院内の秩序が阻害されていると判断できる場合は、順次、懲戒処分を行います。
さらに、就業規則の解雇事由「職務遂行能力が著しく劣る」に該当すると判断できる場合は、普通解雇を検討します。
遅刻・早退・欠勤が多いスタッフへの対応
特定のスタッフに遅刻・早退・欠勤が多いと、他のスタッフにそのしわ寄せがいき、業務にも支障が生じます。
問題を放置すると他のスタッフが不公平感を持つなど、さらに業務に支障が生じることになります。
事実確認
体調不良を理由とする場合は必要に応じて診断書を提出させるようにします。
また、葬儀等を理由とする場合は会葬礼状等を確認します。
注意・指導
正当な理由なく遅刻等を行うスタッフには注意・指導を行います。
注意・指導は、まず口頭で行い、改善されない場合は書面で行い記録を残します。
成績評価
遅刻等を踏まえた勤務成績の評価を行います。
懲戒処分、普通解雇の検討
問題スタッフの行動で院内の秩序が阻害されていると判断できる場合は、順次、懲戒処分を行います。
さらに、就業規則の解雇事由「職務遂行能力が著しく劣る」に該当すると判断できる場合は、普通解雇を検討します。
通勤手当を過剰請求するスタッフへの対応
スタッフからの通勤手当の過剰請求については、その原因がスタッフの過失によるものなのか、故意によるものなのかで対応が変わります。
過失や諸手続きを怠った結果、過剰請求となった場合
口頭で注意の上、スタッフから過払金額を返還させるようにします。
故意に過剰請求をしていたことが判明した場合
不正の期間・金額を考慮し、悪質な場合は過払金額を返金させた上で懲戒処分を検討するようにします。
過剰(不正)請求を防止するためには次のような対策が有効です。
通勤手当等の支給基準の作成
「通勤経路中、クリニックが認める最も安価な経路」といった支給基準を予め作成しておきます。
定期券等の現物の確認
予めスタッフに告知した上で、使用済み定期券等の現物を確認するようにします。
メールの私的利用が疑われるスタッフへの対応
スタッフが院内のパソコンを私的なメール等に利用することにより、パソコンがウイルスに汚染されたり、患者の個人情報が流失したりする危険が生じます。
そこで、スタッフがパソコンを私的に使用しているおそれがある場合は、次のような内容を盛り込んだ規定を整備の上でモニタリングを行います。
- モニタリング対象となる機器等の私的利用(私用メール等)に関するルール(私的利用の許容範囲等)
- モニタリングを実施する権限と責任の所在(権限・責任が帰属する職制・部署等)
- モニタリングを実施する目的(収集情報の利用目的)
- モニタリングの具体的実施方法(調査の対象となる媒体等及び調査の手法、事前予告の有無等の調査実施手続き)
(平成23年4月経済産業省 情報セキュリティ関連法令の要求事項集92頁以下)
上記規定整備の他、スタッフには予めモニタリングをすることを周知し、事前に書面による確認書(承諾書)を徴取するなども検討するようにします。
貸与品を返還しない・私物を持ち帰らないスタッフへの対応
スタッフが退職する際、病医院からの貸与品を返還しない、病医院に私物を放置する、といった問題が生じることがあります。
貸与品を返還しない
退職が決まった段階で、速やかに貸与品の返還を受けておく
退職金支給規定がある場合、貸与品未返還の場合はその一部不支給とすることを就業規則に規定しておく
口頭での返還要求に応じない場合、期日までに返還しなければ訴訟を提起する旨の書面(内容証明郵便等)を送付する
私物を持ち帰らない
放置した私物については所有権を放棄し、病医院において処分しても異議を申し立てない旨の確認書をあらかじめ徴収しておく
上記確認書に従い私物を処分する場合は、書面等で期日までに引き取りに来ない場合は処分する旨を通知しておく
スタッフが病医院に損害を与えた場合の身元引受人への請求
スタッフが病医院に損害を与えた場合の身元引受人への請求については、身元保証法によって身元保証人の責任が制限されることがあります。
身元保証期間
身元保証法によって、期間の定めがあれば5年まで、なければ3年となります(1条、2条)。
保証期間後の自動更新条項は無効で、保証を継続する場合は期間満了の都度、改めて身元保証契約を締結する必要があります。
身元保証人への通知義務
病医院(使用者)がスタッフを不適任・不誠実と考えた場合、スタッフの仕事が大きく変更した場合については、身元保証人に通知する必要があります(3条)。
通知を受けた身元保証人は、将来に向かって身元保証契約を解除できます。
身元保証人への損害賠償請求の制限
①使用者側の過失、②保証に至った経緯、③その他一切の事情を考慮し、裁判所は身元保証人の責任範囲を制限することができるとされています(5条)。
スタッフの退職・解雇
スタッフの解雇が禁止される場合
次のような場合は法律上スタッフの解雇が禁止されます。
労働基準法第19条
業務上の負傷疾病による休業期間及びその後30日間の解雇禁止
産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇禁止
(但し、業務上負傷疾病において打切補償を支払った場合、天災事変その他やむを得ない事由により事業継続が不可能となった場合を除く)
労働基準法第3条
スタッフの国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇禁止
労働基準法第104条第2項等
監督官庁等に対する申告・申出を理由とする解雇禁止
雇用均等法第6条第4号
性別を理由とする解雇禁止
雇用均等法第9条第2項、同第3項等
女性の婚姻、妊娠、出産等を理由とする解雇禁止
育児介護法第10条、同16条
育児(介護)休業の申出、育児(介護)休業をしたことによる解雇禁止
公益通報者保護法第3条
公益通報をしたことを理由とする解雇禁止
パートタイム労働法8条
通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者(短時間労働者)について、パートタイム労働者であることを理由とする解雇禁止
有期雇用のスタッフの雇止め
雇止め時の注意点
次のような有期労働契約において、契約を更新しない場合は、少なくとも30日以上前に予告をする必要があります。
- 3回以上更新している場合
- 1年を超えて継続勤務している労働者の契約の場合
雇い止め予告後、労働者が雇い止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく証明書を交付する必要があります。
また、期間の定めのある契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している労働者との契約を更新する場合、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするように努めなければならないとされています。
(平成15年厚労省告示357号)
雇止めができなくなる場合
次のような事情が認められると雇止め自体ができなくなります。
- 有期労働契約が反復して更新され、その雇止めが期間の定めのない契約の解雇と社会通念上同視できる場合
- 労働者が有期労働契約の期間満了時に当該労働契約が更新されるものと期待することに合理的理由がある場合
こうした事情が認められる有期契約の場合、①有期労働契約のスタッフが、契約期間中に更新の申し込みをする、又は、契約期間満了後遅滞なく有期労働契約の申し込みをする、②使用者が雇止めをすることが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、従来と同一の条件で有期労働契約が更新されることになります(労働契約法19条)。
有期雇用のスタッフの期間途中での解雇
有期雇用のスタッフを、雇用期間中に解雇することは、当該スタッフの同意がある場合を除いて非常に困難です。
雇用期間の定めのないスタッフ(正社員)の解雇については、「客観的合理的理由」と「社会通念上相当」であることが必要とされています(労働契約法第16条)。
他方、有期雇用のスタッフの解雇については、「やむを得ない事由」が必要とされています(同法17条)。
したがって、有期雇用のスタッフを期間途中で解雇するには、正社員の解雇で求められる以上の「やむを得ない事由」が必要となります。
スタッフへの退職勧奨
問題のあるスタッフに辞めてもらうために退職勧奨を行う場合があります。
病医院(使用者)がスタッフに退職勧奨を実施すること自体、問題はありませんが、対象者の選定、退職勧奨した回数・時間・言動等において社会通念上相当性を欠くことがないように注意をする必要があります。
対象者の選定
出産を控えたスタッフにだけ退職勧奨を実施するなど、差別的な意図があると違法となります。
退職勧奨した回数・時間
多人数で長時間にわたり何度も退職勧奨を行った結果、労働者が退職の意思表示をした場合などは、後に退職の効力が争いとなった場合、スタッフ者の真意に基づかない退職の意思表示と判断される可能性があります。
退職勧奨時の使用者の言動等
スタッフの人格を貶める言動、威圧的な言動はNGです。
スタッフの普通解雇
スタッフを普通解雇するためには、就業規則に規定する①客観的合理的理由があり、②相当性があることが必要です。
就業規則における客観的合理的理由の記載例には次のようなものがあります。
精神・身体の故障
精神又は身体の故障により業務の遂行に堪えないと認められたとき
勤務成績不良
勤務成績または業務能率が著しく不良で、改善の見込みがなく就業に適さないと認められたとき
業務に怠慢で構造の見込みがないと認められたとき
打切補償
打切補償を行ったとき
業務上の災害により療養開始後3年を経過した日において傷病補償年金の給付を受けているとき、又は同日後において受け取ることとなったとき
業務上の必要性
事業の縮小、廃止その他、クリニックの経営上やむを得ない事由のあるとき
試用期間中の不適格
試用期間中の者で、従業員として不適格と認められるとき
包括的解雇条項
その他、前各号に準ずるやむを得ない事由が生じたとき
病医院ではスタッフの普通解雇を実施するまでに、次のような準備をしておく必要があります。
- 一定期間当該スタッフに注意(指導)を行う
- 上記注意(指導)を行った証拠を残す
- 実現可能な改善目標を具体的に設定する(可能であれば目標を数値化する)
- 改善目標を設定する際に当該スタッフの意見を聴取する
- (可能であれば)業務・配置の転換を検討する
- 退職勧奨を行う
経験者として採用したスタッフを能力不足で解雇する場合
経験者として採用したスタッフについて能力不足を理由に解雇する場合、解雇の有効性が争われると①労働者の改善可能性、②労働者の地位・業務特定の有無、③使用者の行った改善・配転措置、が考慮されることになります。
スタッフの改善可能性
必要な指導・教育により改善の余地があるといえるのか。
スタッフの地位・業務特定の有無
中途採用等で一定の能力を有することを前提に採用された場合は、解雇の客観的合理性・社会通念上の相当性が認められやすいといえます。
病医院(使用者)が行った改善・配転措置
病医院が行った改善等の措置が問題となりえますが、高度の専門職である医師の場合は、改善措置・配転措置は重視されない傾向にあります。
指導医から特段の注意・指導を受けていない研修医の解雇が有効とされた事例
「(研修医=原告は)既に免許を取得した医師として医療行為に従事しており、高度の診察能力を備えた「認定内科医」等の資格の取得を目的として臨床研修を受けていた。原告は、自己研さんにつとめ、自分自身で行動を規律すべきであり、医学的知識や技能とは直接関係しない日々のコミュニケーション等の問題について指導医等からの注意・指導があったか否かは、本件解雇の効力を左右するものとは認められない」
(東京地判平成15年11月10日労判870-72 自警会東京警察病院事件)
スタッフの懲戒解雇
スタッフを懲戒解雇するためには、次のような要件を満たす必要があります。
〇就業規則に懲戒事由及び種別・程度が明記されており、これがスタッフに周知されていること(最判平成15年10月10日 フジ興産事件)
〇スタッフの行為が懲戒解雇事由に該当すること
〇客観的合理的な理由、社会通念上の相当性があること(労働契約法15条、16条)
〇問題行為の種類・程度、その他の事情に応じて、処分が相当であること(比例原則)
〇先例と比較して処分が平等であること(平等原則)
〇当該スタッフに弁明の機会をえること(適正手続)
懲戒解雇事由には次のようなものがあります。
経歴詐称
学歴、職歴、犯罪歴、年齢、病歴等の詐称
職務怠慢
勤務成績不良、遅刻・欠勤過多、無断欠勤等
業務命令違反
個々の業務命令に従わない
職場規律違反
上司・同僚への暴言、セクハラ、パワハラ等
私生活における非行
違法薬物使用、窃盗(万引き)、痴漢行為、飲酒運転等
日々の診療や医師会の会合など、医師としての仕事だけでも多忙でありながら、病医院の労働問題についてご自身で適切に対応することはなかなか難しいものです。
もしお悩みがありましたら、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。
あなたの強い味方となって
お悩みの問題の解決にあたります。