開業医・医療法人の法律問題

診療に関する法律問題について、オールワン法律会計事務所が説明します。

医療法人のさまざまな法律問題についての
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医師の応招義務

契約締結の自由の例外としての応招義務

契約締結の自由

民法521条1項は、「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。」として、契約締結の自由を規定してます。
したがって我々は第三者と契約をするかどうかを決めることができます。

応招義務

医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」として、民法522条1項の「法令に特別の定めがある場合」を規定しています。
この医師法が定める医師の義務を「応招義務」といいます。
したがって、医師は「正当な事由」がない限り、患者から診療治療を求められた場合、この求めに応じる必要があります。

応招義務に違反した場合

応招義務は公法上の義務とされていますが、医師法には応招義務に反した場合の罰則規定はありません。
しかし、医師法7条1項は、「医師としての品位を損するような行為のあつたとき」に、厚生労働大臣は「戒告」、「3年以内の医業の停止」、「免許の取消し」といった処分ができると規定しています。
したがって、応招義務に度々違反した場合などは、この「医師としての品位を損するような行為のあったとき」に該当するとして、上記行政処分の対象となりえるといわれています。

医師法19条1項の「正当な事由」

「正当な事由」の内容については次のように解されています。

厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)

厚生省医務局医務課長回答(昭和30年8月12日医収第755号)

「正当な事由がある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する」

昭和49年4月16日医発第412号

「休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法19条の規定に反しないものと解される。」
「ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応じる義務がある。」

厚生労働省医政局医事課長通知(平成30年4月27日医政医発0427第2号)

「正当な事由とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、入院による加療が必要であるにもかかわらず、入院に際し、身元保証人等がいないことのみを理由に、医師が患者の入院を拒否することは医師法第19条第1項に抵触する。」

「正当な事由」の具体的検討

医師の病気

厚生省医務局医務課長回答(昭和30年8月12日医収第755号)によれば、医師の病気は「正当な事由」となります。
しかし上記回答では、「単に軽度の疲労の程度」では「正当な事由」に該当しないとされているため、診療ができない程度の病気であることが必要と思われます。

専門外の診療科目

厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)によれば、医師が自己の標榜する診療科目以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合、説明をしてもなお患者が診療を求めると、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならないとされています。
脳外科医である病院の当直医が、心筋障害による急性冠不全症状のある患者の診療を拒否したことが問題となった裁判で、①当日の病院の当直医は脳外科医だけで、診療を求められたときには別の重症者の治療に追われていたこと、②当該患者は搬送依頼された際に別の内科医の診療を受けており、脳外科医は内科医以上の適切な措置をとることは困難で、他の専門医の診療を受けたほうが適切であると判断したこと等を理由として、当該治療拒否は応招義務に反しないと判断されました。
(名古屋地裁昭和58年8月19日判タ519-230)

病室の満床

医療法施行規則10条は、「病院、診療所又は助産所の管理者は、患者、妊婦、産婦又はじよく婦を入院させ、又は入所させるに当たり、次の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。」として、その1号で「病室又は妊婦、産婦若しくはじよく婦を入所させる室には定員を超えて患者、妊婦、産婦又はじよく婦を入院させ、又は入所させないこと。」と規定しています。
もっとも、同条本文但書は、「臨時応急のため入院させ、又は入所させるときは、この限りでない。」と規定されています。
したがって、満床は直ちに「正当な事由」とはなりません。
他方で、患者の症状が安定しており「臨時応急のための入院」といった事情がなければ「正当の事由」があると考えられます。

患者の医業報酬の不払

厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)によれば、「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」とされているため、医業報酬の未払いが直ちに「正当の事由」となることはありません。
もっとも上記通知には「直ちに」という文言があるため、病医院が何度も督促をしても患者が医業報酬を支払わず、未払の医業報酬の額が多額にぼるといった事情があれば「正当の事由」にあたりうると考えられます。
この問題については、医療機関の未収金問題に関する検討会で医療者から解釈の見直しといった意見が出されましたが、報告書によれば、厚生労働省から「医療費の不払があっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできないとという見解が示された。」として、従来の見解が維持されています。

その他医師に課せられた義務

診療録の作成・保管義務

医師は、診療をしたときには遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載し、診療録を5年間保存する必要があります(医師法24条)。

処方箋の交付義務

医師は、治療上、薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合は、患者や看護師に対して、処方箋を交付する義務があります(医師法22条柱書本文)。

守秘義務

医師は、正当な理由なくその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏洩してはなららず、かかる義務に反した場合には6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます(刑法134条1項)。

個人情報の保護義務

医療機関は、個人情報に該当する診療録、処方箋、検査写真等について、個人情報の保護に関する法律等に基づいて適切な取扱いをする必要があります(個人情報の保護に関する法律)。

届出義務

医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければなりません(医師法21条)。

虐待に関する通報義務

医師は、虐待を受けたと思われる児童を発見した場合、養護者から虐待を受けたと思われ生命や身体に重大な危険が生じている高齢者を発見した場合には、法令に従い関係各所に通報する義務があります(児童虐待の防止等に関する法律6条1項、高齢者虐待の防止・高齢者の養護者の支援等に関する法律7条)。

診療契約

診療契約の性質

診療契約とは、病医院(医療法人)又は医師と患者の間に成立する診療関係に関する法的な合意のことです。
患者が診療を求め、病医院又は医師がこれを受諾して診療を開始することで診療契約が成立します。

病医院や医師が負う診療債務については、その内容が結果債務なのか、手段債務なのかが問題となります。
結果債務と解すると、治療や手術の成功といった「結果」を出すことが病医院や医師に求められます。
他方、手段債務と解すると、その時点の医学的知見に基づき最善を尽くすことが病医院や医師に求められることになります。

この点について裁判例では、

「医療契約に基づく診療債務については、これを手段債務と解するべきであるから、まず、治療の手段ないしその前提としての診断については、医師として事態に即応した検査ないし問診等を実施して確診のための努力を重ねることが義務付けられており、その検査方法の採否、収集されたデーターによる診断についても、それが、診療時において一般に是認された医学上の原則に準拠したものであり、かつ、症状発現の程度と認識の手段との相関においてそれが合理的と認められる場合、ついで、療法についても、かかる診断に基づき、適応の肯定できるとみられる薬剤等による治療方法を施すことで足り、治癒の結果の招来それ自体は債務の目的をなさず、むしろ、患者の症状に応じた対症療法を講じ、さらには、具体的療法の実施に代え、安静等の処置をとって、症状の拡大を防ぎながら、経過を観察する等した場合であっても、かかる措置が、医学・医療水準上相当と認められる場合には、医師の診療について帰責事由がないと解するのが相当である」
として、手段債務であると判示しています。
(札幌地裁昭和52年4月27日判決)

診療契約に基づく注意義務

医師・医療法人が患者に対して負う診療債務の法的性質は準委任契約と解されています。
そのため、医師・医療法人は、患者に対して、診療契約に基づき善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。

この善管注意義務に反したか否かについては、①当該患者に生じた悪しき結果について予見することができたか(予見可能性と予見義務)、②悪しき結果を回避することができたか(結果回避可能性と結果回避義務)によって判断されます。

具体的には、診療の過誤、手術における手技上の過誤、術後管理における過誤などある場合のほか、必要な検査等を行わなかった不作為によっても善管注意義務違反が認められます。

患者に対して負う法的責任

債務不履行責任

医師・医療法人は、患者に対して、診療契約に基づき、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。

したがって、個々の医療行為において、善管注意義務に反したことにより、患者に損害が発生した場合は、診療契約における債務を履行しなかったとして損害賠償責任が生じることになります(民法415条1項本文)。

債務不履行責任の具体的な内容は次のとおりです。

責任を負う者
患者と診療契約を締結した医師又は医療法人です。
慰謝料
契約当事者である患者に認められますが、患者の近親者には認められません。
遅延損害金の起算点
債務不履行責任を請求した時点が起算点です。
時効
①患者が権利を行使できることを知ってから5年、または患者が権利を行使できる時から10年です(民法166条1項)。

不法行為責任

医療行為に関与した医師は、患者との診療契約の有無にかかわらず、故意または過失によって患者に損害を与えた場合には、患者に対して不法行為責任を負います(民法709条)。

不法行為責任の具体的な内容は次のとおりです。

責任を負う者
医療行為を行った医師の他、当該意思を雇用している医療法人についても使用者としての責任が認められる場合があります(民法715条1項本文)。
慰謝料
契約当事者である患者の他、患者の近親者にも固有の慰謝料が認められる場合があります(民法711条)。
遅延損害金の起算点
不法行為(医療行為)が起算点です。
時効
患者(又は法定代理人)が損害及び加害者を知ってから3年、又は不法行為時から20年です(民法724条)。

人の生命又は身体を害する不法行為については、患者(又は法定代理人)が損害及び加害者を知ってから5年です(民法724条の2)。

インフォームドコンセント

医療法1条の4第1項には、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第1条の2に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。」と規定されています。
そして同条2項には、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と規定されています。

インフォームドコンセントとは、診療に先立ち医師が患者に十分な情報を提供し、患者がその内容を理解した上で診療に同意することを指します。言い換えればインフォームドコンセントは、患者の自己決定権を尊重するためのものです。

医師が診療を行うに際して、その過程で身体への侵襲が伴っても傷害罪等が成立しないのは、インフォームドコンセントにより侵襲を伴う診療に対する患者の同意があるからだと考えられています。

インフォームドコンセントの対象

厚労省の「診療情報の提供等に関する指針」「6診療中の診療情報の提供」によれば、インフォームドコンセントの対象は次のとおりです。

最高裁は、乳がんの手術に際して医師が患者に対して、乳房温存療法の適応可能性のあること、乳房温存療法を実施している医療機関の名前や名称を説明していなかった事件で、

「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される。」

「本件で問題となっている乳がん手術についてみれば,疾患が乳がんであること,その進行程度,乳がんの性質,実施予定の手術内容のほか,もし他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などが説明義務の対象となる。」

とした上で、

「乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を説明しなかった点で,診療契約上の説明義務を尽くしたとはいい難い。」
として医師の説明義務違反を認定しました。

インフォームドコンセントの例外

インフォームドコンセントは、患者の自己決定権の尊重を目的として、医師が患者本人に現在の症状や診断病名等を説明するものです。

しかし、実際の医療現場では様々な理由によってインフォームドコンセントを実施することができない場合があります。

緊急搬送された意識不明の患者

緊急搬送されてきた患者の意識がない場合、患者本人から治療に対する同意を得ることはできません。
もっとも、患者の家族が患者に付き添ってきている場合や、患者の家族に連絡が付く場合は、家族に説明してその同意を得ることで、本人の同意に代えることができると考えられています。

確かに法的には家族には本人に代わる同意を行う権限等はありませんが、医療の現場では家族の同意は「代諾」として、医療現場での慣行として取り扱われています。

家族に連絡がつかない場合は「代諾」を得ることはできません。
この場合、医師が患者本人のために治療を行い、当該治療行為に重大な過失がなければ「緊急事務管理」として医師は損害賠償責任等を負いません。

民法698条(緊急事務管理)
「管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」

患者が未成年者

行為能力の制限を受ける未成年者は、単独で法律行為を行うことができず、法定代理人の同意を得る必要があります(民法5条1項)。
したがって未成年者と治療契約は、親権者等の同意を得て締結することになります。

しかし、インフォームドコンセントについては、法律行為の有効性の問題とは別の見地から考える必要があります。
また、一口に未成年者といっても19歳と乳幼児では判断能力に大きな違いがあります。
この点について、女子は16歳で婚姻ができること(民法730条)、「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」のおいて、15歳以上の者の意思表示を有効なものとして扱うものとされていること等から、15~16歳程度の未成年者であれば、インフォームドコンセントに対して、有効な同意がなしうるのではないかと考えられています。

また、未成年者である患者が上記年齢に達していない場合であっても、治療を受ける小児患者に対して、治療について理解できるよう分かりやすく説明し、その内容について子ども本人の納得を得ることが望ましいといわれています(インフォームドアセント)。
さらに、児童虐待(ネグレクト)が疑われるケースで、親権者等が虐待の痕跡の発見をおそれて治療に同意をしない場合は、児童相談所への通告を検討する必要があります。

診断書等の交付

診断書等の交付義務

医師法19条2項は、「診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会った医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。」と規定しています。

診察、検案又は出産に立ち会った医師については、患者から診断書、検案書、出産証明書又は死産証書(以下、「診断書等」といいます。)の交付請求があれば、「正当な事由」がない限り、これらを交付する義務が課されています。
医師に診断書等の交付義務が課されているのは、診断書等の証明文書は、官公署への届出や、生命保険金請求の際の添付書類として社会的に重要性が高いためです。

どのような場合に、誰に診療記録を開示すればいいのかについては、厚生労働省が策定した「診療情報の提供等に関する指針」が参考になります。

診療情報の提供等に関する指針(抄)

診療記録の開示に関する原則

医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。

診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。

診療記録の開示を求め得る者

診療記録の開示を求め得る者は、原則として患者本人とするが、次に掲げる場合には、患者本人以外の者が患者に代わって開示を求めることができるものとする。

  1. 患者に法定代理人がいる場合には、法定代理人。ただし、満15歳以上の未成年者については、疾病の内容によっては患者本人のみの請求を認めることができる。
  2. 診療契約に関する代理権が付与されている任意後見人
  3. 患者本人から代理権を与えられた親族及びこれに準ずる者
  4. 患者が成人で判断能力に疑義がある場合は、現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者

診療情報の提供を拒み得る場合

医療従事者等は、診療情報の提供が次に掲げる事由に該当する場合には、診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる。

  1. 診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき
  2. 診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき

1に該当することが想定され得る事例
患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

2に該当することが想定され得る事例
症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

個々の事例への適用については個別具体的に慎重に判断することが必要である。

医療従事者等は、診療記録の開示の申立ての全部又は一部を拒む場合には、原則として、申立人に対して文書によりその理由を示さなければならない。
また、苦情処理の体制についても併せて説明しなければならない。

診断書等の入手方法

患者やその親族(患者等)が、医師の医療行為に不信感を有した場合、診断書等の診療記録を入手しようと考えます。
患者等が診断書等を入手するには、①任意での診断書等の開示を請求する、②裁判所の証拠保全手続を利用する、ことが考えられます。
この任意開示手続と証拠保全手続の違いは以下のとおりです。

取得にかかる費用

〇任意開示手続

診断書等のコピー代やCD-Rなどの実費のほか、医療機関の管理者が開示に要する費用として定める金額(比較的低廉)。

〇証拠保全手続

申立費用など裁判所に納付する費用、弁護士費用、保全した証拠の謄写(コピー)費用、診断書等を撮影するカメラマンの日当等(任意開示手続に比べて高額)。

取得にかかる時間

〇任意開示手続

患者等が病医院に出向き診断書等の開示を請求してから数週間から1カ月程度。

〇証拠保全手続

①弁護士との打合せ、②裁判所への証拠保全の申立て、③裁判所と弁護士の面接、④裁判所・カメラマンとの日程調整、⑤裁判所による保全決定、⑥証拠保全手続の実施、⑦収集した記録の謄写、が必要となるため実際に証拠を入手するには数カ月程度必要。

診断書等の毀棄や改ざんのおそれ

〇任意開示手続

毀棄・改ざんのおそれはある。病医院によっては開示を拒否したり制限される可能性あり。
なお、電子カルテを使用している病医院では、手書きのカルテより改ざんの可能性は低い。

〇証拠開示手続

病医院に証拠保全手続を実施する連絡が入るのは実施する1~2時間前のため、毀棄・改ざんのおそれは低い。

開示資料の信ぴょう性・網羅性

〇任意開示手続

病医院が予め診断書等の選別を行う可能性があるため、信ぴょう性・網羅性がどれだけ担保されているかは病医院による。

〇証拠開示手続

診断書等をほぼ網羅的に取得できるため信ぴょう性・網羅性は確保されている。

不開示とした場合の不利益

〇任意開示手続

病医院に対して、個人情報保護法による勧告や罰則の可能性あり。

〇証拠保全手続

病医院が裁判所の検証物の提示命令に従わない場合、訴訟において患者側の主張自体が真実であると認められる可能性あり。

診断書等への虚偽記載

がんの告知を行っていない患者から診断書等の交付を求められた場合については、診断書等を交付すると診療上重大な支障が生じる恐れがある場合に該当しうるため、診断書等を交付しない「正当な事由」があると考えられます。
もっとも、診断書等を交付しないことによって患者が却って自らの病状の深刻さに気付いてしまう可能性があります。

そうした場合に、診断書等に虚偽の記載をすることが許されるのかが問題となります。

医師が公務員の場合

医師が公務員の場合、職務として作成する診断書等は公文書にあたります。
公務員が公文書を偽造すると、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立する可能性があります。

医師が公務員以外の場合

医師が公務員でない場合も、診断書等が公務所への提出を予定されている場合に、診断書等に虚偽の記載をすると虚偽診断書等作成罪(刑法160条)が成立する可能性があります。

また、診断書等への虚偽記載が刑法に抵触しない場合も、「医師としての品位を損するような行為のあつたとき」(医師法7条)に該当するとして、処分の対象となることが考えらます。

無診察治療・オンライン診療

無診察治療

医師法20条1項本文は、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」と規定し、無診察治療を禁止しています。

同条の趣旨については、患者の状態を把握するためには医師が直接診察する必要があるためといわれています。
この無診察治療の禁止を定めた医師法20条に反した場合は、50万円以下の罰金が科されます(医師法33条の2第1号)。

無診察診療の例としては、「例えば定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わず処方せんの交付のみをすること。」があげられ、「実際には診察を行っていても、診療録に診察に関する記載が全くない場合や、「薬のみ」等の記載しかない場合には、後に第三者から見て無診察治療が疑われかねない。このようなことを避けるためにも診療録は十分記載する必要がある。」とされています(厚生労働省保険局医療課医療指導監査室 保険診療の理解のために【医科】平成30年)。

オンライン診療

医療法1条の2第2項は、「医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。以下同じ。)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。」と規定されています。

情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為を「遠隔医療」といいます。
「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。」を「オンライン診療」といいます(厚生労働省 オンライン診療の適切な実施に関する指針 平成30年3月(令和元年7月一部改訂)、以下「指針」といいます。)。

指針では、オンライン診療の提供に関する事項として、①医師と患者の関、②適用対象、③診療計画、④本人確認、⑤薬剤処方・管理、⑥診療方法の各項目について、考え方や最低限遵守する事項等が記載されています。
また、オンライン診療の提供体制に関する事項として、①医師の存在、②患者の存在、③患者が看護師等といる場合のオンライン診療、④患者が医師といる場合のオンライン診療、について、考え方や最低限準誦すべき事項等が記載されています。

電話による診療

厚労省「医療機関が電話やオンラインによる診療を行う場合の手順と留意事項
(※新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた時限的取扱いに基づき診療を行う場合のマニュアルになります。)

準備

  1. 都道府県窓口に電話による診療を行う旨の届出を行います。
  2. その際、対面診療が必要な場合に紹介する予定の医療機関がある場合は、事前に了承を得た上で、所定の欄に記入します。
  3. ホームページ等において、電話による診療を行う旨、対応可能な時間帯、予約方法等を記載します。

事前の予約

  1. 患者から電話による診療の求めがあった場合、予約の調整を行います。
  2. 患者に対し、症状によっては電話では診断や処方とならず、対面診療や受診勧奨になることを伝えます。
  3. また、当該患者の被保険者証の写しをファクシミリで送付させることや、被保険者証を撮影した写真の電子データを電子メールに添付して送付させること等により、受給資格の確認を行います。
  4. 上記に示す方法による本人確認が困難な患者については、電話により氏名、生年月日、連絡先(電話番号、住所、勤務先等)に加え、保険者名、保険者番号、記号、番号等の被保険者証の券面記載事項を確認します。
  5. あわせて、患者の利用する支払方法を確認します。

診療

  1. 予約時に患者から聞き取った電話番号に電話をかけます。
  2. 電話による診療では診断や処方が困難な場合は、対面での受診を推奨します。なお、受診勧奨のみで終了した場合については、診療報酬は算定できません。

診療後

  1. 処方箋を発行する際に、患者が電話等による服薬指導等を希望する場合は、備考欄に「0410対応」と記載し、患者が希望する薬局に処方箋情報をファクシミリ等で送付します(処方箋原本は可能な時期に薬局に郵送等により送付します)。
  2. 精算手続きを行います。領収証と明細書をファクシミリ、電子メール又は郵送等により無償で患者に交付します。
  3. 初診の患者を診療した場合は、所定の調査票に必要事項を記入し、月に一度取りまとめて都道府県庁へ報告します。

オンラインによる診療

厚労省「医療機関が電話やオンラインによる診療を行う場合の手順と留意事項」
(※新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた時限的取扱いに基づき診療を行う場合のマニュアルになります。)

準備

  1. オンラインによる診療を行う場合は、都道府県の窓口に届出を行います。
  2. その際、対面診療が必要な場合に紹介する予定の医療機関がある場合は、事前に了承を得た上で、所定の欄に記入します。
  3. ホームページ等において、オンラインによる診療を行う旨、診療科、担当する医師とその顔写真、対応可能な時間帯、予約方法等を記載します。

事前の予約

  1. Web予約等の予約管理機能がある医療機関はシステムから予約を受け付けます。
  2. もしくは、電話で予約を受け付けます。
  3. 患者に対し、症状によってはオンラインによる診療では診断や処方とならず、対面診療や、受診勧奨となることを伝えます。
  4. この時に、当該患者の被保険者情報を入力してもらうことなどにより、受給資格を事前に確認しておきます。
  5. あわせて、患者の利用する支払方法を確認します。(銀行振込、クレジットカード決済、その他電子決済等の支払方法により実施して差し支えありません。)

診療

  1. アプリケーションやテレビ電話を用いて患者のデバイスに医師側から接続します。
  2. まずは、顔写真付きの身分証明書や医師免許証を提示し、本人であることと医師であることを証明します。
  3. 次に、患者に被保険者証を提示させ、受給資格を確認し、確認できたら診察を開始します。
  4. オンラインによる診療では診断や処方が困難な場合は、対面での受診を推奨します。なお、受診勧奨のみで終了した場合については、診療報酬は算定できません。

診療後

  1. 処方箋を発行する際に、患者が電話等による服薬指導等を希望する場合は、備考欄に「0410対応」と記載し、患者が希望する薬局に処方箋情報をファクシミリ等で送付します(処方箋原本は可能な時期に薬局に郵送等により送付します)。
  2. 精算手続きを行います。領収証と明細書をファクシミリ、電子メール又は郵送等により無償で患者に交付します。
  3. 初診の患者を診療した場合は、所定の調査票に必要事項を記入し、月に一度取りまとめて都道府県庁へ報告します。
 

日々の診療や医師会の会合など、医師としての仕事だけでも多忙でありながら、診療に関する法律問題をご自身で適切に対応することはなかなか難しいものです。
もしお悩みがありましたら、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。

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お悩みの問題の解決にあたります。