開業医・医療法人の法律問題

患者に関する法律問題について、オールワン法律会計事務所が説明します。

医療法人のさまざまな法律問題についての
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診療費・入院費の未収

 

【未収金の発生】

保険診療では、保険医療機関は、患者から一部負担金の支払いを受け(健康保険法74条1項等)、保険者から療養の給付に要する費用の額から患者が支払った一部負担金を控除した金額の支払を受けることになります(同法76条1項等)。
したがって、患者が一部負担金を支払わない場合、未収金は保険医療機関が負担することになります。

未収金の問題について厚労省では、平成19年「医療機関の未収金問題に関する検討会」が開催されました。
検討会で医療機関側からは、診療契約は第三者のためにする契約であることを根拠として、未収金は保険者が負担すべきとの意見が出されました。

しかし厚労省は、一部負担金は医療機関と患者との間の債権債務関係であることは現行法上明確であるとして、保険者が未払いの一部負担金を立替払する必要はないと結論付けました。


【未収金の発生を防止する方法】

未収金は一旦発生するとその回収に多大な手間がかかることが一般的です。
そこで予め未収金が発生しない措置を講じておきます。

入院保証金の徴収

入院費は診療費以上に高額になることが一般的です。

そこで入院に際して患者やその家族から入院保証金を預かるようにします。

なお、入院保証金については、「保険医療機関が患者から「預り金」を求める場合にあっては、当該保険医療機関は、患者側への十分な情報提供、同意の確認や内容、金額、精算方法等の明示などの適正な手続を確保すること。」とされています。

(厚労省「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(最終改正:平成20年9月30日 保医発第0930007号))


連帯保証人の確保

保証人とは、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う者のことです(民法466条1項)。
連帯保証人は、保証人が有する催告の抗弁権、検索の抗弁権を持たない、より責任が加重された保証人のことです(同454条)。

したがって、上記入院保証金が確保できない場合は、患者の家族で資力がある方を連帯保証人とできないか検討します。


支払方法の多様化

クレジットカードや交通系カードによる支払いができるようにすることで、手持ちの現金がない患者による未収金の発生を防ぐことができます。
また会計に時間がかかる病院等では自動支払機を導入することで、診療費を確実に回収するだけでなく、会計の待ち時間を短縮させて利便性の向上につなげることもできます。


【未収金の回収方法】

医療機関による未収金の回収

未収金が発生した場合、患者に対して口頭又は電話で支払いを督促します。
また、一部負担金を支払わない患者が再び診療を求めてきた場合、別室に案内するなどして未収金の支払を直接要請するようにします。

患者が未収金を支払う意向を示した場合は、確認書等を作成し、その中に「何時までに、いくら支払うのか」期限と金額を明記し、患者の署名と押印を求めます。
また、携帯電話番号を聴取するなど、患者との連絡方法を確保するようにします。

口頭や電話での督促をしても患者が支払はない場合、費用と手間がかかりますが、配達証明の付いた内容証明郵便で督促をすることを検討します。

内容証明郵便には、このまま支払がない場合は不本意ではあるが訴訟提起等の法的手段をとることもあり得る等の文言を記載します。


債務確認書等の取得

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないか、権利を行使することができる時から10年間行使しないと時効消滅します(民法166条1項 正確には債務者が時効を「援用」することで債権が消滅します(同145条))。

したがって未払のある患者からは定期的に残債務の金額と日付の入った債務確認書を取得するようにします。
債務確認書を取得することで、債権の消滅時効は「更新」(振出しに戻ること)されることになります(民法152条1項)。


訴訟等の提起

通常の訴訟

任意の支払を促しても患者が支払に応じない場合は訴訟等の等の提起を検討することになります。

未払金が140万円以内であれば簡易裁判所へ、140万円超であれば地方裁判所に訴訟を提起することになります。

支払督促

支払督促とは、金銭,有価証券,その他の代替物の給付に係る請求について,債権者の申立てにより,その主張から請求に理由があると認められる場合に,支払督促を発する手続です。

債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ,裁判所は,債権者の申立てにより,支払督促に仮執行宣言を付さなければならず,債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。

少額訴訟

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り,利用することができる手続です。

1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする,特別な訴訟手続です。

原告の言い分が認められる場合でも,分割払,支払猶予,遅延損害金免除の判決がされることがあります。

原告は、判決書又は和解の内容が記載された和解調書に基づき,強制執行を申し立てることができます

民事調停

民事調停とは、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。
調停手続では調停委員が双方の言い分を聞いて解決に向けた話し合いが行われます。

訴訟等を提起するとなれば、弁護士に依頼することとなる相応のコストが生じます。
コストをかけて勝訴判決を取得し、強制執行をしても患者に資力がなければ費用倒れに終わってしまいます。
したがって訴訟等の提起をする場合は、患者に資力があるのかを十分に検討する必要があります。


保険者徴収制度

保険医療機関が善良な管理者と同一の注意をもってその支払を受けることに努めたにもかかわらず、なお被保険者が当該一部負担金の全部又は一部を支払わないときは、保険医療機関等の請求に基づき、保険者が税金と同様の滞納処分手続によって一部負担金を徴収することができます(国民健康保険法42条2項)。

この保険者徴収制度を利用する要件は次のとおりです。

1 徴収の対象となる一部負担金の額が60万円を超えること

2 医療機関が内容証明付郵便により支払請求を行つたこと

患者が入院療養を受けている場合は、医療機関は少なくとも次のような対応が必要

(1) 被保険者又は被保険者以外の少なくとも1名(家族、身元保証人、代理人等。以下「家族等」という)に対し、療養終了後、少なくとも1月に1回、電話等で支払を催促し、その記録を残していること。

(2) 療養終了後3月以内及び6月経過後に、内容証明の取扱いをする郵便物による督促状を送付し、その記録を残していること。

(3) 療養終了から6月経過後に、少なくとも1回は支払の催促のため被保険者の自宅を訪問し、その記録を残していること。(被保険者の自宅まで通常の移動手段で概ね30分以上かかる場合には、近隣の家族等を訪問するか、被保険者又は家族等と直接面会し、支払の催促を行い、その記録を残していること。)

(昭和56年2月25日 健康保険法等の一部を改正する法律等の施行に係る事務取扱いについて (保険発第10号・庁保険発第2号)

 


【未収金と応招義務】

医師の応招義務

医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定しています。

この医師法が定める医師の義務を「応招義務」といいます。

したがって、医師は「正当な事由」がない限り、患者から診療治療を求められた場合、この求めに応じる必要があります。

患者の一部負担金未払いが「正当な事由」となるのか

厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)によれば、「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」とされています。

したがって、患者が一部負担金を支払わないことをもって診療を拒むことはできないとされています。

しかし上記通知は「直ちに」診療を拒むことはできないと言っているんであり、患者の未払の回数や金額の多寡によっては診療を拒むことも許されるものと考えられます。

 

モンスターペイシェント

【モンスターペイシェントとは】

一般的にモンスターペイシェントとは、医療機関において不当な要求を繰り返す、医師・看護師等の医療関係者に暴力、暴言、セクハラといった問題行動をとる患者のことを指します。

過去のアンケート調査では、1年以内に職員に対する暴力(身体的暴力・精神的暴力)があったと回答した病院は回答の51.1%にのぼりました。

内容別では、精神的暴力が3436件と最も多く、身体的暴力(2315件)、セクハラ(935件)、その他暴力(196件)と続きました。

対応については、警察への届出は全体の5.8%、弁護士への相談は同じく2.1%と少なく、ほとんどが病院のみで対応していました。

(社団法人日本病院協会2008年 院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査)


【医師・看護師に対する安全配慮義務】

労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」として、使用者の安全配慮義務を規定しています。

したがって、医療機関は、そこで働く医師、看護師等の医療従事者の生命、身体、健康をモンスターペイシェントから守る義務があります。

仮にモンスターペイシェントの問題行動によって医療従事者の生命、身体、健康が害された場合は、医療機関が医療従事者に対して損害賠償責任を負うことになります。

 


【事前の対策】

モンスターペイシェントについては、医療機関で予め次のような安全確保体制に取り組む必要があります。

①安全管理に対する病院の方針のあり方を明確化し、病院全体で取り組むべき課題として位置付ける

②安全管理体制整備に係る経費について検討する


予防:暴力事件、乳幼児連れ去り事件発生のリスクを低減する

①安全管理に関する職員の意識を高める

②出入・動線を工夫する

③防犯設備(防犯カメラ・電子ロック等)・システムの拡充を可能な範囲で行う

④警備員の配置の充実と病職員との連携の促進を図る

⑤暴力等を起こす患者・家族への対応を検討する

⑥乳幼児の両親の意識醸成を行う(乳幼児連れ去り防止対策として)

⑦その他(環境改善・人員配置等)


安全管理対策マニュアルの整備と職員教育の実施

①安全管理対策マニュアルの整備と定期的な改訂を行う

②職員教育の充実を図る

(平成18年9月25日医政総発第0925001号 「医療機関における安全管理体制について(院内で発生する乳幼児の連れ去りや盗難等の被害及び職員への暴力被害への取り組みに関して)」について)


【事後の対応】

事後の対応については次のような対応が求められます。

事件発生時及び事後の対応

①暴力事件等が発生した際には直ちに関連機関に連絡する

②乳幼児ができるだけ病院外に連れ出されないよう迅速な対応をとる

③報道機関への対応窓口・方法を決める

④病院の機能回復を図るとともに被害者、職員のケアを行う

⑤再発防止策を検討する

(上記 平成18年9月25日医政総発第0925001号)


刑事告訴・被害届の提出

モンスターペイシェントによる不当な要求が「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ」た場合は強要罪(刑法223条)に該当します。
暴言や暴力については、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(同204条)に該当する場合があります。

さらにセクハラについては、その態様によって強制わいせつ罪(刑法176条)、公然わいせつ罪(同174条)に該当する場合があります。
モンスターペイシェントからこうした被害を受けた場合は、警察に被害届を提出することや、告訴(刑事訴訟法241条1項)をすることも検討すべきです。


【モンスターペイシェントの具体例と対応】

診療・会計の順番待ちでクレームをつける患者

診療や会計を待つ時間が長いとして医師や事務職員にクレームをつける患者がいます。待たされる時間が長時間に及ぶ場合、患者がクレームを付けることも一定程度理解できます。
そうした場合は、順番に治療や会計を行っていること、治療については緊急性の高い患者を優先する場合があることを説明します。
また病医院側でも自動支払機を導入するなどして会計の待ち時間を短縮できるように対応する必要があります。

一方で早く診察しろと怒鳴る等、理不尽な要求をする患者については、毅然とした態度でそうした要求にはこたえられないといっても問題はありません。
病医院のこうした対応について、患者がさらに大声を上げる等する可能性があるため、患者の対応には原則として複数のスタッフがあたるようにする必要があります。

また、後日患者が、診療拒否があったといった新たなクレームをつけてくる可能性があるため、患者とのやり取りは録音しておく必要があります。
なお、やり取りを録音することに患者の了解は必要ありません。


スタッフに対してストーカー行為を行う患者

男性患者が女性のスタッフに電話番号やメールのアドレスを尋ねたり、病医院の外でスタッフを待ち伏せしたりすることがあります(女性患者が男性スタッフにこうした行為を行うこともあります)。

問題となるのは、スタッフが個人的な連絡先は教えられないと断ったにもかかわらず患者が執拗に電場番号等を尋ねたり、付きまといをやめない場合です。
スタッフ個人では対応が難しい場合、上司や医師から患者に対してつきまとい等を止めるように話してもらいます。
また、可能であれば患者の担当から当該スタッフを外して両者の接触機会を減らすようにします。

それでも患者がつきまとい等を止めない場合は警察に通報します。
ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)では、「つきまとい等」をした者に対して、警察が警告を発したり、悪質な場合は逮捕したりすることでストーカーからスタッフを守ってくれます。


睡眠薬や向精神薬の過剰な処方を求める患者

薬がないと眠れないなどと主張し、睡眠薬等の過剰な処方を求める患者がいます。
担当医に度々処方を求めると断られるため、時には、担当医がいない時間帯を狙って受診し、担当医以外の意思に処方を求めたりすることもあります。
薬剤の過剰な処方は患者の身体へ悪影響を及ぼすほか、生活保護受給者の中には処方された向精神薬等を転売するなどの事例も見られます。

医療費が全額公費で賄われる生活保護をめぐり、無料で処方された向精神薬を違法に販売したとして、警察が麻薬取締法違反(営利目的譲渡)容疑で、元生活保護受給者を逮捕した事件等も発生しています。
精神疾患のある患者の場合、難しい対応が迫られますが、医師が明らかに処方の必要性がないと判断した場合は、処方を拒絶しても問題はないと思われます。
診療報酬改定においても、一部の精神安定剤及び睡眠障害改善剤について、診療報酬上の投薬期限の上限が30日とされるなどしてきました。

さらに2018年の診療報酬改定では、処方料・処方箋料が減算となる向精神薬多剤処方の範囲が拡大され、多剤処方時の処方料・処方箋料が2点減点となりました。

 

日々の診療や医師会の会合など、医師としての仕事だけでも多忙でありながら、患者に関する法律問題をご自身で適切に対応することはなかなか難しいものです。
もしお悩みがありましたら、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。

あなたの強い味方となって
お悩みの問題の解決にあたります。