労働問題
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採用、労働時間、賃金など、問題の種類は多く、労働問題も一様ではありません。そのため、幅広い労働問題に関する豊富な知識・経験がなければ、事案に合わせた適切な解決することは困難です。本ページでは、主に経営者側の弁護士としての一例を挙げております。
ダラダラ残業をする従業員への対応
残業代を支払う必要があるのは、所定外の労働時間において業務を行った場合です。
ここでいう労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことです。
したがって、ダラダラ残業であっても、それが所定外の労働時間に行われている場合、使用者は原則として残業代を支払う必要があります。
しかし、ダラダラ残業をしている労働者に対して、ほかの労働者と同様に残業代を支払うのは、まじめに仕事をしている労働者してみれば納得できないでしょう。その結果、職場の雰囲気や秩序が乱れることにもなります。
ダラダラ残業をやめさせるには、まず管理職が部下の労務管理を適正に行い、所定の労働時間内に業務を終わらせることが重要です。
部下が、業務時間内にひんぱんに離席をしたり、私的なメールや電話をしている場合は、その都度指導や注意を行うようにします。
そして、後に懲戒を行うことを踏まえて、指導や注意の内容や回数を記録また、残業を原則として禁止し、残業が必要な場合は事前に理由を付記した事前申請書を提出させるなど、残業を許可制とすることも有効です。
協調性のない従業員への対応
一部労働者の協調性の欠如により企業秩序を乱していると判断できる場合は、早急に対策を取る必要があります。
まず事実確認を行うため、問題労働者や、その他の労働者から事情を聴取します。
協調性の欠如とは他の労働者との関係で問題となる抽象的な評価の問題であるため、問題となる労働者のどのような言動が協調性の欠如と評価できるのかを聴取の上、記録に残します。
事実確認の結果、問題となる労働者に協調性の欠如が認められる場合には、注意や指導を行います。
この際、注意や指導の内容や回数は記録として残します。また、配置転換が可能であれば、配置転換を検討します。
こうした措置にもかかわらず問題となる労働者の協調性の欠如によりなお企業秩序が乱される場合は懲戒処分を検討します。
協調性の欠如を理由として普通解雇を行う場合には、当該解雇に客観的合理性と社会的相当性がが必要となります。
具体的にはどのような改善の機会を与えたのかが問題になるため、すでに述べたとおり、注意や指導の内容や回数を記録することや、配転の可否を検討したことは重要です。
過去の裁判例では、使用者には問題となる労働者に態度を改善するように注意等を与え、あるいは問題となる労働者と他の労働者の人間関係の調査や修復を図った形跡が認められないとして、問題となる労働者を解雇したことは使用者の解雇権の濫用に当たると判断したものもあります(大阪地決平成4.9.8労働判例619-61)。
他方で、問題となる労働者の上司や同僚に対す無礼や協調性の欠如によって職場の規律が乱れ、円滑な職務遂行が阻害されていることが懲戒解雇事由にあたると判断した裁判例もあります(大阪地決平成4.3.31労働経済判例速報1465号)。
繁忙期に長期の有給休暇を申請する従業員の対応
労基法39条1項は、「使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。」と規定しています。
有給休暇は、労働者からの請求により、使用者の承認を待たずに直ちに効力が生じます。
したがって、使用者は、労働者が請求した時期に有給休暇を付与する必要があります。
他方、労基法39条4項は、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」として、事業の正常な運営が妨げられる場合には、会社は、有給休暇を背隠棲した社員に対して、有休休暇を取得する時季(じき)を変更する権利を付与しました(これを、「時季変更権」といいます)。
ここにいう「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、①当該労働者の年休取得日の労働がその者の担当業務を含む相当な単位の業務の運営に不可欠であり、かつ②代替要員を確保することが困難であることが必要とされています。
したがって、使用者が代替要員を確保する努力をすることなく時季変更権を行使することは許されません。
職場が恒常的に人手不足であり、代替要員の確保が常に困難であるという状況であれば、労働者の健康で文化的な生活を実現するという有給休暇の趣旨からは、使用者の時季変更権は認められないと考えられます。
したがって、労働者から長期の有給休暇が申請された場合は、有給休暇の分割取得が検討できないかなど労働者と話し合い、話し合いがまとまらない場合は、申請された有給休暇の一部に対して時季変更権を行使する等を検討することになります。
社用パソコンを私用メールなどに利用している疑いがある従業員の対応
社用のパソコンを利用してネットサーフィンや私用の電子メールに利用している疑いがある労働者がいる場合、使用者はどのような対応をとることができるでしょうか。
使用者と労働者の間には労働契約が締結されており、労働契約においては、使用者は労働者に契約で定められた賃金を支払い、労働者は契約の趣旨と内容に従った労働を提供する義務を負います。
したがって労働者は、就業時間内において、労働の内容、遂行方法、場所などに関する使用者の指示に従い労働を誠実に遂行する義務(誠実労働義務)を負います。
就業時間内に社用のパソコンを使用してネットサーフィンや私用の電子メールをすることは誠実労働義務に反する行為であり、厳重に注意や指導を行う必要があります。
注意や指導を行っても労働者の行動が改まらない場合は、使用者は当該労働者の懲戒処分を検討することになります。
他方、休憩時間については、労基法34条3項が社員に「休憩時間を自由に利用させなければならない。」と規定しているため、休憩時間であれば社用のパソコンを私的に利用しても問題がないとも思われます。
しかしこの場合も、社用のパソコンには使用者の施設管理権が及んでいるため、使用者が私的利用を認めていないのであれば、就業時間内の私的利用と同様に厳重な注意や指導、そして懲戒処分を検討することになります。
それでは、使用者は労働者が使用する社用のパソコンの電子メールなどをチェックすることができるのでしょうか。
電子メールの送受信履歴やその内容については、一般的にはプライバシー権によって保護されています。
他方で、すでに述べたとおり社用のパソコンには会社の施設管理権が及んでいるため、労働者のプライバシー権は相対的に保護される割合が低下します。
裁判例でも「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益との比較考量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー侵害となる」とされています。そこで労働者が入社するときに、定期的に社用のパソコンを調査することについて書面で承諾を取り付けておくなどの措置を取った上で、必要であれば社用のパソコンの電子メール等の確認を行うことが考えられます。
遅刻・早退・欠勤が多い従業員への対応
遅刻や早退、欠勤(以下、「遅刻等」といいます。)に際して労働者からは「子供が熱を出した」、「急に発熱した」、「親戚に不幸があった」など遅刻等の理由が説明されます。
そうした場合、使用者は、遅刻等の理由が事実であるか確認します。
体調不良を理由とする場合は必要に応じて労働者に診断書を提出してもらいます。葬儀を理由とする場合は会葬礼状を確認するようにします。
特段の理由なく遅刻等をする労働者については、それ自体、労働契約上の労働を誠実に遂行する義務(誠実労働義務)に反する行為にあたるため、まずは注意や指導を行います。
指導や注意は、最初は口頭で行い、それでも改善が見られない場合は、書面で注意や指導を行います。
また、将来の懲戒処分や普通解雇に備えて、その内容や回数を記録しておきます。
そして、遅刻等の内容を踏まえた勤務成績の評価を行います。
注意や指導を行っても改善が見られない場合は、懲戒処分や普通解雇を検討することになります。
無断欠勤については、そもそも欠勤することを電話や電子メールで会社に連絡をすること自体、そう難しいことではないので、たとえ病気を理由とする場合であって指導や注意を行うことができます。
また無断欠勤が続けば、懲戒処分や普通解雇を検討することになります。
部課長からの残業代請求への対応
労働者は、変形労働時間制が採用されている場合などを除いて、週40時間、1日8時間の法定労働時間を超えて働くと使用者に対して残業代(割増賃金)を請求できます。
残業代は、1時間あたりの賃金の25%増となり、次の計算式で求めます。
1時間あたりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間
なお、1時間当たりの賃金は、「月給÷所定労働時間÷所定労働日数」で計算することになります。
それでは、部課長のような管理職は残業代が請求できるのでしょうか。
労働基準法は、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」といいます。)については、労基法上の労働時間、休憩及び給食に関する規定の適用が除外されると規定しています(労基法41条2号)。
したがって、当該管理職が管理監督者に該当する場合は、会社は当該社員に残業代を支払う必要がありません。
もっとも、管理監督者に該当するか否かは、単に部長や課長といった役職名で決まるわけではありません。
行政通達や判例によれば、管理監督者とは、
①経営者と一体的な立場で仕事をしていること、すなわち、事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていることが必要です。
具体的には、部下の人事権(採用、異動、解雇)をどの程度有しているか、重要な会議等への出席の有無などで判断されます。
次に、②出社時間や勤務時間などについて、厳格な制限を受けていないこと、すなわち、労働時間について裁量権を有していることが必要です。
具体的には、通常の就業時間に拘束されているか、欠勤等にあたり上司に届出や報告が必要かなどで判断されます。
そして、③その地位にふさわしい待遇がなされていること、すなわち、一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていることが必要です。
具体的には、管理職手当等が支給により、時間外手当が支給されていないことを十分に補われているかなどで判断されます。
したがって、残業代を請求してきた社員がこうした要件を充足した管理監督者に該当すれば残業代を支払う必要はありませんが、そうでない場合は、部課長といった役職名にかかわらず残業代を支払う必要があります。
有期雇用従業員の雇止めに関する対応
予め労働者の雇用期間が定められている場合(有期雇用)は、期間満了により雇用契約は終了します。
雇用期間が満了すれば労働契約は終了します。
終了にあたり使用者は、労働者に対して、労働契約を継続しない理由等を説明する必要はありません。
もっとも有期雇用労働者を雇止めする際には、次の2点について注意が必要です。
まず、有期雇用の労働者に対しても解雇権濫用の法理が適用される場合があります。
契約期間が2カ月の労働契約書を取り交わした基幹臨時工が、会社と有期雇用契約5~23回にわたって更新された後、突然会社から雇止めの意思表示をされるという事件がありました(東芝柳町工場事件 最判昭和49.7.22)。
この事件で最高裁は、「本件各雇止めの意思表示は契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたり、そうである以上、本件各雇止めの効力の判断に当たっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきでものである。」としました。
この事例では、雇い入れ時に会社から契約期間が満了しても真面目に働いていれば解雇されるようなことはないと言われており、実際にもこれまで2か月の期間満了で雇止めになった臨時工はおらず、期間満了時の更新手続きも直ちに取られていなかったという事情が認められました。
したがって、使用者に労働者が再雇用を期待する言動がある、雇用手続がなおざりになっている、といった事情が認められると、雇止めをすることについて使用者側に合理的な理由が必要となります。
次に、有期雇用契約を3回以上更新し、雇い入れから1年を超えて継続的に勤務している労働者を雇止めする際には少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までにその予告をしなければならなりません。
また、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければなりません(平成15年10月22日 厚生労働省告示第357号)。
また、雇止めではありませんが、①有期労働契約が5年を超えて更新された場合において、②有期契約労働者からの申込みがあれば、有期雇用契約が期間の定めのない労働契約に転換されます(労働契約法18条1項)。
内定者の内定辞退に対する対応
一般的に、学生などに対する採用内定は、①使用者の従業員募集(労働契約申し込みの誘引)、②入社希望者の応募及び採用試験の受験(契約の申込み)、③使用者から入社希望者に対する採用内定の通知(契約の承諾)という一連の流れで行われます。
判例によれば、(採用)内定により、使用者と内定者との間に、始期付き、かつ解約留保権付の試用労働契約が成立することになります。したがって内定者には就労以前であっても、使用者の就業規則中、就労を前提としない規程(会社の名誉や企業機密の保持など)については適用があります。
このように使用者と内定者の間には試用労働契約が成立しているため、使用者が一方的に内定を取り消すことはできません。
使用者が内定を取り消すことができるのは留保されている解約権を行使できる場合、すなわち内定時に内定者に通知された取消事由が認められる場合となります(内定者が卒業できない場合や、経歴詐称があった場合など)。
他方、内定者からの内定辞退については、内定者からの試用労働契約解約の申入れ、すなわち辞職の申入れと同視できます。
期間の定めのない雇用の解約の申入れについては、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と規定されています(民法627条1項)。
このため、内定者からの内定辞退により試用労働契約は終了することになります。
したがって、使用者が内定者の内定辞退を法的に阻止することは困難といえます。
社内行事に参加しない従業員に対する対応
ひと口に社内行事といっても、酒食を伴う歓送迎会や忘年会、新年会、社内旅行や運動会など、様々なものがあります。
最近では、先輩の若いころの武勇伝を聞かされる、2次会、3次会と切りがない、といった理由で若手従業員が社内の会食に参加したがらないといった話をよく耳にするようになりました。
そうした従業員に社内行事に参加を強制できるのか否かは、その社内行事の性格によって異なります。
社内行事が業務命令によって行われる場合、社内行事に参加しないことは業務命令違反にあたります。
したがって、業務違反の内容や違反した回数によっては懲戒処分の対象となりえます。
もっとも、酒食を伴う歓送迎会や忘年会、新年会は、通常は業務時間外に行われるため、これら会食への参加が業務命令の対象となることあまり考えられません。
もちろん、飲酒を強要することはどのような理由であっても許されるものではありません。
社内旅行や運動会についても、基本的にはこれら会食と同様に業務命令の対象となることは少ないと思われます。
そうすると、社内行事の多くは、原則として参加するか否かが従業員の意思に任されたものであると考えられるため、業務命令によって参加を強制することは困難となります。
もっとも、社内行事の中には、業務のスキルアップ等を目的として外部研修に参加するといったものもあります。
このような社内行事については、一般的には業務命令が及んでいると思われるため、参加をしない従業員は懲戒処分の対象となり得ます。
したがって、業務命令により従業員に参加を強制できるのか否かについては、その社内行事がどのような性質を有するものなのかを検討する必要があります。
もし労働問題でお困りなら、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所の弁護士までご相談ください。
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