企業法務会社・企業の法律相談・顧問契約の代替え
いくつかの事例をもとに、オールワン法律会計事務所の弁護士が、会社での労務に関する法律問題について解説します。
契約の成立
契約の成立と押印
民法522条(契約の成立と方式)
1項
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2項
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
今回の民法(債権法)改正により、契約の申込みが「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示」であること、また、申込みに対して「相手方が承諾」することによって契約が成立することが明文化されました。
押印に関するQ&A (令和2年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省)
Q1
契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか?
A
私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
Q2
押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか?
A
民事裁判において、私文書が作成者の認識等を示したものとして証拠(書証)になるためには、その文書の作成者とされている人(作成名義人)が真実の作成者であると相手方が認めるか、そのことが立証されることが必要であり、これが認められる文書は、「真正に成立した」ものとして取り扱われる。
民事裁判上、真正に成立した文書は、その中に作成名義人の認識等が示されているという意味での証拠力(これを「形式的証拠力」という。)が認められる。
民訴法第228条第4項には、「私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という規定がある。
この規定により、契約書等の私文書の中に、本人の押印(本人の意思に基づく押印と解釈されている。)があれば、その私文書は、本人が作成したものであることが推定される。
この民訴法第228条第4項の規定の内容を簡単に言い換えれば、裁判所は、ある人が自分の押印をした文書は、特に疑わしい事情がない限り、真正に成立したものとして、証拠に使ってよいという意味である。
そのため、文書の真正が裁判上争いとなった場合でも、本人による押印があれば、証明の負担が軽減されることになる。
なお、文書に押印があるかないかにかかわらず、民事訴訟において、故意又は重過失により真実に反して文書の成立を争ったときは、過料に処せられる(民訴法第230条第1項)。
Q3
本人による押印がなければ、民訴法第228条第4項が適用されないため、文書が真正に成立したことを証明できないことになるのか?
A
本人による押印の効果として、文書の真正な成立が推定される(Q2参照)。
そもそも、文書の真正な成立は、相手方がこれを争わない場合には、基本的に問題とならない。
また、相手方がこれを争い、押印による民訴法第228条第4項の推定が及ばない場合でも、文書の成立の真正は、本人による押印の有無のみで判断されるものではなく、文書の成立経緯を裏付ける資料など、証拠全般に照らし、裁判所の自由心証により判断される。
他の方法によっても文書の真正な成立を立証することは可能であり(Q6参照)、本人による押印がなければ立証できないものではない。
本人による押印がされたと認められることによって文書の成立の真正が推定され、そのことにより証明の負担は軽減されるものの、相手方による反証が可能なものであって、その効果は限定的である(Q4、5参照)。
このように、形式的証拠力を確保するという面からは、本人による押印があったとしても万全というわけではない。
そのため、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。
Q4
文書の成立の真正が裁判上争われた場合において、文書に押印がありさえすれば、民訴法第228条第4項が適用され、証明の負担は軽減されることになるのか?
A
押印のある文書について、相手方がその成立の真正を争った場合は、通常、その押印が本人の意思に基づいて行われたという事実を証明することになる。
そして、成立の真正に争いのある文書について、印影と作成名義人の印章が一致することが立証されれば、その印影は作成名義人の意思に基づき押印されたことが推定され、更に、民訴法第228条第4項によりその印影に係る私文書は作成名義人の意思に基づき作成されたことが推定されるとする判例(最判昭39・5・12民集18巻4号597頁)がある。
これを「二段の推定」と呼ぶ。
この二段の推定により証明の負担が軽減される程度は、次に述べるとおり、限定的である。
推定である以上、印章の盗用や冒用などにより他人がその印章を利用した可能性があるなどの反証が相手方からなされた場合には、その推定は破られ得る。
印影と作成名義人の印章が一致することの立証は、実印である場合には印鑑証明書を得ることにより一定程度容易であるが、いわゆる認印の場合には事実上困難が生じ得ると考えられる(Q5参照)。
なお、次に述べる点は、文書の成立の真正が証明された後の話であり、形式的証拠力の話ではないが、契約書を始めとする法律行為が記載された文書については、文書の成立の真正が認められれば、その文書に記載された法律行為の存在や内容(例えば契約の成立や内容)は認められやすい。
他方、請求書、納品書、検収書等の法律行為が記載されていない文書については、文書の成立の真正が認められても、その文書が示す事実の基礎となる法律行為の存在や内容(例えば、請求書記載の請求額の基礎となった売買契約の成立や内容)については、その文書から直接に認められるわけではない。
このように、仮に文書に押印があることにより文書の成立の真正についての証明の負担が軽減されたとしても、そのことの裁判上の意義は、文書の性質や立証命題との関係によっても異なり得ることに留意する必要がある。
Q5
認印や企業の角印についても、実印と同様、「二段の推定」により、文書の成立の真正について証明の負担が軽減されるのか?
A
「二段の推定」は、印鑑登録されている実印のみではなく認印にも適用され得る(最判昭和50・6・12裁判集民115号95 頁)。
文書への押印を相手方から得る時に、その印影に係る印鑑証明書を得ていれば、その印鑑証明書をもって、印影と作成名義人の印章の一致を証明することは容易であるといえる。
また、押印されたものが実印であれば、押印時に印鑑証明書を得ていなくても、その他の手段により事後的に印鑑証明書を入手すれば、その印鑑証明書をもって、印影と作成名義人の印章の一致を証明することができる。
ただし、印鑑証明書は通常相手方のみが取得できるため、紛争に至ってからの入手は容易ではないと考えられる。
他方、押印されたものが実印でない(いわゆる認印である)場合には、印影と作成名義人の印章の一致を相手方が争ったときに、その一致を証明する手段が確保されていないと、成立の真正について「二段の推定」が及ぶことは難しいと思われる。
そのため、そのような押印が果たして本当に必要なのかを考えてみることが有意義であると考えられる。
なお、3Dプリンター等の技術の進歩で、印章の模倣がより容易であるとの指摘もある。
Q6
文書の成立の真正を証明する手段を確保するために、どのようなものが考えられるか?
A
次のような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。
1. 継続的な取引関係がある場合
取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)
2. 新規に取引関係に入る場合
- 契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
- 本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでのPDF送付)の記録・保存
- 文書や契約の成立過程(メールやSNS上のやり取り)の保存
3. 電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)
上記1.2.については、文書の成立の真正が争われた場合であっても、例えば下記の方法により、その立証が更に容易になり得ると考えられる。
また、こういった方法は技術進歩により更に多様化していくことが想定される。
a. メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存
b. PDFにパスワードを設定
c. (b)のPDFをメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
d. 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
e. PDFを含む送信メール及びその送受信記録の長期保存
電子契約
電子契約のメリット
事務コストの削減
通常の契約書締結の流れでは、当事者間における契約内容の合意後、①契約書のプリントアウト、②契約書の製本、③契約書への記名・押印、④契約書への契印(必要に応じて割印)、⑤契約書への印紙の貼付(必要に応じて消印)、⑥相手方への契約書の郵送、⑦返送されてきた契約書の不備チェック、⑦契約書のデータ化、⑧契約書原本の保管といった複数の過程が必要となります。
一つ一つの作業自体は決して作業量が大きくありませんが、全体の作業量は相当なものになり、相応の作業時間を要します。
一方、電子契約の場合は、契約書のプリントアウトや相手方に対する郵送作業が不要となります。また、記名・押印に代えて電子署名で対応することができます。
したがって、電子契約の場合、作業量を大幅にカットすることができ、結果として作業時間の短縮が可能となります。
印紙税の非課税
答弁書第9号 内閣参質162第9号 平成17年3月15日 内閣総理大臣 小泉 純一郎
「事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。」
「しかし、印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない。」
コンプライアンスの向上
コンプライアンス(法令順守)とは、通常、コーポレートガバナンス(企業統治)の一つと考えられています。企業のコンプライアンス違反が公になると、当該企業にはネガティブな印象が付きまとうなど深刻な影響が出ます。
コンプライアンスの徹底を図るには、社員に対するコンプライアンス教育が重要となりますが、一方で社内でコンプライアンスが徹底されているのかを監視することも必要です。
しかし、契約書等が紙の文書の場合、調査のためには監視対象部署から紙の提出を求める必要がある等、秘密裏に監視をすることは容易ではありません。また、膨大な紙の資料を監視するためには多大な人材と時間が必要になります。
一方で文書等が電子化されていると、監視対象部署に知られることなく契約書等の調査を行うことができます。また、サーバー等に系統立てて保管されている電子文書を調査することは紙の文書を調査するより容易です。
したがって電子契約の導入はコンプライアンスの向上に寄与します。
電子契約の仕組み
電子文書署名者
- 電子文書署名者(署名者)は予め自分が厳重に管理する「秘密鍵」※1と、秘密鍵とペアの一般に公開されている「公開鍵」を準備します。
- 署名者は電子文書を「ハッシュ関数」※2を用いて「ハッシュ値①」※3として出力します。
- 出力されたハッシュ値を秘密鍵を用いて「暗号化」※4して「電子署名」※5を出力します。
- 電子文書と電子署名を電子文書受領者に送信します。
電子文書受信者
- 受信した「電子文書」をハッシュ関数を用いてハッシュ値②として出力します。
- 受信した「電子署名」を一般に公開されている公開鍵を用いて復号し、ハッシュ値③を出力します。
- ハッシュ値②とハッシュ値③を比較し、同一であれば、(1)受信した電子文書が公開鍵とペアの秘密鍵の所有者により作成されたこと、(2)受信した電子文書が第三者により改ざんされていないこと、が分かります※6。
- 秘密鍵
- 秘密鍵とは、物理的な鍵ではなく数十桁から数百桁の数値の情報です。
秘密鍵はICカードなどの物理デバイスにその情報が収納されることが多く、PIN入力により利用されます(当事者(ローカル)署名型)。(cf「立会人(リモート)署名型」)
- 共通鍵方式
- 電子文書の暗号化は、当初「共通鍵方式」が利用されていました。これは、電子文書の暗号化と復号化を共通の鍵で行う方式です。しかし共通鍵を利用する方法では、復号する側に共通鍵を渡すときに盗聴等により共通鍵の情報が漏洩すると電子文書の内容まで漏洩してしまいます。
- 公開鍵方式
- そこでこの共通鍵の問題を解決するため、「公開鍵方式」が利用されるようになりました。公開鍵方式では受信者がペアになった秘密鍵と公開鍵を準備し、公開鍵を送信者に送ります。送信者は公開鍵を用いて電子文書を暗号化して受信者に送信します。受信者は送信された暗号を自分だけが持っている秘密鍵を用いて復号します。
この方法では、万一公開鍵の情報が漏洩しても、電子文書を復号できるのは秘密鍵を持っている受信者だけになります。
電子署名は、この公開鍵方式を逆にして、送信者が秘密鍵で電子文書を暗号化し、受信者が公開鍵を用いて復号する方法です。
- ハッシュ関数 ※2 ハッシュ値 ※3
- ハッシュ関数とは、任意の大きさのデータから固定長の値を出力するものです。ハッシュ関数により出力された値を「ハッシュ値」といいます。
ハッシュ関数の特徴は、入力するデータが一文字でも異なると異なるハッシュ値が出力されることです。
例)
「9月1日に出張に行く。」 → ハッシュ値「193d131e」
「9月2日に出張に行く。」 → ハッシュ値「1956131f」
(いずれもアルゴリズムadler32)
二つの電子文書の内容をハッシュ関数を使ってハッシュ値として出力したときに、その値が同じであれば元の二つ電子文書は同じといえます。
- 暗号化 ※4
- 公開鍵方式の暗号として利用されているものにRSA方式があります。
RSA方式は素数の掛け算と素因数分解におけるコンピューターの特性を利用した方式です。
もっとも、RSA方式では暗号化、復号化にかかる計算量が大きくなるため、電子文書をそのまま暗号化すると計算時間がかかりすぎるといった問題が生じます。そこで先に説明したハッシュ関数を用い、電子文書をまず短い固定長のハッシュ値に置換してからRSA方式を用いて暗号化します。
- 電子署名 ※5
- 電子的に送信されてきた電子文書の本人性を担保するために用いられるものです。
紙の契約書における「印影」にあたるのが電子文書における「電子署名」です。
(1)受信した電子文書が公開鍵とペアの秘密鍵の所有者により作成されたこと
(2)受信した電子文書が第三者により改ざんされていないこと ※6
電子文書署名者は、電子文書をハッシュ関数を用いてハッシュ値①を出力しました。電子文書受信者は、受信した電子文書をハッシュ関数を用いてハッシュ値②を出力しました。
したがって、ハッシュ値①とハッシュ値②は一致します。
電子文書受信者は、受信した電子署名を公開鍵を用いて復号しハッシュ値③を出力しました。
ハッシュ値③を複合した公開鍵が、電子文書署名者だけが保有する秘密鍵とペアになるものであれば、復号されたハッシュ値③は、電子文書署名者が秘密鍵で暗号化する前のハッシュ値①と一致するはずです。
そこで、ハッシュ値②(ハッシュ値①と一致しています)とハッシュ値③が一致すれば、(1)受信した電子文書が公開鍵とペアの秘密鍵の所有者により作成されたこと、(2)受信した電子文書が第三者により改ざんされていないこと、が分かります。
電子署名
電子署名とは
電子署名法2条(定義)
1項 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(略)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
1号 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
2号 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
→通常の電子署名の方法であれば本人性(1号)、非改ざん性(2号)は充足します。
電子署名法3条(電磁的記録の真正な成立の推定)
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
→署名者の秘密鍵を用いないと電子署名ができない仕組みになっていれば3条も充足します。
したがって、
電子署名により電子文書の正当性が担保されます
当事者(ローカル)署名と立会人(リモート)署名
当事者(ローカル)署名型
署名者が自己が保管するICカードなどの物理デバイスに秘密鍵を格納し、その秘密鍵を使って電子署名を行う仕組みです。具体的には、サービス提供事業者が本人確認の上で電子証明書(後述)を発行し、本人が電子署名を行うものです。
当事者署名型では、厳格な手続で電子契約を成立させることになるため、一般的にコストが高くつきます。また、契約の相手方も同じサービス提供事業者に登録する必要があることもデメリットです。
立会人(リモート)署名型
署名者がサービス提供事業者に秘密鍵を預け、必要に応じて事業者にアクセスし、事業者に預けた秘密鍵を利用して電子署名を行う仕組みです。具体的には、契約の相手方にサービス提供事業者のシステム上の電子文書にアクセスできるURLを送信し、相手方が電子文書の内容に同意をすればサービス提供事業者が本人に代わって電子署名を行うものです。
世界の主流は立会人型のため、外資系のサービス提供事業者は立会人型が多いと言えます。
ただ、立会人型の署名は、電子署名(電子署名法2条)といるのか、電子文書の成立の真正の推定(同3条)が及ぶのかが問題となります。
2020年7月17日 総務省 法務省 経済産業省
利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A
Q
立会人型署名が電子署名法上の「電子署名」にあたるのか?
A
電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。
このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。
そして、上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には,これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。
Q
立会人型署名に電子文書成立の真正にかかる推定効が及ぶのか?
A
(利用者の指示に基づき、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービスが)電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するには、(中略)当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要であると考えられる。
より具体的には、上記サービスが十分な水準の固有性を満たしていると認められるためには、①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び ②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があると考えられる。
①及び②のプロセスにおいて十分な水準の固有性を満たしているかについては、システムやサービス全体のセキュリティを評価して判断されることになると考えられるが、例えば、①のプロセスについては、利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合には、十分な水準の固有性が満たされていると認められ得ると考えられる。
2要素による認証の例としては、利用者が、あらかじめ登録されたメールアドレス及びログインパスワードの入力に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元にあるトークンの利用等当該メールアドレスの利用以外の手段により取得したワンタイム・パスワードの入力を行うことにより認証するものなどが挙げられる。
②のプロセスについては、サービス提供事業者が当該事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う措置について、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えばシステム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等に照らし、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示すための措置として十分な水準の固有性が満たされていると評価できるものである場合には、固有性の要件を満たすものと考えられる。
以上の次第で、あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの、一般論として、上記サービスは、①及び②のプロセスのいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる。
したがって、同条に規定する電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたと認められる場合には、電子署名法第3条の規定により、当該電子文書は真正に成立したものと推定されることとなると考えられる。
電子証明書
電子証明書とは
紙の契約書の場合、契約書に押された印影が本人のものかどうかは、契約書の印影と、印鑑登録をした市区町村長が発行する印鑑登録証明書の印影を比較することで判断されます。
電子署名の場合、電子署名の復号に使われる公開鍵自体は物理的な鍵ではなく数十桁から数百桁の数値の情報のため誰の公開鍵か分かりません。そこで、公開鍵とその持ち主を紐づける仕組みとして電子証明書が利用されます。
電子証明書と認証業務
電子証明書には、①署名者、②公開鍵の情報、が記載されています。
電子証明書は、民間の認証業務(認証局)によって発行され、発行主体により、①電子証明書が本人の申請により発行されたものであること(公開鍵の持主)、②電子証明書に記載された公開鍵とペアににある秘密鍵を本人しか使用できないこと、が保証されています。
認証業務は、上記2つの事項を保証するため、
- 電子証明書発行申請時に写真が付いた身分証明書等による本人確認の徹底
- 本人限定受取郵便等の活用による秘密鍵の情報が収納された物理デバイス等を確実に本人に引き渡すこと
が求められます。
電子証明書により電子署名の正当性が担保されます。
電子証明書の発行主体
特定認証業務
電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務です。
(電子署名法2条3項)
技術的要件を満たしていれば足り、主務大臣による認定もないため信頼性は低いといわれています。
(印鑑でいえば三文判程度の信頼性)
認定認証業務
特定認証業務の中で主務大臣の認定(電子署名法4条)を受けた者をいいます。
認定基準を満たしているかの調査を行う指定調査機関にはJIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)が指定されています。
特定認定業務中、本人確認の方法等で厳格な基準を満たしていると主務大臣から認定を受けたもので信頼性は高いといわれています。
(印鑑で言えば実印程度の信頼性)
タイムスタンプ
タイムスタンプとは
電子署名 :電子文書の正当性を担保
電子証明書:電子署名の正当性を担保
しかし、
電子証明書には有効期限があり、有効期限後の電子署名は無効であり、有効期限内であっても、物理デバイスの紛失、盗難等により電子証明書が失効している場合あります。
そこで、タイムスタンプによって電子署名がいつ行われたものなのか(電子証明書の有効期限内か否か)を明らかにします。
タイムスタンプの仕組み
タイムスタンプには電子署名が用いられているため、電子署名の効果の一つである「非改ざん性」の確認ができます。
すなわち、タイムスタンプに刻印されている時刻以前にその電子文書が存在していたこと(存在証明)と、その時刻以降、当該文書が改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明できます。
タイムスタンプと確定日付
確定日付
一部の法律ではその効力が生じるために確定日付が要求されています。
例)民法467条(債権の譲渡の対抗要件)
1項 (省略)
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
民法施行法5条によると、確定日付とは公正証書や内容証明郵便等の6つに限定されているため、タイムスタンプは確定日付に該当しません。したがって、確定日付が必要なものについては、タイムスタンプではなく、公証役場での確定日付印等が必要となります。
長期署名
長期署名とは、当初の電子署名に使われた暗号アルゴリズムが危殆化する前に、その時点での最新の暗号技術を用いたタイムスタンプを付与し暗号を掛け直すことで、電子署名の効果を延長する方法です。
① 署名時のタイムスタンプにより、その時点で電子文書と電子署名が存在したことを明らかにできます。
② その後、認証バスデータ等の電子署名の検証に必要な情報と一緒に、その時点で最新の暗号技術を用いた保管タイムスタンプを行います。
電子証明書の有効期限が切れた場合も、電子署名の時点では電子証明書が有効であったことを示すことができます。
電子委任状
電子署名の問題点
電子署名法によれば、電子契約が真正に成立したものとの推定を受けるには、「本人」が電子署名を行う必要があります。
電子署名法3条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
株式会社では代表取締役が裁判上裁判外の一切の行為をする権限を有するため(会社法349条4項)、代表取締役が自分の電子証明書を用いて電子署名を行えばその行為の効果は会社に帰属しますが、全ての電子契約を代表取締役が締結することは現実的ではありません。
実際にも、多くの契約は、権限の委譲を受けた従業員が代表取締役に代わり行っています。
また、電子証明書には本人の住所等に関する情報が記載されていますが、電子契約の相手方にとって重要なのは、本人の住所等ではなく、本人が当該契約を締結する権限を有しているか否かです。
電子委任状の方式
電子委任状の普及を促進するための基本的な指針によれば、電子委任状の記録方式には次の3つがあります。
① 委任者記録ファイル方式
委任者が、電子委任状に記録すべき事項を記録した電磁的記録を自ら作成する方式
② 電子署名書方式
電子委任状取扱事業者が、委任者の委託を受けて、電子委任状に記録すべき事項を受任者の利用する電子証明書に記録する方式
③ 取扱事業者記録ファイル方式
電子委任状取扱事業者が、委任者の委託を受けて、電子委任状に記録すべき事項を受任者の利用する電子証明書とは別の電磁的記録に記録する方式
顧問弁護士がいることで、会社の本来の業務に専念することができます。顧問弁護士について関心のある方は、お気軽に弁護士法人オールワン法律会計事務所にご相談ください。日々の業務での「これはどうなの?」といったふとした疑問にも迅速にお答えいたします。
正しい知識を持った専門家へ
ご相談ください