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医師の応招義務が免除される医師法19条1項の「正当な事由」を具体的に検討します。
医師の病気
厚生省医務局医務課長回答(昭和30年8月12日医収第755号)によれば、医師の病気は「正当な事由」となります。
しかし上記回答では、「単に軽度の疲労の程度」では「正当な事由」に該当しないとされているため、診療ができない程度の病気であることが必要と思われます。
専門外の診療科目
厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)によれば、医師が自己の標榜する診療科目以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合、説明をしてもなお患者が診療を求めると、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならないとされています。
脳外科医である病院の当直医が、心筋障害による急性冠不全症状のある患者の診療を拒否したことが問題となった裁判で、
①当日の病院の当直医は脳外科医だけで、診療を求められたときには別の重症者の治療に追われていたこと、
②当該患者は搬送依頼された際に別の内科医の診療を受けており、脳外科医は内科医以上の適切な措置をとることは困難で、他の専門医の診療を受けたほうが適切であると判断したこと
等を理由として、当該治療拒否は応招義務に反しないと判断されました。
(名古屋地裁昭和58年8月19日判タ519-230)
病室の満床
医療法施行規則10条は、「病院、診療所又は助産所の管理者は、患者、妊婦、産婦又はじよく婦を入院させ、又は入所させるに当たり、次の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。」として、その1号で「病室又は妊婦、産婦若しくはじよく婦を入所させる室には定員を超えて患者、妊婦、産婦又はじよく婦を入院させ、又は入所させないこと。」と規定しています。
もっとも、同条本文但書は、「臨時応急のため入院させ、又は入所させるときは、この限りでない。」と規定されています。
したがって、満床は直ちに「正当な事由」とはなりません。
他方で、患者の症状が安定しており「臨時応急のための入院」といった事情がなければ「正当の事由」があると考えられます。
患者の医業報酬の不払
厚生省医局長通知(昭和24年9月10日医発752号)によれば、「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」とされているため、医業報酬の未払いが直ちに「正当の事由」となることはありません。
もっとも上記通知には「直ちに」という文言があるため、病医院が何度も督促をしても患者が医業報酬を支払わず、未払の医業報酬の額が多額にぼるといった事情があれば「正当の事由」にあたりうると考えられます。
この問題については、医療機関の未収金問題に関する検討会で医療者から解釈の見直しといった意見が出されましたが、報告書によれば、厚生労働省から「医療費の不払があっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできないとという見解が示された。」として、従来の見解が維持されています。
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