企業法務会社・企業の法律相談・顧問契約の代替え
いくつかの事例をもとに、オールワン法律会計事務所の弁護士が、会社での労務に関する法律問題について解説します。
取引開始前
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)の取得
取引開始にあたっては、これから取引を行う相手の情報を収集します。
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)
取引先が法人の場合、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)を取得します。
履歴事項全部証明書とは、従前の登記の謄本に相当するものであり、現在事項証明の記載事項に加えて、当該証明書の交付の請求のあった日の3年前の日の属する年の1月1日から請求の日までの間に抹消された事項(職権による登記の更正により抹消する記号を記録された登記事項を除く。)等を記載した書面に認証文を付したものです。※
※法務省 法人・商業登記Q&A
取引先の名刺には「株式会社」と書かれていても、実際には取引先が会社ではなく、個人であることもまれにあります。
また、取引先が実際に存在することも確認できます。
履歴事項全部証明書には、「会社法人番号」、「商号」、「本店所在地」、「公告をする方法」、「会社設立年月日」、「目的(事業内容)」、「発行可能株式数」、「発行済株式の総数並びに種類及び数」、「株券を発行する旨の定め」、「資本金の額」、「株式の譲渡制限に関する規定」、「役員に関する事項(資格・氏名等・原因年月日・登記年月日)」、「取締役会設置会社に関する事項」、「監査役設置会社に関する事項」、「登記記録に関する事項」が記載されています。
このうち、確認するポイントは次のとおりです。
商号
商号変更が頻繁に行われている場合は要注意です。
会社設立の年月日
創業からの年数がその会社の信用度を図る一定の目安になります。
但し、創業の古い休眠会社を買い取る場合もあるので、注意が必要です。
目的
これから行おうとする取引がその会社の目的の範囲内であるのかを確認します。
資本金
資本金の多寡がその会社の信用度を図る一応の目安になります。
役員に関する事項
就任・退任の時期を確認し、短期間に役員の多くが変更されている場合は要注意です。
代表取締役の自宅の確認
代表取締役の自宅の不動産の全部事項証明を入手して資産状況(持ち家か否か、抵当権等が設定されているか等)を確認します。
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)の入手方法
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)を入手するには、次の3つの方法があります。
法務局の窓口で申請する
法務局に出向き、申請書に必要事項を記入して申請します。
手数料は1通あたり600円で、1通の枚数が50枚を超える場合は、超える枚数50枚までごとに100円が追加されます。
郵送で申請する
企画に法務局がない場合は申請書を郵送して入手します。
申請書は法務局のホームページからダウンロードします。
法務局 登記事項証明書(商業・法人登記)の交付請求書の様式
申請書を郵送する場合は、返信用の封筒を同封します。
オンラインで申請する
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)はオンラインで申請することもできます。
申請方法は次のとおりです。
法務局 オンライン申請のご案内
(不動産)全部事項証明書の取得
(不動産)全部事項証明書
取引先所在地の(不動産)全部事項証明書を取得することで、取引先が不動産を保有しているのか否かを確認することができます。
全部事項証明書には、「表題部」、「権利の部(甲区)」、「権利の部(乙区)」が記載され、当該不動産に共同担保が設定されているときには「共同担保目録」も記載れます。
記載内容は次のとおりです。
表題部
不動産の概要を知ることができます。
具体的には、土地では「所在」、「地番」、「地積」、「地目」が記載され、建物では「所在」、「家屋番号」、「構造」、「床面積」が記載されています。さらに建物が区分所有建物(マンション)であれば「土地の符号」、「所在及び地番」、「地目」、「地積」、「登記の日付」など敷地権の内容が記載されています。
甲区欄
所有権に関する事項が記載された部分です。
所有者及びその所有者が不動産を取得するに至った経緯が分かります。
乙区欄
所有権「以外」の権利に関する事項((根)抵当権等)が記載された部分です。
(根)抵当権の優先順位は登記の順番で決まるため、先順位の抵当権の債権額(根抵当権の極度額)を確認することで不動産の担保余力を確認することができます(但し、根抵当権の極度額は担保の上限を示すものであり、実際にどれだけ借り入れているのかは別途確認する必要があります)。
不動産全部証明書の入手方法
不動産全部証明書を入手するには、次の3つの方法があります。
法務局の窓口で申請する
法務局に出向き、申請書に必要事項を記入して申請します。
土地の全部事項証明書の取得を申請する際には、土地の「地番」が必要ですが、地番は「住所」と異なります。
土地の地番を調べるには、➀不動産所在地を管轄する法務局や図書館に備え付けてあるブルーマップで調べる、➁不動産所在地を管轄する法務局に電話で問い合わせる、といった方法があります。
手数料は1通あたり600円で、1通の枚数が50枚を超える場合は、超える枚数50枚までごとに100円が追加されます。
郵送で申請する
企画に法務局がない場合は申請書を郵送して入手します。
申請書は法務局のホームページからダウンロードします。
申請書を郵送する場合は、返信用の封筒を同封します。
オンラインで申請する
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)はオンラインで申請することもできます。
申請方法は次のとおりです。
法務局 登記事項証明書(土地・建物)を取得したい方
信用調査会社の利用
取引にあたっては、取引先の財務内容等が分かる書類が入手できないか検討します。
もっとも、取引先に依頼しても財務内容等に関する情報が入手できない場合は、信用調査会社の利用を検討することになります。
信用調査会社には、企業全般の調査を行うことができる会社と、特定の業界の調査に特化した会社があります。
前者の代表的な信用調査会社が帝国データバンクと東京商工リサーチです。
信用調査のシェアでは帝国データバンクが国内シェア60%、東京商工リサーチが同20%ですが、企業信用調査の料金は両社ほぼ同額です。
帝国データバンクの信用調査報告書には、「サマリー」、「登記・役員・大株主」、「従業員・設備概要」、「代表者」、「系列・沿革」、「業績」、「取引先」、「銀行取引・金現況」、「現況と見通し」、「貸借対照表」、「損益計算書」、「株主資本等変動計算書」、「財務諸表分析表」、「推定キャッシュフロー計算書・分析表」、「不動産登記写」の15のサマリーと100以上の項目が記載されています。
取引の相手方が法人ではなく、個人の場合は、運転免許証や旅券で住所や氏名を確認するようにします。
また、可能であれば連帯保証を立てさせることができるのか判断するために家族構成などの情報を取得します。
取引先個人が働いている場合、給与債権の差押えの可否を判断するために勤務先も確認します。
取引の開始
取引基本契約書の作成
取引開始にあたっては、こらからの取引内容を明確にするため、可能な限り取引基本契約書を作成します。
各個別契約に共通する事項を取引基本契約に規定することで、契約の都度全ての契約事項について改めて協議する必要がなくなります。
自社で契約書を作成することで自社に有利な条項を規定できる可能性があります(最終的にはパワーバランスで決まることが多いです)。
手形による取引
約束手形
約束手形とは、振出人が受取人その他の正当な所持人に対して一定の期日(満期)に一定の金額を支払うことを約束する証券です。
資金不足等を理由に6か月以内に2回不渡りを出すと、その日から2年間銀行取引停止処分を受けるため、手形金については通常の債務より支払いに対するインセンティブが働きます。
約束手形の仕組み
手形を発行することを「振出」といい、手形を振出す者として手形に署名をした者を「振出人」といいます。
他方、手形の振出しを受ける者として手形に記載された者を「受取人」といいます。
手形の裏書とは、手形法に定められた方式による手形債権の譲渡行為のことです。振出人は、裏書をして手形債権を被裏書人に譲渡することができます。
手形の所持人は、支払呈示期間内に振出人等に手形を提示して支払いを求めますが、支払いを拒絶されると手形の裏書人等に支払いを求めることになります(手形の遡及)。手形の遡及に応じて一定の金額を支払った者は、さらに自己の前の裏書人等に支払いを求めることができます(手形の再遡及)。
小切手
小切手とは、振出人が、満期に小切手に記載された金額を受取人その他小切手の正当な所持人に支払うことを支払人に委託する支払委託証券です。
支払の確実性を確保するため、支払人は銀行に限定されており、振出しに際して小切手契約と小切手資金の存在が要求されています。
小切手の所持人は、支払呈示期間内に支払呈示をして小切手金額の支払いを受けますが、支払呈示期間は振出日後10間とされています。
約束手形と異なり、小切手には支払人による引受、裏書、小切手保証は認められていません。
為替手形
発行人(振出人)が、第三者(支払人)にあてて一定の金額を、受取人(又はその指図人)に支払う旨を委託する手形のことです。
約束手形では振出人が手形金額を支払いますが、為替手形では第三者が手形金額を支払います。
為替手形は、従来、国際取引の決済のための送金やその取り立ての手段として使用されてきました。
担保の取得
保証
保証とは、債務者が契約に従い債務を返済しない場合、債務者に代わって債務を返済する義務を負うことです。
保証人を確保することで保証人の財産も債権の引当てにすることができます。
保証人になる資格には特段の制限がありません。
しかし、債務者が債権者に対して保証人をたてる義務を負う場合、保証人は、➀行為能力者であること、➁弁済の資力を有すること、が必要となります(民法450条1項)。
保証には、単純な保証、連帯保証及び根保証があります。
単純な保証
保証人には、債権者が保証債務の履行を求めてきたときに、➀まず主たる債務者に催告するように求めること(催告の抗弁権)、➁主たる債務者に資力があり執行が容易であることを証明した上で、まず主たる債務者の財産に執行を求めること(検索の抗弁権)が認められます。
また、単純な保証人には分別の利益(保証人が複数いる場合、保証債務の額が保証人の数に応じて分割されること)が認められます。
連帯保証
連帯保証人には、単純保証で認められる①分別の利益、②催告の抗弁権、③検索の抗弁権が認められません。
根保証
根保証とは、継続的取引から生じる債務を包括的に保証する契約のことです。
根保証には、信用保証、賃借人の債務の保証、身元保証などがあります。
このうち信用保証については、被保証債権の範囲が画されず、極度額が約定されないなど、保証人の負担が広範囲に及びうるため保証人を保護するために様々な制約が設けられています。
➀保証期間の定めのない保証人は、保証契約締結後に相当期間が経過したときは、保証契約を解約することができます(大判S9.2.27)
➁保証人は、保証契約締結時に予期できないほどに債務者の資料が悪化した時は、相当な期間が経過しなくても保証契約を解約することができます。
➂保証限度額と保証期間の定めのない個人信用保証では、保証人が死亡した時、その後に生じた債務については、特段の事情がない限り、相続人はこれを承継負担することはありません(最判S37.11.9)。
個人根保証契約
個人根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないものをいいます(民法465条の2第1項)。
個人根保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(要式行為 民法446条2項、3項)。
極度額(継続的取引から生じる債務の上限)を定めなければ無効となります(民法465条の2第1項、第2項)。
個人貸金等根保証契約
個人根保証契約のうち、主たる債務に貸金債務又は手形割引に係る債務が含まれているものを個人貸金等根保証契約といいます(民法465条の3第1項)。
主たる債務の元本確定期日は根保証契約締結の日から5年以内の日に定める必要があります(民法465条の3第1項)。
事業に係る個人保証
「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」と「主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」については、次の制約が課されています。
➀保証契約の締結に先立ち、保証人となろうとする者が、その締結の日前1か月以内に作成された公正証書(保証意思 宣明公正証書)で保証債務を履行する意思を表示しなければ保証契約は効力を生じません(民法465条の6第1項)。
ただし、個人保証人が経営者保証をするときなどは公正証書の作成は必要ありません。
➁主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は、主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対して次の事項に関する情報を提供するぎむがあります(民法465条の10第1項)
・財産および収支の状況
・主たる債務意外に負担している債務の有無、その額、履行状況
・主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがある時は、その旨及びその内容
質権
質権とは、債権者が債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を留置して被担保債権の弁済を間接的に強制し、被担保債権が弁済されない場合は、その物の交換価値から優先的に自己の債権の満足を受けることができる物権です(民法342条、347条)。
質権の成立
質権は、質権者と質権設定者との質権設定契約により成立します。
債務者に限らず第三者(物上保証人)も質権設定者となることができます。
質物の占有
質権が成立するには、質物の占有が質権者に移転する必要があります(要物契約)。
この占有移転には占有改定(民法183条)は含まれません。
質権の対抗要件
質権を第三者に対抗するには、質物である動産の占有を継続する必要があります(民法352条)。
質権者が質権設定後に質物の占有を失ったときは質権を第三者に対抗できなくなります。
ただし、質権者が第三者によって占有を「奪われた」ときには、占有回収の訴え(民法200条)によって質物を取り戻すことができます。
抵当権・根抵当権
抵当権とは、債務者又は第三者(物上保証人)が担保に供した不動産等の目的物について、担保提供者にその使用収益を認めながら、債務不履行のときにその目的物を換価した代金や(担保不動産競売)又は、不動産から生じる収益(担保不動産収益執行)から優先弁済を受けるものです。
根抵当権とは、継続的取引から生じる多数の債務を担保するため、極度額の限度で包括的に担保する抵当権のことです。根抵当権の被担保債権となるのは、➀債務者との特定の継続的取引から生じる債権(民法398条の2第2項)、➁債務者との一定の種類の取引から生じる債権(民法398条の2第2項)、③取引以外の特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生じる債権(民法398条の2第3項)、④手形上の請求権、小切手上の請求権、電子記録債権(民法398条の2第3項)です。
(根)抵当権の設定
(根)抵当権は先に登記されたものから優先的に弁済を受けることになります。そこで取引先が有する対象となる不動産の不動産全部事項証明書を取得し、乙区欄を確認して先に(根)抵当権が設定されていないか調査します。先に登記された(根)抵当権がある場合、先順位の(根)抵当権が実行されても対象となる不動産に担保としての余力があるのかを確認します。
根抵当権については、乙区欄に「根抵当権確定」、「根抵当権一部移転」という記載があり、根抵当権者として信用保証協会が登記されているときは注意が必要です。信用保証協会は、事業者が金融機関から融資を受ける際に信用保証を通じて融資をサポートする機関ですが、事業者が返済できないときには事業者に代わって金融機関に返済します。したがって、根抵当権の一部が信用保証協会に移転しているとは、取引先が金融機関への返済ができなくなったことを表します。
(根)抵当権を設定することになったら、取引先と(根)抵当権設定契約を締結します。根抵当権の設定契約では、被担保債権の範囲を明示するようにします。例えば「売掛債権」、「手形債権」、「小切手債権」、「電子記録債権」※は全て取引先に対する債権ですが、法律上は別個の債権として取り扱われます。したがって、被担保債権の範囲には取引先との間に生じる債権を個別に記載するようにします。また、取引先の与信限度額を超える極度額を設定しておかないと根抵当権で担保できない債権が生じることになります。
譲渡担保
譲渡担保とは、債権者が債務者に対する債権を担保するため、物の所有者または権利者が、物の所有権または権利を債権者に移転することをいいます。集合動産や集合債権など、典型担保である抵当権で担保化できない財産を担保化することができます。取引先が期限までに支払いをしないときは、譲渡担保が設定されている物を所有権に基づき引き上げて換価し、債権を回収することになります。
動産譲渡担保
取引先が事業で使用する工作機械等の動産が換価価値を有する場合、動産譲渡担保を設定してもらいます。動産譲渡担保の対抗要件は「引渡し」です。もっとも、動産譲渡担保は、取引先に対象となる物の使用を許すことが前提となるため「占有改定」(民法183条)によって引き渡しを受けるようにします。また、取引先が同種の物を複数所有するときは、契約書等で譲渡担保の目的となる物を特定するようにします。
集合動産譲渡担保
取引先が入れ替わりはあるものの一定数の在庫商品を保有している場合、その在庫商品に一括して集合動産譲渡担保を設定してもらいます。集合動産譲渡担保においても「占有改定」によって引き渡しを受けるようにします。集合動産譲渡担保では、取引先が通常の営業の範囲で対象となる商品等の販売を許すことになるため、取引先には販売した物を補充することを義務付けます。取引先が法人であれば、動産譲渡登記を利用することによっても対抗要件を備えることができます。
占有改定後に集合物に加わる個々の物については、その都度占有改定がなくとも、集合物を対象とする当初の占有改定によって抵抗要件具備の効力が及ぶとされています(最判S62.11.10)。
譲渡担保権設定者が目的動産を弁済期前に第三者に譲渡した場合、当該譲渡担保について対抗要件(占有改定、動産譲渡登記)が具備されていれば他人物の譲渡になりますが、第三者は即時取得(民法192条)により動産の所有権を原資取得する可能性があります。
集合債権譲渡担保
取引先に目ぼしい不動産、動産はないが、売掛金がある場合は、その売掛金に集合債権譲渡担保を設定してもらいます。集合債権譲渡担保の対象となる債権は、第三債務者(売掛先)の名称や債券の種類・発生時期等で特定します。取引先と第三債務者との間で債権譲渡制限特約が締結されていると、第三債務者から支払いを受けることはできなくなるため、そうした特約が締結されていないことを確認します。
所有権留保
取引先に売り渡した商品につき、取引先から売買代金全額の支払いがあるまで当該商品の所有権を自社に留保することで売買代金債権を確保します。
車をローンで購入したときに、ローンを完済するまで車の所有権がクレジット会社等に留保されているのが典型です。
(車の車検証には車の所有者としてクレジット会社等が、使用者として車を購入した者の名前が記載されています)
債権質権
取引先がテナントで入っているビルの賃貸人に入居保証金等を差し入れている場合に入居保証金返還請求権に質権を設定することで、取引先がテナントから退去するときに入居保証金等から債権を回収します。
動産質権
取引先に換価価値があり、かつ手元になくても業務に支障がない動産がある場合、動産に質権を設定します。
債権の管理
時効の管理
消滅時効
債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
権利を行使することができる時から10年
いずれかの早い方が経過することにより時効が完成します(民法166条第1項)。
ただし、消滅時効の期間を経過しても、債務者が時効を援用(債権者に対して時効完成を主張すること)しなければ、債権者は権利を主張することができます(民法145条)。
時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、一定の事由がある場合に、その事由が消滅するか消滅から一定期間が経過するまでは時効が完成しないことです。
➀裁判上の請求、➁支払督促、③裁判上の和解、民事調停、家事調停、④破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加については、その終了の時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません。(民法147条1項)。
➀強制執行、➁担保権の実行、民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売(形式競売)、④民事執行法196条に規定する財産開示手続、同法204条に規定する第三者からの情報取得手続については、その事由が消滅するまでは時効は完成しません(民法148条1項)。
➀仮差押え、➁仮処分については、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法149条1項)。
催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しませんが(民法150条1項)、催告によって時効の完成が猶予されている間に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力は有しません(同条2項)。
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は完成しません(民法151条1項)。
➀その合意があった時から1年を経過した時
➁その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
➂当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時
時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、時効の完成猶予の効力を有しますが、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができません(同条2項)。
催告によって時効の完成が猶予されている間に協議を行う旨の合意をしても、時効の完成猶予の効力はありません(同条3項)。
時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効の完成は猶予されます(民法158条1項)。
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます(民法159条)。
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます(民法160条)。
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため裁判上の請求等、時効の完成を猶予させる手続きができないときは、その障害が消滅した時から3か月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます(民法161条)。
時効の更新
時効の更新とは、一定の事由の発生によって、時効期間が0にリセットされることです。
➀裁判上の請求、➁支払督促、③裁判上の和解、民事調停、家事調停、④破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加については、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、各事由の終了まで時効の完成が猶予された上で、各事由の終了後後に時効期間が新たに進行することになります(民法147条2項)。
➀強制執行、➁担保権の実行、民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売(形式競売)、④民事執行法196条に規定する財産開示手続、同法204条に規定する第三者からの情報取得手続については、時効は、各事由が終了した時から新たにその進行を始めます。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、時効は更新されません(民法148条2項)。
権利の承認があったときは、時効は更新されます(民法152条1項)。
公正証書の作成
取引先が債務を認めているときは債務の確認、今後の支払方法を記載した公正証書を作成します。
債務者が強制執行を認諾する文言(強制執行認諾文言)が記載されると金銭債権について執行力のある債務名義となります(金銭支払債務のみ)。
公正証書を作成すると謄本と正本が交付されます。謄本とは、原本の内容を同一の文字記号によって全部写したもので、原本の内容を証明するために作成される書面です。正本は謄本の一つで、特に権限のある者が原本に基づき作成し、外部的には原本と同一の効力を持って通用するものです。
公正証書に基づき強制執行をするには正本が必要たなめ、自社は正本を取得するようにします。
また、強制執行に際しては、相手方(取引先)に債務名義(ここでは強制執行認諾文言が付いた公正証書)が送達されている必要があります。そこで、公証人には、謄本を相手方に送達してもらうよう申請します。
債権の回収
債権の保全
取引先が任意に売掛金の支払いに応じないときは、最終的には訴訟を提起して債権を回収する必要があります。
しかし、訴訟を提起し、判決を取得するまでに取引先が在庫等を処分してしまうと、勝訴判決を取得しても債権を回収することが困難となることがあります。
そこで、将来の強制執行に備えて、保全手続により取引先が在庫等を処分することできないようにしておきます。
保全手続には、「金銭の支払いを目的とする債権」について、将来の強制執行の実効性を担保するため、取引先の財産の現状を凍結する仮差押と、「金銭の支払いを目的とする債権以外の債権」について、取引先に権利の実現を妨害されないようにする仮処分があります。
仮差押え
債権者の金銭債権による将来の強制執行に備えて、仮差押えにより債務者の財産処分を禁止します。
仮処分が認められるためには、➀被保全債権の存在と、➁保全の必要性が認められる必要があります。
被保全債権の存在
仮差押は「金銭の支払いを目的とする債権」について認められるため、➀被保全債権の存在とは、売掛金等の存在が分かる注文書、注文請書、請求書を準備する必要があります。
保全の必要性
仮差押は、将来強制執行ができなくなるおそれがあるときに認められるため、➁保全の必要性とは取引先の財務内容が悪化したことが分かる資料、すなわち信用調査会社の調査報告書や、営業担当者の報告書等を準備する必要があります。
仮差押の対象
仮差押の対象には制限がないため、取引先が所有する不動産や在庫商品等の動産が対象となります。
ただし、在庫商品等を仮差押すると、取引先の事業の継続に重大ない影響を与える場合があります。
そのため、取引先の本店所在地の不動産全部事項証明書を先に提出させ、在庫商品等の動産類以外に差押えることができる資産がないことを明らかにさせる裁判所もあります。
保証金
仮差押により取引先が被る損害を担保するため、申立にあたっては保証金(担保)の供託が必要となります。
保証金の額は裁判所の自由な裁量により決定されますが、凡その目安は次のとおりです。
(被保全債権が貸金、賃料、売買代金その他)
(差押対象物)
動産 10~30%
不動産 10~25%
預金給料 10~30%
(司法研修所 民事弁護教材 改定民事保全(補訂版))
仮処分
抵当権設定契約を締結したにもかかわらず、取引先が登記手続に協力せず、当該不動産を第三者に売却する恐れがある場合、予め取引先のそうした行為をできないようにする必要があります。
債権者の金銭債権以外の権利の強制執行に備えて、仮処分により債務者の一定の処分を禁止します。
仮処分には、➀処分禁止の仮処分、➁占有移転禁止の仮処分、➂仮の地位を定める仮処分などがあります。
仮処分が認められるためには、➀被保全債権の存在と、➁保全の必要性が必要とされます。
被保全債権の存在
金銭債権以外の債権が存在することが必要です。
保全の必要性
保全の必要性とは、目的物の現状の変更により債権者(当社)が権利を行使することができなくなるおそれがあるとき、または権利を行使することが著しく困難になるときに認められます。
また、債権者に生じる損害又は急迫の危険を避けるために必要なときにも保全の必要性が認められます。
保証金
➀処分禁止の仮処分は、債務者(取引先)の目的物の処分を禁止するものであることから、保証金は仮差押えと同様に考えられています。
➁占有移転禁止の仮処分の保証金は、目的物の価額又は他に賃貸できないことにより得ることのできない金員を金純に考えられています。
➂仮の地位を定める仮処分の保証金については、一律に算定することが困難ですが、申立内容に応じた一応の目安があるといわれています。
担保による回収
担保不動産競売
抵当権の実行として担保不動産競売の申立てを行い、配当から債権を回収します。
手続きの流れ
申立て
不動産執行の申立ては、書面でしなければなりません。申立ては、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)にする必要があります。
開始決定・差押
裁判所は、申立てが適法にされていると認められたときは、不動産執行を始める旨及び目的不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行います。
売却の準備
裁判所は、執行官や評価人に調査を命じて目的不動産について詳細な調査を行い、買受希望者に閲覧してもらうための三点セット(物件明細書、現況調査報告書、評価書)を作成します。
さらに、裁判所は、評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めます。売却基準価額は、不動産の売却の基準となるべき価額です。入札は、売却基準価額から、その10分の2に相当する額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。
売却の実施・不動産の引渡し
売却の準備が終わると、裁判所書記官は、売却の日時、場所のほか、売却の方法を定めます。
売却の方法はいろいろありますが、第1回目の売却方法としては、定められた期間内に入札※をする期間入札が行われています。
※
入札は、公告書に記載されている保証金を納付し、評価人の評価に基づいて定められた売却基準価額から、その10分の2に相当する額を控除した価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。
落札できなかった場合には、保証金は返還されます。入札の取消しなどは一切できません。
また、ご自身が暴力団員でないこと等を書面で陳述する必要があります。
予納金
請求債権額が2000万円未満
・・・80万円
請求債権額が2000万円以上5000万円未満
・・・100万円
請求債権額が5000万円以上1億円未満
・・・150万円
請求債権額が1億円以上
・・・200万円
(参照:裁判所・不動産競売手続について)
任意売却
担保不動産の所有者が第三者に不動産を売却し、売却代金を順位に従って抵当権者に分配し、全ての抵当権を抹消するものです。
担保不動産競売より高く売却できることが期待でき、高額の予納金も不要です。
担保不動産収益執行
担保不動産収益執行とは,抵当権者等が,抵当不動産の収益価値から優先的な満足を得るための手続です。
抵当権者等の申立てに基づき,執行裁判所が,収益執行の開始決定をし,かつ,管理人を選任します。
あわせて,この抵当不動産の賃借人等に対して,その賃料等をこの管理人に交付するよう命じます。
この管理人が執行裁判所の下で,賃料を回収しますし,そのほかに事案に応じた手続をします。
その後,執行裁判所の定める期間ごとに,管理人又は執行裁判所は,債権者に対する配当等を行います。
(参照:裁判所・新法により設けられた新しい民事執行手続の概要)
物上代位
抵当権者は、競売申立をしない場合も、物上代位により抵当不動産の賃料債権等を差押えることができます(民法372条・同304条)。
物上代位の対象
賃料債権
抵当不動産が賃貸された場合、抵当権者は、設定者が有する賃借人に対する賃料債権に対して物上代位することが認められます(最判H1.10.27)。
ただし、転賃料債権に対する物上代位については、転賃料債権は抵当権設定者が直接取得する債権ではないため、原則として物上代位は否定され、抵当不動産の賃借人(転貸人)を所有者(設定者)と同視できることが相当である場合に限り物上代位ができるとされています(最決H12.4.14)
損害賠償請求権・損害保険金請求権
損害賠償請求権・損害保険金請求権は目的不動産の交換価値に対して代替性を有するため、物上代位が認められます。
売買代金債権
抵当不動産が売買されても買主の下で抵当権は存在し(抵当権の追及効)、抵当権者は買主の下で抵当権を実行することができます。
したがって、売買代金債権には物上代位は認められません(認める必要がありません)。
物上代位の要件
抵当権者が賃料債権等の価値代替物に物上代位をするには、抵当権者は、その払渡し又は引渡の前に差押えをしなければなりません(民法372条・同304条1項但書)。
質権の実行
質物の競売
質権者は、被担保債権の弁済を受けられないときは、民事執行法の定める手続きにより質物を競売し、その売却代金から被担保債権を優先的に回収することになります。
動産質権の簡易な充当方法
競売費用に比べて動産の価値が僅少であるなど、正当な理由があるときは、質権者は、債務者に通知をした上で、裁判所に請求して、裁判所の選任した鑑定人の鑑定に従い、質物を弁済に充てることができます(民法354条)。
この場合、差額が生じれば債務者に返還します。
債権質権の簡易な充当方法
➀債権質権者は、質権の目的である債権を、自己の名で直接、第三債務者から取り立てをすることができます(直接取立権 民法366条1項)。
➁質権の目的が金銭の場合は、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てて被担保債権に充当することができます(同条2項)。
➂債権の目的物が金銭でないときは、質権者は弁済として受け取った物について質権を有することになります(同条4項)。
不動産質における担保不動産収益執行
不動産質では、競売のほか、担保不動産収益執行の申立ができます。
流質契約の禁止
質権者に質物の所有権を取得させる流質契約については、設定契約時や弁済期前の契約において、質権者と質権設定者が合意をしても、当該合意は一律に無効とされています(民法349条)。
債務の弁済期後の流質契約は原則として有効ですが、当該合意が公序良俗に反して無効とされることがあります。
(集合)動産譲渡担保
債務者(取引先)に実行通知書を送付することで対象動産の所有権を確定的に取得します。
集合債権譲渡担保
取引先から予め預かっていた債権譲渡の通知書の空欄を補充の上、第三債務者に配達証明付内容証明郵便で送付します。
債権譲渡登記を利用している場合、債権譲渡登記所から登記事項証明書を取得の上、第三債務者に配達証明付書留郵便で送付します。
債権質権
質権者は、質権の目的である債権を第三債務者から直接取り立てることができます(民法366条第1項)。
動産質権
競売費用に比べて質物の価額が僅少などの正当理由があるときは、債務者に通知したうえで、裁判所に請求してその選任を受けた鑑定人の評価に従い質物を弁済に充てることができます(民法354条)。
動産売買先取特権
法定の担保物件のため担保契約は不要です。
取引先にある商品についてその所在地を管轄する地方裁判所の執行官に動産競売の申立てを行います。
動産競売の開始決定がなされるのは、➀債権者が執行官に当該動産を提出した場合、➁債権者が執行官に当該動産の占有者が差押を承諾したことを証する文書を提出した場合、➂債権者が執行官に、執行裁判所による動産競売開始許可決定書の謄本を提出し、かつ執行官が目的物を捜索する前にその許可決定が債務者に送達された場合、のいずれかの場合です。
動産が第三者に転売され引き渡されていた場合
動産が第三者に転売され引き渡されていた場合で、第三者から取引先に売買代金が支払われていないときは、動産売買先取特権に基づく物上代位により売買代金債権の差し押さえを検討します。
この場合、売買代金が取引先に支払われる前であることに加え、担保権の存在を証明する文書を提出することが必要となります。
具体的には、➀担保権の存在、➁被担保債権の存在、➂弁済期の到来、を裁判所に証明します。
どのような書面で上記➀~➂を証明するのかについては、個別具体的に検討する必要がありますので、弁護士に相談する方が無難です。
留置権
他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまでその物を留置することで、債権の弁済を心理的に強制することができます。
民事留置権(民法295条第1項)は優先弁済権能がなく、また取引先について破産手続が開始した場合、留置権は効力を失い、一般債権者として扱われます(破産法66条第3項)。
商事留置権(商法521条)は取引先について破産手続きが開始した場合も別除権として扱われ、破産手続きによらず留置目的物について競売申立等ができます(破産法66条第1項)。
責任財産の保全
債権者代位権
取引先が売掛金や物の引き渡し請求権を有しているにもかかわらず権利を行使していないときに、債権者は自己の債権を保全するために必要があるときは、債務者(取引先)が有する権利を代わりに行使することができます(改正民法423条第1項)。
債権者取消権
経営が苦しくなった取引先が他の取引先に優先的に担保を提供し、または商品を無償で譲渡することで他の債権者の権利を害しているときに当該行為の効力を否認して責任財産の維持を図ることができます。
代物弁済
弁済者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をして弁済者が当該他の給付をすると弁済と同一の効力を有します(民法482条)。
相殺
取引先に買掛金がある場合、売掛金と相殺することで買掛金と対等額の売掛金を実質的に回収するものです。
買掛金がない場合商品を仕入れるなどして買掛金を作れないか検討します(但し取引先が倒産等した場合破産管財人から否認権を行使されるおそれがあります)。
債権譲渡
取引先が第三債務者(他の取引先)に売掛金を有している場合に売掛金の譲渡を受けて債権を回収します。
ただし、債権に債権譲渡制限特約が付されているときは、譲受人(当社)が債権譲渡制限特約について悪意又は重過失があるときは債務者(取引先の売掛先)は譲受人への支払いを拒絶することができ、かつ譲渡人(取引先)に対する弁済等の債務消滅事由をもって譲受人に対抗することができます。
商品の引上げ(代物弁済)
納品した商品が取引先にある場合、商品の引上げを検討します。
ただし、取引先の倉庫などに立ち入り、取引先の承諾なく商品を引き上げると建造物侵入罪や窃盗罪に問われるおそれがあります。
そこで、売買契約の合意解除を内容とする書面、商品の引上げについての取引先の同意書を準備の上、取引先の担当者から上記書面に署名・押印を受けてから商品を引き上げることにします。
取引先の倉庫に自社が納品した商品はないが、換価できる動産があるときは、代物弁済により当該動産を引き上げます。
代物弁済で動産を受領する時には、➀動産の範囲、➁動産の評価額、を明記した書面を作成し、取引先の担当者から署名押印をもらうようにします。
裁判による回収
支払督促
取引先の所在地を管轄する簡易裁判所に支払督促の申立てをします。
支払督促の手数料は訴訟の半分です。
支払督促の申立てを受けた裁判所書記官は、申立書類に不備がなければ取引先に支払督促の正本を送達します。
送達されてから2週間以内に取引先が督促異議の申し立てをすれば、支払督促は失効し、通常の訴訟に移行します。
他方、取引先が2週間を経過しても督促異議の申し立てをしないときは、その2週間を経過した日から30日以内に簡易裁判所に仮執行宣言の申立てをします。
申立書面に不備がなかれば、仮執行宣言付支払督促が出されます。
仮執行宣言付支払督促は債務名義となるため、取引先に対する強制執行が可能となります。
少額訴訟
少額訴訟は売掛金(債権)が60万円以下のときに利用ができます。
少額訴訟は原則として1回の審理で結審し、その日のうちに判決が出されます。
したがって、証拠は全て第1回目の期日までに提出する必要があります。
少額訴訟では、裁判所は被告の資力その他の事情を考慮して3年を超えない範囲で支払いを猶予したり、カップによる支払いを命じることができます。
少額訴訟では、被告が少額訴訟で審理されることに異議を述べたときには、通常の訴訟に移行します。
なお、同一の簡易裁判所に少額訴訟を申立ができるのは年10回までです。
手形訴訟
手形取引において、取引先から受け取った手形が不渡りになったときは、裏書人に遡求します。
裏書人へ遡求するためには、支払呈示期間内に振出人に支払呈示をしたにもかかわらず、支払拒絶されたことが必要となります。
振出人に支払拒絶されたときは、裏書人に対して、➀支払拒絶された事実、➁裏書人に対して遡求することを通知します。
なお、手形が不渡りになる理由には次の3つがあります。
1号不渡り
手形の振出人の資金不足を理由とする不渡りです。
2号不渡り
手形が偽造された、盗難になったなどを理由とする不渡りです。
2号不渡りでは振出人は異議申立と共に、異議申立預託金を預託しているため異議申立預託金からの債権回収を検討することになります。
0号不渡り
手形の形式不備や、民事再生等により裁判所の保全処分を受けたことを理由とする不渡りです。
振出人が支払拒絶し、裏書人も遡求に応じないときは、手形訴訟を提起します。
➀振出人、➁裏書人、➂振出人及び裏書人いずれかを被告とします。
手形訴訟の訴状には、「この心理及び裁判は手形訴訟によることを求める」と記載する必要があります。
(記載がないと通常の訴訟で審理されてしまいます)
手形訴訟は、原則として1回の審理で結審し、判決には仮執行宣言が付くため、被告が判決に定められた債務を履行しないときは強制執行により債権を回収することになります。
訴え提起前和解(即決和解)
金銭支払債務以外の債務(商品の引渡し、建物の明渡し等)の履行について取引先と合意できている場合は簡易裁判所の訴え提起前の和解(即決和解)(民訴法275条)を利用します。
当事者間に合意があり,かつ,裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し,合意内容が和解調書に記載されることにより,確定判決と同一の効力を有することになります(民訴法267)。
訴え提起前の和解の申立てから和解期日まで平均1か月半から2か月程度を要します。
したがって,建物等の明渡し,金銭の支払を要する和解については,この点を考慮に入れて明渡日や支払日を検討する必要があります。
訴訟の提起
請求する金額が140万円以下のときは簡易裁判所に、140万円超のときは地方裁判所に訴訟を提起します。
訴訟は、原告が裁判所に訴状を提出することにより始まります。
原告の訴状に対して、被告は答弁書を提出し、法廷における審理(口頭弁論)をつうじて争点が明らかになり、判決により裁判所の判断が示されます。
訴訟の進行状況によっては裁判所から和解を提案されることがあります。
原告及び被告が和解に同意すれば和解により訴訟手続は終了します。
強制執行
強制執行の要件
強制執行をするには、➀債務名義があること、➁執行分の付与、が必要です。
債務名義(民事執行法22条)
1 確定判決
2 仮執行の宣言を付した判決
3 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
3の2 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
3の3 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
4 仮執行の宣言を付した支払督促
4の2 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律第29条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分
5 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの
6 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
6の2 確定した執行決定のある仲裁判断
6の3 確定した執行等認可決定のある仲裁法第48条に規定する暫定保全措置命令
6の4 確定した執行決定のある国際和解合意
6の5確定した執行決定のある特定和解
7 確定判決と同一の効力を有するもの(第3号に掲げる裁判を除く。)
執行文
執行文とは、債務名義の執行力の存在と範囲を公証する文言または文書で、債権者が債務者に対してその債務名義により強制執行することができる旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法で付与されます(民事執行法26条2項)。
執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与します(同条1項)。
不動産の強制執行
不動産の強制執行の流れはつぎのとおりです。
➀申立て
申立ては,目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所にします。
申立てにあたって必要な書式例等は,東京地方裁判所ウェブサイトや大阪地方裁判所ウェブサイトに掲載されています。
➁開始決定・差押え
申立てが適法にされていると認められた場合は,裁判所は,不動産執行を始める旨及び目的不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行います。
開始決定がされると,裁判所書記官が,管轄法務局に対して目的不動産の登記簿に「差押」の登記をするように嘱託をします。また,債務者及び所有者に開始決定正本を送達します。
➂売却の準備
裁判所は,執行官や評価人に調査を命じ,目的不動産について詳細な調査を行い,買受希望者に閲覧してもらうための三点セットを作成します。
三点セットとは,➀土地の現況地目,建物の種類・構造など,不動産の現在の状況のほか,不動産を占有している者やその者が不動産を占有する権原を有しているかどうかなどが記載され,不動産の写真などが添付された「現況調査報告書」,➁競売物件の周辺の環境や評価額が記載され,不動産の図面などが添付された「評価書」,➂そのまま引き継がなければならない賃借権などの権利があるかどうか,土地又は建物だけを買い受けたときに建物のために底地を使用する権利が成立するかどうかなどが記載された「物件明細書」です。
さらに,裁判所は,評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めます。
売却基準価額は,不動産の売却の基準となるべき価額です。入札は,売却基準価額から,その10分の2に相当する額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。
➃売却実施
売却の準備が終わると,裁判所書記官は,売却の日時,場所のほか,売却の方法を定めます。
売却の情報を広く提供するため,インターネット上の不動産競売物件情報サイトBITで売却物件の情報を提供しています。
➄入札、所有権移転
入札は,公告書に記載されている保証金を納付し,売却基準価額から,その10分の2に相当する額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。
最高価で落札し,売却許可がされた買受人は,裁判所が通知する期限までに,入札金額から保証金額を引いた代金を納付します。
所有権移転などの登記の手続は裁判所が行います。ただし,手続に要する登録免許税などの費用は買受人の負担となります。
➅不動産の引渡し
引き続いて居住する権利を主張できる人が住んでいる場合には,すぐに引き渡してもらうことはできません。
そのような権利を主張することができない人が居住している場合には,その人に明渡しを求めることができます。
この求めに応じないときは,代金を納付してから6か月以内であれば,執行裁判所に申し立てて,明渡しを命じる引渡命令を出してもらうことができます。この引渡命令があれば,執行官に対し強制的な明渡しの手続をとるように申し立てることもできます。
➆配当
裁判所が,差押債権者や配当の要求をした他の債権者に対し,法律上優先する債権の順番に従って売却代金を配る手続です。原則として,抵当権を有している債権と,債務名義しか有していない債権とでは,抵当権を有している債権が優先します。また,抵当権を有している債権の間では,抵当権が設定された日の順に優先し,債務名義しか有していない債権の間では,優先関係はなく,平等に扱われます。
債権に対する強制執行
➀申立て
申し立てる裁判所は,債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
債務者の住所地が分からないときは,差し押さえたい債権の所在地(例えば給料を差し押さえる場合は債務者の勤務する会社の所在地,銀行預金を差し押さえる場合はその銀行の所在地を管轄する地方裁判所となります。
差押えの対象となる債権が現実に存在するかどうか,存在するとしてその額等を知りたい場合には,陳述催告の申立て(第三債務者に対して,差押債権の有無などにつき回答を求める申立て)をすることができます。
陳述催告の申立ては,債権差押命令申立てと同時に行います。
※ 申立てにあたって必要な書式例等は,東京地方裁判所ウェブサイトや大阪地方裁判所ウェブサイトに掲載されています。
➁差押命令
裁判所は,債権差押命令申立てに理由があると認めるときは,差押命令を発し,債務者と第三債務者に送達します。
➂差押え
給料差押えの場合,原則として相手方の給料の4分の1(月給で44万円を超える場合には,33万円を除いた金額)を差し押さえることができます。ただし,相手方が既に退職している場合などには,差押えはできません。
※ 養育料等を請求する場合には特則があります。
➃取立て(又は配当)
債権差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過したときは(ただし,給料差押えの場合については,養育費などを請求する場合を除いて4週間),債権者はその債権を自ら取り立てることができます。
ただし,第三債務者が供託をした場合は,裁判所が配当を行うので,直接取り立てることはできません。
第三債務者から支払を受けたときには,直ちにその旨を裁判所に届け出ます。
担保不動産収益執行
担保不動産収益執行手続は,担保権者(抵当権者等)が,担保不動産から生ずる収益(賃料等)から債権の回収を図る担保権の実行手続の一つで,担保権者の申立てに基づき,執行裁判所が,収益執行の開始決定をし,かつ,管理人を選任します。
あわせて,担保不動産の賃借人等に対して,その賃料等をこの管理人に交付するよう命じます。
この管理人が執行裁判所の下で,賃料の回収そのほか,事案に応じた手続をします。
その後,管理人又は執行裁判所は,債権者に対する配当等を行います。
裁判所・民事執行手続
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