解決事例
(実際の事件の一部を修正してご紹介しています)
当事務所のホームページを見たと言ってA子さんが相続の相談に見えられました。
亡くなったのはA子さんのご主人で内科を開業していた甲先生。
甲先生は生涯現役を貫かれ、亡くなる半年前まで診療をしていたということです。
相続人は妻のA子さんのほか、勤務医で長男のBさん、Bさんの妹で専業主婦のC子さんの3人でした。
A子さんの相談は、これから相続手続をどのように進めたらいいのかといった一般的な内容でした。
A子さんは手書きの財産目録を持参していたので、その目録を見ながら説明をすることにしました。
ところが、目録の内容を確認してみると、おかしなことに気づきました。
甲先生の相続財産には自宅や開業していたクリニックの不動産が含まれておらず、代わりに数年前に購入したワンルームマンションがありました。
さらに、現預金も生涯現役で活躍された開業医の先生としては少し少ない気がしました。
こうしたことをA子さんに確認すると、自宅とクリニックの不動産は数年前、相続時精算課税を使って甲先生がA子さんに贈与をしたということが判明しました。
そして同じころ、甲先生はワンルームマンションを購入していたのです。
甲先生が自宅やクリニックの贈与、マンションの購入をしたのは甲先生のゴルフ仲間の紹介でやってきた「相続のプロ」と称する乙のアドバイスによってでした。
乙は甲先生に対して、自宅やクリニックの土地はこれから必ず評価が上がるから今のうちの奥さんに生前贈与しておかないと相続税を払えなくなるとアドバイスしたそうです。
またワンルームマンションを購入することで家賃を得られるようにしておけば、医者の仕事ができなくなっても困らないと言って乙は知り合いの不動産業者を甲先生に紹介したそうです。
しかし、被相続人の配偶者は1億6,000万円、又は法定相続分までの財産を相続しても相続税はかかりません。
さらには、相続の時に自宅の土地が甲先生のものであれば小規模宅地の特例が適用され、330㎡まで80%評価額を圧縮することができたのです。
クリニックの土地も長男で勤務医のBさんがクリニックを継ぐという話であれば、同じく小規模宅地の特例が適用され、400㎡まで80%評価額が圧縮できたかもしれません。
したがって、甲先生から妻のA子さんに対する自宅とクリニックの生前贈与は、単なる無駄を通り越した、やっていはいけない相続対策だったのです。
同様に、甲先生はワンルームマンションなどを購入しなくとも、老後を過ごす金融資産を十分保有していたので、いつ医者の仕事ができなくなっても困らないはずでした。
A子さんの話を聞くと、乙なる人物は甲先生にマンションを売りつけることを目的に近づいてきたのではないかと思われました。
甲先生には年1回、申告の時だけ依頼する税理士がいましたが、甲先生は税理士に相談しなかったそうです。
しかし、覆水盆に返らず。
乙のアドバイスは「不当」ですが「不法」ではないため乙の責任を追及することは困難です。
やむを得ずA子さんに加えてBさん、C子さんとも協議し、相続税の負担が最小となる遺産分割案を考えることにしました。
3人は仲が良く、また皆さんお金に対する執着がないこともあり、遺産分割はすぐにまとまりました。
その上で、A子さんの相続に備えて自宅とクリニックをBさんに相続する遺言を作成しました。
開業して成功している医者は金融機関の重点的な営業対象となったり、乙のような自称「相続のプロ」に狙われたりします。
対策を実行する前には、セカンドオピニオンを求めることが肝心だと思える事件でした。
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