解決事例

(実際の事件の一部を修正してご紹介しています)

 

認知症の父が業者に騙されて3棟のアパートを建築する契約を結んでしまった、というのがAさんの相談の内容でした。

 

Aさんと、父のBさんは隣同士の別々の家で暮らしています。

Bさんはもともと大地主の家系で、家の周りに田畑をいくつも所有していました。

Bさんは妻を亡くしてから物忘れが始まり、最近、お医者さんに初期の認知症と診断されていました。

それでも日常生活は何とかできるので、施設に入らず、オール電化やバリアフリーにして自宅で一人で暮らしていました。

 

ふだんAさんは、Bさんと週に何度か顔を合わせる程度でしたが、先日自宅に行ってみると、仏壇の前に見たことがない契約書が置かれているのに気づきました。

契約書にはテレビでもよくCMで見かける大手デベロッパー(「C社」とします)の名前が書いてあります。

不審に思ってAさんが中身を見てみると、C社がBさんからアパート3棟の建築を請け負い、アパートが完成するとC社が家賃保証をしながらアパートの管理と貸出しを行うと書いた契約書が出てきました。

 

Bさんが暮らす町は周辺を山に囲まれたのどかな農村で、最寄りのJRの駅までは車で10分ほどかかり、近くに大きな会社や学校は見当たりません。

とてもアパートを3棟も建築しても借り手がいるとは思われませんでした。

AさんがBさんになぜこんな契約をしたのかと質すと、営業に来た女性が家賃保証があるから心配しなくていいし、アパートを建てると相続税対策になるから安心だと説明したそうです。

契約書に印をつく前、Bさんが念のためにAさんに相談したいというと、女性はBさんは自分で判断できるから相談しなくていいといって急かしたそうです。

 

Aさんが持参した契約書を確認すると、最初の家賃が保証されるのは10年だけで、その後は双方の協議で家賃を決めることになり、実質的に無保証になることが判明しました。

アパートの請負代金も相場よりずいぶんと高く、建物はその値段に見合わない安普請でした。

担当者はこうした事実を一切説明せずに契約を急かしていたことも判明しました。

 

テレビCMを流しているC社が、詐欺まがいの営業をしていることに驚きましたが、契約を解除するとなると少々骨が折れそうでした。

認知症のBさんには契約締結能力がなかったとして契約の無効を主張するのか、心裡留保で無効を主張するのか、詐欺取消を主張するのか。

いろいろな法律構成が考えられますが、いずれ訴訟となってC社が全面的に争ってくると解決が長引きそうでした。

 

まず、担当者が所属する事業所の所長あてに、Bさんが認知症を患っており、契約締結当時十分な判断ができず本契約は無効であると書いた内容証明郵便を送付しました。

内容証明郵便の配達記録が返送されるのを待って所長に連絡し、面談して協議しました。

面談では担当者が重要な事項を説明しておらず、かえってBさんの誤解を招くような発言を度々していたことを指摘し、会社としてそうした営業方法が許されると考えているのか問い質しました。

所長からどのような反論が出てくるのかと身構えていると、予想に反して、本契約を全て取消すことに同意するという発言が飛び出しました。

訴訟まで覚悟していたのでこれは予想外でした、

さっそく合意取消の確認書を当事務所で作成して改めて送付することを伝えて事業所を後にしました。

 

後になって考えると、担当者の営業方法はC社の中でも問題となり、そこで問題が表面化する前に契約の取消しの応じたのではないかと思われます。

Bさんがあのままアパートを建築していれば相続税で節約できる以上のお金を失うところでした。

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