解決事例

(実際の事件の一部を修正してご紹介しています)

 

甲さんが亡くなりました。

既に奥さんが他界しているので、相続人は長男Aさん、次男Bさんの2人でした。

 

相談は次男のBさんからのもので、父が亡くなった後の遺産分割協議で、兄のAさんが父の銀行通帳を一切見せてくれないということでした。

 

Bさんが抗議すると、自宅を探したが通帳が何処にあるの分からない、父が亡くなった日の預金残高の証明書があれば遺産分割も、相続税の申告もできる、というのがAさんの言い分でした。

 

Bさんも一旦はAさんの言い分に従い預金残高証明書だけで手続を進めようとしましたが、几帳面だった父が通帳一切を何処かにやってしまったとは考えられませんでした。

 

Bさんは、自分が経営する会社の顧問税理士さんに、Aさんの言い分を伝えたところ、残高証明書があれば相続税の申告はできるのではないかと言われたそうです。

 

それでも釈然としなかったBさんは、事務所のホームページを見て相談に来られたということでした。

当事務所では、Bさんに対して、相続開始日の預金残高証明書だけでは預金の動きが分からないので、念のため預金口座の取引履歴を取得することをBさんにアドバイスしました。

 

最高裁の判決によると、共同相続人の一人は、金融機関に対して、被相続人の預金取引経過の開示請求ができるとされています(最判平成21年1月22日)。

 

そこで当事務所で改めて被相続人の戸籍を収集し、Bさんが相続人であることを明らかにした上で、被相続人の預金にかかる取引履歴を収集しました。

 

その結果、相続開始当日(被相続人が亡くなった日)に、各預金口座から数百万円単位の預金が引き出されていることが判明しました。

引出された預金の総額は2千万円を超えていました。

 

被相続人は病院で息を引き取っており、当日に本人が預金の引出しを行うことなどできませんでした。

 

消去法で考えると、預金を引出したのはAさんしか考えられません。

相続開始日の残高証明書には預金が引出された後の残高しか記載されないため、Aさんが預金の一部を隠匿するために預金残高証明書を悪用したと考えられました。

 

一つの口座から一日に50万円を超える預金が引出されていたので、引出しはATMではなく、金融機関の窓口に払戻請求書を提出して行われたことが考えられます。

 

請求書には記入した者の筆跡が残されているため、請求書を入手すればその筆跡から誰が記入したのか分かる可能性があります。

 

実際には、金融機関から請求書を入手する方法や、筆跡鑑定がどの程度の精度があるか等、問題もありましたが、まずは取引履歴から判明した事実をAさんに突き付けてはどうかとBさんに説明しました。

 

その後、Bさんは取引履歴を示したうえで、相続開始日当日に預金が引出されたことを説明し、引出しに関するAさんの関与を問い詰めました。

 

しかし、Aさんは知らない、分からいの一点張りで、最後まで自分が預金を引出したことを認めなかったそうです。

 

結局、誰が預金を引出したのかは分からないまま、引出される前の預金残高をもとに遺産分割協議、そして相続税の申告が行われました。

 

本件はこうして無事に解決しましたが、仮にBさんが預金残高証明書による遺産分割や相続税の申告に同意していれば、その後の税務調査で引出しの事実が判明し、過少申告加算税(重加算税)、延滞税が加算された可能性もありました。

オールワンへの
お問い合わせ・ご相談予約