解決事例

(実際の事件の一部を修正してご紹介しています)

 

義母の遺言作成の件で相談に来られたAさん。

Aさんによれば、義母の甲さんは現在介護施設に入所しています。

 

近年物忘れが激しくなり、初期の認知症であると主治医の診断も出ていました。

一方で、甲さんは相当な資産家であり、多数の不動産を所有していました。

 

甲さんの推定相続人はAさんの妻を含む3人の娘と、養子縁組をしたAさんの合わせて4人。

三女は、重度の知的障害があり介護施設に入所しています。

 

このまま甲さんが亡くなると相続人間で協議によって遺産を分割することになるが、障害のある三女には代理人として成年後見人が選任されることになります。

 

Aさんたちの心配は、成年後見人が遺産分割協議に参加すると、必ずしも三女以外の相続人が望む分割ができないのではないか、というものでした。

 

仮に遺産分割協議のために三女にスポットで成年後見人が選任された場合でも、他の相続人が提示した遺産分割案が三女にとって不利なものでなければ成年後見人は当該分割案に同意する可能性が高いことを説明しても、今のうちに心配事は解決しておきたいというのがAさんらの考えでした。

 

こうした場合、遺言を作成しておけば甲さんが亡くなった後、遺言どおりに遺産を分割すればよく、相続人による遺産分割協議は不要となります。

 

ところが、甲さんは手が震えるため自分で字を書くことできず、自筆証書の遺言を作ることはすでに困難ない状況でした。

 

そこでAさんらは遺言公正証書の作成を検討し、公証人と事務員に甲さんの入居施設まで出張してもらい、遺言公正証書の作成を試みましたが、甲さんが極度に緊張して公証人と十分な受け答えができず、結局、遺言公正証書の作成も断念していました。

 

そこでAさんらは当事務所に対してこうした経緯を説明したうえで、何とか甲さんが遺言を作成する方法がないのかと相談に来られました。

 

遺言には、一般的な方式で作成するものと、遺言者の死亡が間近といった状況等で作成される特別な方式のものがあります。

 

このうち、一般的な方式で作成される遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つがありますが、既にみたとおり自書が困難な甲さんは①自筆証書遺言の作成は困難です。

 

残りは②公正証書遺言と、③秘密証書遺言の2つ。

甲さんの調子がいい時に公証人に出張をお願いし、今一度公正証書遺言の作成を試みることも考えられましたが、次回は大丈夫という保障は当然ながらありません。

 

そこでAさんらと協議した結果、③秘密証書遺言を作成することにしました。

 

秘密証書遺言の作成に関する民法970条の条文は次のとおりです。

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
  1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
  3. 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと

 

甲さんは自分の名前くらいなら何とか自書できたので、1.「証書に署名し、印を押すこと」は何とかなりそうでした。

同様に、2.「証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること」も大丈夫です。

 

問題は、公証人に対して、3.「自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述する」必要がありますが、甲さん自身が作成した遺言書であれば、公証人に対して、①自分の遺言であること、筆者としての②自分の名前、③自分の住所を申述すれば足ります。

 

甲さんは初期の認知症でしたが、長年住み暮らした自分の住所は難なく言えました。

そして、4.封紙への「署名」も少し練習すれば何とかなりそうでした。

 

甲さんは改めて公証人に出張をお願いし、秘密証書遺言の作成を行うことにしました。

遺言作成日当日、証人となるため事務員を連れて甲さんが入所する施設に出向き、Aさんらと公証人の到着を待ちました。

 

やがて公証人が事務員を連れて施設に到着しました。

いよいよ遺言作成です。

 

Aさんら利害関係人は甲さんの居室から退出してもらい、居室には甲さん、公証人、その事務員、証人になる弁護士と事務員が残りました。

 

予め手交してある秘密証書遺言を指して、公証人は、甲さんに対して、この遺言はあなたのものかと質問すると、甲さんは「そうです」と回答しました。

 

次に公証人がだれが作った遺言ですが質問すると、甲さんは自分の名前と住所をすらすらと述べることができました。

そして最後の封紙への署名についても、甲さんは何とか自書することができました。

 

公証人が登場する前は、本当に甲さんが公証人との受け答えができるのか、かなり心配していましたが、ふたを開けてみるとあっけないくらいスムーズに秘密証書遺言の作成ができました。

 

こうして甲さんの秘密証書遺言は無事に作成されました。

公正証書遺言の作成ができなかった時点で遺言作成を一旦あきらめた甲さんたちでしたが、秘密証書遺言を活用することでスムーズな遺産分割といった希望がかなえられそうです。

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