解決事例
(実際の事件の一部を修正してご紹介しています)
相談者はAさん。
2年ほど前に亡くなったAさん父が残した遺言書には、相続財産のほぼすべてをAさんの兄弟であるBさんに相続させると書かれていました。
その結果、Aさんが遺言書で相続できたのは相続財産全体からみるとわずかな財産だけでした。
その当時のAさんは遺留分という権利を知らず、また、実家を継ぐBさんに遠慮して、わずかな財産を相続しただけでBさんに何かを申し述べるということは一切しませんでした。
ところが、相続税の申告が終わったころから、BさんのAさんに対する対応がそれまでと180度変わりました。
Bさんはその配偶者と一緒に、Aさんのことは昔から嫌いだった、今後は実家にも来ないでほしいといったことを言い出したのです。
おどろいたAさんは、改めて今回の相続について調べてみることにして、先に自分が押印した相続税の申告書の控えを税理士から取り寄せてみました。
申告書の金額を確認した結果、Aさんは今回の相続では自分の遺留分が兄弟のBさんによって侵害されていたことを知ったのです。
態度を豹変させたBさんに対して、Aさんは遺留分減殺請求(事件は相続法改正前のもの)を行うことにして日付を入れた請求書を送付しました。
すると、Bさんの代理人弁護士から、Aさんの遺留分減殺請求は時効により消滅しており、BさんからAさんには何も支払わないと連絡があったのです。
驚いたAさんは、取引銀行の紹介を通じて当事務所に相談に来られました。
ここで、これまでの事件の流れを時系列で整理すると、
① 2018年01月 被相続人死亡
② 2018年03月 遺言執行者(信託銀行)がAさん、Bさんに被相続人の公正証書遺言を開示
③ 2018年05月 Aさんが相続税申告書に押印
④ 2018年10月 相続税申告
⑤ 2019年05月 Aさん相続税申告書の取寄せ
⑥ 2019年06月 AさんからBさんに対して遺留分減殺請求書を送付
(実際の事件を一部修正しています)
遺留分減殺請求(改正後の「侵害額請求」)は、自らの遺留分が侵害されたことを知ってから1年間行使しないと時効によって消滅します。
AさんからBさんに対して、遺留分減殺請求書を送付したのは2019年6月のため、1年前の2018年6月より前に遺留分が侵害されたことを認識できたとしたら、Aさんの遺留分減殺請求権は時効消滅したことになってしまいます。
2018年6月以前の出来事といえば、同年3月に公正証書遺言が開示され、同年5月にAさんは相続税申告書に押印しています。
Aさんの話によれば、公正証書遺言の開示は、遺言執行者である信託銀行の担当者が財産目録を読み上げただけで、財産全体の評価額等については説明を受けていないとのこと。
相続税申告書への押印についても、Bさんの配偶者から、とにかく判をついてくれと言われ、内容も十分確認しないまま押印してしまったとのことでした。
Aさんと何度も面談をする中で、Aさんの話には「うそ」がないことは分かりました。
自分には人を見る目がある、などと言うつもりはありませんが、話の中に嘘があるとどこかでつじつまが合わなくなるので、面談を重ねると依頼者の嘘は分かるようになります。
もっとも、Aさんが正直に話しているとしても、Aさんが公正証書の開示を受けたということや、相続税申告書に押印したということが法的にどのように評価されるのかは別の問題です。
特に相続税申告書には相続財産の評価額が記載されているため、いくらAさんが内容を十分確認しなかったと説明しても、Aさんの説明はそのまま通らない可能性が高いといえます。
そこで本件は、何とかBさんとの和解に持ち込むことを目標にして事件処理に着手しました。
さっそく代理人を通じてBに改めて遺留分侵害請求を行いましたが、Bさんからは従前と同じようにAさんの請求権は時効消滅しているという返答しか得られませんでした。
当事者間の協議で解決の糸口が見つからなかったため、家庭裁判所に調停を申立てました。
調停前置主義が採用されている遺留分減殺請求では、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは調停申し立てをする必要があります。
遺留分減殺調停では、調停委員を通じて、公正証書の開示や、相続税申告書への押印では遺留分侵害を知りえなかったことを主張したところ、Bさんからある程度の和解金の提示を引き出すことができました。
しかし、Bさんの提示した和解金の額に納得できなかったAさん、最終的にはBさんの提案を拒絶し、調停は不成立となってしまいました。
残るは訴訟ですが、判決となるとBさんにとって厳しい結果が予想されるため、訴訟でも和解の可能性を探ることになりました。
Bさんにも弁護士さんが付いているので、ただ解決金の額をアップしてくれといっても、当然Bさんは納得しません。
そこで、公正証書遺言の開示や相続税申告書への押印では自らの遺留分侵害を知りえなかったというAさんの主張を補完するあらゆる証拠を提出し、徹底的に争う姿勢を示しました。
当初は話し合いに応じる姿勢を見せなかったBさんですが、こちらの訴訟遂行を見てやがて和解による解決に応じる様子が見えてきました。
そして、訴訟提起から半年、最後は裁判官の説得もあり、Bさんは和解に応じることになり、Aさんに対して相当な和解金を支払うことで本件は解決しました。
最初の相談を受けてから解決まで約2年かかった事件でした。
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