解決事例

A子さんの夫B夫さんは地方で病院を経営する医師です。

B夫さんは病院長だけではなく、ライオンズクラブなどで役員を務める、いわば地方の名士でした。

A子さんとB夫さんの間には二人の子がおり、長男、長女とも旧帝大の医学部を卒業して、勤務医として大学病院で働いていました。

はた目には人もうらやむような生活をしていたA子さんですが、B夫さんとの離婚を決意したのは長年にわたるB夫さんの浮気が原因でした。

B夫さんの浮気相手は、もともと病院の看護師でした。

しかしA子さん知らないところで二人は関係を続けていました。

B夫さんの浮気に最初に気付いたのは、病院の経営母体の医療法人で理事を務めるB夫さんの母でした。

義母とA子さんの関係はもともと良好でしたが、義母は、B夫さんを後ろ盾に最近は病院の経営にまで口を出すようになった浮気相手のことをよく思っていないこともあり、実の息子の浮気をA子さんに教えてくれたのです。

B夫さんは今は医師として働く子どもたちが小さい時から家庭を顧みず、A子さんに生活費を渡す以外は子育ても含めて家庭のことはA子さん任せでした。

すでに夫婦関係は形骸化していたところに、今回の浮気を知り、A子さんはB夫さんとの離婚を考えるようになりました。

 

A子さんは地元から長女が暮らす京都に転居して、長女と暮らし始めました。

長女との生活が2年になろうとしていたときに、A子さんの下にB夫さんが離婚調停を申し立てたとの書面が裁判所から届きました。

書面には夫婦関係が冷え切っており、現在は別居もしているので速やかにA子さんと離婚をしたいといったことが書かれていました。

まさか浮気をしている夫から離婚調停の申し立てがなされるとは思っていなかったA子さんは、驚いて当事務所に相談に来ました。

 

A子さんに離婚について尋ねると、離婚をすると生活費が入らなくなるので、経済的な目途が立てば離婚をしたいということでした。

民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定されており、別居をしていても、夫婦は互いに扶養する義務があります。

したがって、専業主婦のA子さんは、離婚しない限りB夫さんに婚姻費用の分担を請求することができます。

離婚調停で離婚について合意できない場合、それでもB夫さんが離婚を望むのであれば、離婚訴訟を提起して離婚を争う必要があります。

裁判で離婚が認められるには、民法770条1項が規定する5つの事情が認められる必要があります。

その事情とは、「配偶者に不貞な行為があったとき。」、「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」、「 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。」、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」の5つです。

A子さんは現在、B夫さんと別居をしていますが、離婚を前提とする別居が長期化すると「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することがあります。

他方で、浮気をしている配偶者(「有責配偶者」といいます。)が、他方の配偶者に離婚を求めることは、特別な事情がある場合を除いて、裁判所は離婚請求を認めません。

そこでA子さんには、①離婚が成立しない限りB夫さんから婚姻費用の支払いを受け続けることができること、②B夫さんが浮気をしていたのなら有責配偶者からの離婚請求にあたり、B夫さんの請求は認められないこと、を説明しました。

 

調停では、A子さんに離婚するつもりはないこと、有責配偶者であるB夫さんからの離婚請求は認められないことを主張しました。

他方、B夫さんからは現在支払っている婚姻費用を減額するとの主張がなされました。

B夫さんからは、離婚に応じるなら解決金名目で財産分与を行うとの提案がなされましたが、A子さんが考えていたものとは程遠い金額でした。

結局調停では離婚の合意はできず、算定表に基づき婚姻費用の一部減額が認められて終了しました。

 

しばらくするとB夫さんは離婚訴訟を提起してきました。

訴状にはA子さんとの別居が長期化していることが離婚原因として記載されていました。

訴訟が提起された時点で離婚は3年目に突入しており、別居だけで離婚が認められるのかは微妙な時期でした。

しかし、B夫さんの浮気が立証できればB夫さんの請求は棄却されます。

ただ、A子さんにはLINEのスクショや浮気現場の写真といったB夫さんの浮気に関する明白な証拠がありませんでした。

そこで、A子さんと相談して、義母に陳述書を作成してもらい、そのなかでB夫さんの浮気について記載してもらうことにしました。

義母の負担を減らすために陳述書は全てこちらで作成し、内容に間違いがないことを確認してもらった後、義母には署名等押印だけをお願いしました。

 

訴訟の途中から争点は離婚原因の有無から、B夫さんがA子さんに支払う財産分如の額に移っていきました。

義母に協力をお願いしたところ、陳述書に加えて、病院の経営内容やB夫さんの収入が分かる資料を提供してくれました。

予想どおりB夫さんは高額所得者であったため、財産分与の額はその所得や貯蓄の額に見合ったものを要求しました。

義母の病院内での立場を考えて、義母から預かった資料をB夫さん側に開示することはしませんでした。

それでもA子さんが自らの収入や預貯金に関する情報を持っていると気づいたのでしょうか、B夫さんが提示した財産分与の額は、調停の時と比べて10倍程度になっていました。

 

最終的には、B夫さんが提示した金額にさらに数百万円を加えた金額で折り合いがつき、A子さんは離婚することに合意しました。

A子さんが得た財産分与額は、65歳から年金支給が始まることも踏まえれば、今後よほどのことがない限り生活に困ることはない金額でした。

離婚が成立した後、A子さんに訪ねると、離婚後も京都で長女と暮らすとのことでした。

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