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相殺の要件等(505条)
相殺の要件一般について規定する1項は改正前の条文のままです。
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
相殺禁止特約の効力を定める2項は、債権譲渡に関する規定が改正されたことから、趣旨を同じくする同項も改正され、また意義も明確にされました。
改正前2項
前項の規定は、当事者が反対の意思表示をした場合には、適用しない。
ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
改正後2項
前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
不法行為等により生じた債権による相殺については、その趣旨である①現実弁済の履行、②債権者の不法行為誘発防止の観点から、悪意による不法行為から生じた債権に限定すれば足りるため、相殺禁止の範囲が限定されました。
改正前509条
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
改正509条
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
① 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
② 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止
改正前の条文では、差押時に自働債権の弁済期が未到来、受働債権の弁済期が到来している場合、差押後に自働債権の弁済期が到来すると、第三債務者は差押債権者に対して相殺を対抗できるのか争いがありました。
改正前511条
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
判例は無制限説を採り、第三債務者がその債権を差押後に取得したものでない限り、自働債権、受働債権の弁済期の前後を問わず、差押後に相殺適状になれば相殺できるとしていました。
改正後511条1項にはこの判例法理が反映されています。
改正511条1項
差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
さらに、差押後に取得した債権であっても、差押前の原因によって生じたものである場合も、第三債務者に相殺を対抗できることが規定されました。
2項
前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。
ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
2項本文は、破産法67条1項(「破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる」)と趣旨を同じくするものです。
また2項但書は、破産法72項1項1号(「破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない」「破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき」)と同様に、相殺の担保的機能に対する期待が保護に値しないため、相殺を差押債権者に対抗できないとされました。
相殺の充当
改正民法512条では相殺の充当に関する判例法理※が条文に反映されました。
1項債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と、債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思表示をした場合において、当事者が別段の合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。
2項
前項の場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときであって、当事者が別段の合意をしなかったときは、次に掲げるところによる。
1号
債権者が数個の債務を負担するとき(次号に規定する場合を除く。)は、第488条第4項第2号から第4号までの規定を準用する。
2号
債権者が負担する一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは、第489条の規定を準用する。この場合において、同条第2項中「前条」とあるのは、「前条第4項第2号から第4号まで」と読み替えるものとする。
3項
第1項の場合において、相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときは、前項の規定を準用する。
※最判昭和56年7月2日民集35巻5号881頁
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