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新型コロナウイルス感染症拡大防止のための営業自粛を理由とする賃料減額請求
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、営業を自粛せざるを得ない飲食店では、営業ができない(=収入がない)状態にもかかわらず、固定費として賃料の支払いが必要な場合があります。
4月17日、国土交通省は、店がテナントとして入っている賃貸ビルの所有者が、店の賃料について減額や猶予に応じた場合、ビルの所有者を対象に、法人税や社会保険料の猶予、固定資産税の減額や免除を実施する。開会中の通常国会に関連法案を提出する方針であると報道されました。
それでは、テナントから、賃貸ビル所有者に対して、賃料の減額を請求するにはどうすればいいのでしょうか。
賃料減額請求権の発生要件
テナントの賃貸借契約(借家契約)については、借地借家法が民法に優先して適用されます。※
※借地借家法1条
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に必要な事項を定めるものとする。
借地借家法32条によれば、建物賃料の増減額の請求については、現行の建物賃料が不相当になったときは、契約の条項にかかわらず、当事者は将来に向かって建物賃料の増減額を請求できます。
賃貸借契約に建物賃料を減額しない特約(不減額特約)がある場合についても、
①同条は一般的に強行法規(当事者間の契約に優先して適用される法規のこと)と解されていること、②条文上も「契約の条件にかかわらず」増減額請求ができると規定されていること、
から、不減額特約は一般的には無効であると解されています。
そして、現行の建物賃料が不相当となる事情の変化を示す要因として、
① 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減
② 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
③ 近傍同種の建物の借賃の比較
新型コロナウイルス感染症拡大防止のための営業自粛が現行賃料が不相当となる事情にあたるか
上記②の「経済事情の変動」は、具体的には、物価指数、通貨供給量、労働賃金指数などの指標が考えられるといわれています。
もっとも、従来の賃料が不相当になった際、当事者が賃料増減額請求権を有する旨の同規定の趣旨については、事情変更の原則の一適用とみるのが通説です。
事情変更の原則とは、一般に、契約成立後、その基礎となった事情が当事者の予見できない事態の発生によって変更したために、当初の約束に当事者を拘束することが極めて酷になった場合に、契約の解除又は改訂が認められという法理です。
新型コロナウイルスの発生、その後の感染拡大、その感染拡大を防止するための営業自粛は、賃貸借契約締結当時、当事者の予期できなかった事態の発生といえます。
したがって、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための営業自粛は、現行賃料が不相当となる事情に該当すると考えられます。
賃料減額請求権の行使方法
賃料減額請求権はテナントから賃貸ビル所有者に対する意思表示によって行使されます。
意思表示は、口頭によっても、書面によっても行使できますが、請求内容を明確にするため、又は意思表示が賃貸ビル所有者に到達したことを確認するため、配達記録付内容証明郵便を利用することがおすすめです。
賃貸ビル所有者が減額請求に応じない場合
賃料の減額請求は、まず当事者間の協議によることが原則ですが、協議が整わない場合は、最終的には訴訟によって解決が図られることになります。
なお、賃料減額請求については、原則としていきなり訴訟を提起することはできず、簡易裁判所の民事調停の申立てを行う必要があります(調停前置主義 民事調停法24条の2第1項)。
民事調停の申立ては、テナント自身で行うこともできますが、弁護士等に依頼することもできます。
そして民事調停が不調に終わった場合は、最終的に賃料の減額請求訴訟で解決が図られることになります。
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