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病院や診療所からの法律相談で、時々あるのが問題のあるスタッフ(医師、看護師、薬剤師)を辞めさせたいのだが、手続きをどのように進めればいいのか、といったものがある。
院長の指示を守らなかったり、協調性がないスタッフがいると、作業効率や他のスタッフのモチベーションが低下する。
とりわけ院長を含めて10人以下の個人開業の診療所の場合、そのようなスタッフが一人でもいると、時に診療所の死活問題に発展することもある。
そこで問題のあるスタッフの解雇の可否について考えてみると、解雇には大別して普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類がある。
業績不振を理由に人員を整理する整理解雇についての説明は別の機会に譲るとして、通常、問題のあるスタッフを解雇する際には普通解雇、懲戒解雇の可否が問題となることが多い。
話は前後するが、まず懲戒解雇の可否(要件)は次のとおりである。
1.就業規則等に懲戒処分の根拠規定が存在すること
2.問題となる行為が当該懲戒事由に該当すること
3.懲戒解雇をすることの相当性が認められること
懲戒解雇をするには、少なくとも就業規則に懲戒処分の規定が設けられており、問題となる行為が当該規定に該当する必要がある。
その上で、懲戒解雇は最後の手段といえることから、通常は業務上横領などの重大な問題行動をのぞき、軽い懲戒処分(けん責→減給→出勤停止)から順を追って処分を行っていく必要がある。
したがって、懲戒解雇の可否については、普通の会社の従業員と病院・診療所のスタッフの間に特段の差異があるわけではない。
他方、普通解雇の可否(要件)は次のとおりである。
1.客観的合理的理由があること
2.解雇処分の相当性
このうち、客観的合理的理由に関する具体的な判断要素としては、
①業務遂行能力の不足、適性の欠如
②服務規程規律違反などの問題行動
などがあげられる。
普通の会社の従業員と、病院、診療所のスタッフについて実務上判断に差がつくのは「業務遂行能力の不足」の該当性である。
すなわち、医師、看護師、薬剤師といった専門職にあっては、ちょっとしたミスで人の健康や生命を害する危険性があるため、高度の業務遂行能力が要求される。
そのため、業務遂行能力の不足といった要件に該当するか否かは、一般的な労働者よりもシビアに判断される傾向がある。
特に、一定のスキルがあることを前提として採用している、転職してきた医師や看護師はそうであろう。
結果として、業務遂行能力の不足を理由とする普通解雇は認められやすい傾向がある。
こうしたことから、病院や診療所のスタッフを解雇する場合、普通解雇にするのか、懲戒解雇にするのかを慎重に検討する必要がある。
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